第12話 意気地なし
しばらく小さな神社の境内にあった錆びたベンチに座って、俺と美依は鎌倉の海を眺めていた。高台にあるこの神社からは木々が邪魔をするものの、少しだけ開けた場所から海が見えるのだ。
「う〜ん。ここまで潮風が吹いてくるな」
「うん、とっても気持ち良いね」
「美依…!」
「えっ、なに、急に改まって」
「俺さ、あの、俺、、」
ジャリッと音を立て、美依に一歩近付いたその時…。
「見つけた!!!酷いよ〜。太一君と白石さん、二人でこっそりデートだなんて」
ぐっ、、、声の方を見ると、桜ちゃんが、はぁはぁいいながら階段を登り切ったところだった。
「おい、太一。お前、ほんと酷いな」
今度は、髙橋部長が桜ちゃんと同じことを言う。
髙橋部長の後ろでは、玉木が両手を合わせて、「すまん」と口パクで言っている。まったく本当に、使えない奴だ。俺に任せろとか言ってたくせに。
あと、ほんの数秒で、俺は美依に告白できたのに…。
「ねぇ、太一君と白石さんは、東京に帰るまでずっと二人っきりが良かったの?」
天使の様な声で悪魔のような事を聞く桜ちゃん。
これ、今、俺はどんな態度を取るのが正解なんだ!?あー、もう分からない。言葉に困って黙っていると、美依が冷たくこういった。
「はっ?違うわよ。たまたま太一とは二人で動いてただけ。ただ、それだけだから」
そういうと美依は、「みんな、行こっ。帰るの遅くなるよ」と階段を先頭切って降りて行く。
静かに背後にきた玉木が俺の背中をバチンと叩く。
「アホやな。お前。絶対に間違ってたぞ。さっきの。ちゃんと素直に言えばいいのにさ。もう、知らんわ」
「馬鹿やろう!お前のせいだろが!」
ぎゅっと玉木の脇腹をつねると、す、すまんと奴は情けない声を出した。
でもな、ほんとは玉木の言う通りだ。
あー、そうだよ。俺って、本当に意気地無しだわ。みんなの前で美依に自分の気持ちを言えなかったことで、結果的に美依を酷く傷つけてしまったのかもしれない。ほんと、自己嫌悪に陥る…。
結局、帰りの電車でも、俺と美依は八人掛けのシートの端と端に座り一言も口をきかなかった。あれだけ楽しかった二人デート…。なんでこうなったんだろう?俺は凄く哀しくなっていた。
その時、俺の腕がちょんちょんと突かれる。
「ふ?」
「ねえ、太一君。本当にお邪魔じゃなかった?なんだか白石さん怒っていたような気がするんだけど」
「う、ん。大丈夫。俺と美依は幼なじみだからお互いの事は知りすぎているしな。怒ってないと思うよ」
「そう?じゃあね。今度は、私と二人で買い物行かない?次の土曜日、新宿南口に午前十一時ね」
「えっ?」
「しーっ!」
桜ちゃんは、自分の口に人差し指を立てると、「もう黙っていて」という感じで俺を牽制する。いや、これって、駄目だよな。俺、美依が好きだって分かったし、どうやって断ればいいんだろう…。
その時、いつものように『ピローン』と音が鳴った。ラインだ。美依からだなこれは…。
【さっき、照れくさかったんでしょ?いいよ。気にしてないから。だけど、桜ちゃんとデートは嫌だからね。ちゃんと断って】
「へっ!?」
な、なんで俺が桜ちゃんにデートに誘われたってわかるの?美依って凄すぎる!!
でも、確かにそうだよな。
【わかってる。俺は、美依だけだから桜ちゃんとデートなんてしない】
そう打ち込んで送信した後、俺は桜ちゃんに小声でお断りを入れる。
「ごめん。桜ちゃん。俺、やっぱ行けないわ」
「えっ?なんで!?やっぱり白石さん?」
「う、うん」
「へぇ〜。やっぱり幼なじみって強いね。だけど、私は諦めないから。私は今度の土曜日、ずっと待ってるから。太一君が来るまでずっとね。嘘じゃないから」
そう言い放つと、桜ちゃんは、「みんな、じゃあね〜。今日は楽しかった。お疲れ様〜」と言い残し、電車から降りていった。どうやら、ここが最寄り駅らしい。
あー、俺は一体どうしたらいいんだろう?
俺が行かなかったら、桜ちゃんはずっと一人で待ちぼうけってことになるのか…。それは、余りにも申し訳無い。こんな俺のことを好きになってくれたのであれば、もっとしっかりと話あってきちんとお断りをしたい。
そう思った俺は、ラインに入力する。
【美依。俺、ちゃんと桜ちゃんと話をする。だから、一回だけ許してくれ】
【—————。知らない……。太一のばかっ】
今まで甘々だったラインが初めて険悪な感じになってしまった…。
はぁ〜〜!!!もう、嫌っ!!!
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第十二話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「美依とミイ」をお楽しみに!
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