第11話 江ノ電に揺られて
江ノ電の江ノ島駅から、鎌倉方面に向かう四両の電車に飛び乗った俺らは、がらがらのシートに並んで座った。
「平日の午後って、江ノ電って空いてるんだな」
「う、ん…」
なんだか美依の態度が変だ。まっ、それはいつものことか…。
窓からは穏やかな湘南の海が見える。綺麗な青色の水面はキラキラと光っていて、ずっと見ていると眠気が押し寄せてきそうだ。
「しかし、ほんと、疲れたな。でも、今ごろあの二人は何処にいったんだと大騒ぎかもな」
そんな話をしながら美依の方を向くと、いつものようにもじもじと下を向いている。なんで、美依は顔を上げないんだろう?つーか、幼なじみの俺に恥ずかしいとかないだろう?
「あのさ、美依。なんでいつも下ばっかりむいてるんだよ。俺にも顔見せてくれよ」
「くっ」といいながら、さらにもじもじする美依。
「なぁ、顔見せてよ」
俺は、美依の顔を下から見上げる態勢を取る。
すると、『バシコーン』と大きな音がした。そう、美依に思いっきり頭を叩かれたのだ。
「痛っ!!!」
『ピローン』
【ごめん。私、太一の顔、見れないの】
「はぁ!?なんで!?」
【ごめん。今はまだ言いたくない】
「へっ!?」
【でもね、嫌いだからとかじゃないからね】
「それって?」
【好きだよ】
隣に座ってるのに、何故にライン!?と言いたいところだが、俺は感情が溢れ出してしまい思わず美依を抱き寄せる。
他の乗客から、ちょっと痛いやつらと思われてもいい…。
自分を好きでいてくれる人がすぐ傍にいる。なんて幸せなことなんだろう。
にしても、俺を見れないなんて、本当にどうかしてるぞ。一体どんな理由なんだろう?でも、なに!?そうか!これまでのあの態度はそれのせいか!?
心地よい揺れが俺の思考を段々低下させる。
海の煌めきと抱き寄せた美依の身体の温もりが、俺を眠りへと誘う…。
『美依、俺、お前の事、凄い好きだわ』
言葉に出来たのかどうかもわからないまま、俺は美依を抱き寄せた恰好で熟睡していた。
◇◇◇
『次は鎌倉、鎌倉。出口は左となります。どなた様もお忘れなきようご注意ください。本日は、江ノ電をご利用頂き誠にありがとうございました』
ん?なに?鎌倉!?まじっ!?
はっと目を覚ますと、美依も同時に目を覚ましたようだ。
「へっ?もう鎌倉なの?」
「そ、そうみたいだな。ちょっと小町通りでスィーツでも食べようぜ」
「うん。いいね。楽しみ」
改札を抜け、小町通りに向かっていく。
ここは、いつ来ても凄い人だ。平日でもこれかと思う位、人、人、人だ。
「太一、はぐれたか困るからいいかな」
美依はそういうと俺の左腕に自分の右手を絡ませてくる。
くっ、これって、完全な恋人歩きじゃないかよ…。
う、うれしい!!
俺の心は喜びの余り鼓動がテンポ150で16ビートを刻んでいる。余りにも早すぎて倒れそうだ。しかも身体全体が火照っている。それに美依の身体の温もりを感じようと密着している部分の感度が凄まじく敏感になっている気がする。
や、やばいかもしれない!俺の頭は爆発寸前だった。丁度その時、一本路地を曲がった所にジェラートの店を見つけた俺は、下心を悟られないように、美依に「ジェラート食べよ」と腕を引っ張り店の中に入っていった。
「いらっしゃいませ!」
「えっと、俺は、う〜ん。美依はどうする?」
「私は、ラズベリー、で、太一はグレープフルーツでしょ?」
な、、なんで、俺が頼もうとしているものが分かったんだろう!?
「えっと、じゃあ、それで」
「はい。ラズベリーとグレープフルーツですね。ありがとうございます」
店のショーケースをじーっと見る。
そこには、俺と美依の姿も映っている。ぐっ!!まだ、腕組んだままだった。
「はい。お待たせしました。こちらがラズベリー、そして、はい。こちらがグレープフルーツです。それにしても、仲良しさんですね。ふふっ」
うぎゃぁ〜。店員さんも痛いって思っただろうか?
「あの、太一、その、、。恥ずいじゃん!ばかっ!!」
そういうと美依はジェラートを片手に走り出していく。
慌てた俺は、店員さんに「じゃあ、ありがとう」と目で挨拶をしながら店を飛び出し美依を追いかける。
にしても、あいつ、本当に昔から足は速いよな〜なんて思いながら走る。でも、しっかりと視線にロックオンしているけど。
だが、結局、予想以上の人並みに美依の姿を見失ってしまった。
その時、いつものように『ピローン』とスマホが音を出す。
【私、グレープフルーツも食べたい】
へっ?自分で勝手に走り出して消えたくせに?何これ!?
【太一、私を探して。私はここだよ】
俺は、必死に目をこらす。どこだ、どこだ!?
あっ、見つけた!
美依は、小さな神社へと続く階段に座って下を向いている。
【見つけたよ。世界で一番可愛い女の子を】
美依は、左手に持っていたジェラートをぽろっとこぼす。
「ばかぁ〜!!!!!!!」
多くの人が行き交う小町通り。一本筋を折れたとはいえ、あれだけ大きな声で叫べばみんなが「なに?」と美依の方を見る。
美依はいたたまれなくなったのか、ジリジリと後退して、神社の階段をダッシュで登って行った。
もう、本当に世話が焼けるぜ、俺の幼なじみは…。
俺は、ゆっくりと階段を登っていく。きっと、あいつは一番上で俺のことを待っているだろう。
今日こそ言うんだ。あいつに…。俺はお前が好きだ。付き合ってくれって…。
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第十一話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「意気地なし」をお楽しみに!
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