第4話 買い物
今日は、久しぶりにスーパーにやってきた。
日頃はコンビニ弁当やカップ麺、冷凍食品などを食べている。総じて言えば栄養的にはかなり偏ったものを食べていて、塩分もきっと多いのだろうと思った俺は、今週くらい自炊をしないと駄目だと思い立った訳だ。
スーパーのお惣菜コーナーの前を通った際に見かけた唐揚げで、俺は昨日のことを思い出した。
昨日、玄関のドアノブにかけてあったビニール袋に、とても香ばしい唐揚げが入っていた。実は、それを一口食べて、俺は涙を流してしまったんだ。だって、これ、絶対に母さんの、母さんの味だよ。こんな味を再現出来るのはあいつ…、そう、美依しかいない…。
でも、一体いつのまに覚えたんだろう?こんなに料理が旨いんだったら毎日一緒に食べたいよ。
そんなことを思いながら、俺はまずは野菜コーナーからタマネギや子ネギ、カボチャ、ナス、トマトを無造作に黄色のスーパーのカゴに入れていく。
その時、向こう側から美衣とサークル『遊ぼ』の部長である高橋先輩がカートを押してきている姿を見つけ、俺は麺コーナーに咄嗟に隠れた。
えっ?美依って、髙橋先輩と付き合ってるのか?
ま、まさか…!?だって、あいつ、ずっと彼氏いないし今はそんなのいらないって言っているとかなんとか、そんな噂は間違っていたのだろうか?
「クリームシチュー?簡単ですよ〜。牛乳と生クリームのバランスを見ながら料理していけば基本炒め物にドバッとそれらを入れて終わりですから」
「そうか〜。そうなんだ。俺、昔からシチューには目がなくてさ。こう、秋が来たらシチューのコマーシャルとかテレビでよく見るじゃん?それ見るともう口がシチュー口になってるんだよ。ははっ」
「わかるー!ふふ。髙橋先輩って、可愛いところありますね〜」
「お、おまえ、先輩を揶揄うと承知しないぞ!」
「きゃぁ〜!」
「こら〜、待てぇ〜!」
ちょ、、ちょっと待て!!!俺は、今、何を見せられてるんだ?
これって、俗に言う『イチャイチャ』だよな?それも、彼女が彼氏に夕御飯ご馳走する的なかなりイチャ難易度が高い奴じゃないの?しかも、美依は俺の顔なんて見ないくせに、常に髙橋先輩を見つめているようにも見える…。
あ、ありえない!!!
美依…、お前、なんで…。
「あれ!?太一じゃん?何してるの?」
美依が、いつものようにうつむき加減で俺に声をかけてきた。
「おっ、おう。美依、お前こそ何してるん・・って」
「なによ、太一!!この野菜!全くいまいちなものばっか選んで!ちゃんと見たの?ここは安いけどその分、傷んでいたりするリスクはあるのよ。そんなことも知らないでまさかここで買い物しているの?」
「い、いや、、それは…」
「それはって!?」
「知りませんでした…」
「もう、馬鹿なの?前も絶対にここのストアのこと話したよね。覚えてないとかマジあり得ない!!今から、もう一度このカゴの中のもの全部戻して、一から買い物し直してきて」
「え〜、もういいよ〜。ちょっと痛んでたくらいさ」
「へ〜。そんなこというんだ。痛んだものを食べてお腹壊して病院いってもいいんだね。それに、明日食べようとしたらもう腐ってて捨てなきゃ駄目かもね。それって、払ったお金、ドブに捨てるようなものだよね!?それでもいいんだ。太一ってさ〜」
今日は、いつに増して美依の言葉にトゲがある。
なんだか落ち込んでしまう。俺って、本当にダメダメだ。本当に…。くっそ〜!!
「わかったよ。買い物し直すよ。それでいいんだろう!」
「そう、それでいいのよ。じゃあ、私は行くから、ちゃんと自分の目で選ぶのよ。しっかりと!!」
「へいへい〜」
「はいでしょう!!そこは!ほんと馬鹿!!もう、知らないっ」
そういうと美依は、カートを押してレジに向かって歩いて行った。髙橋先輩はドリンクコーナーから俺らのやりとりをハラハラしながら見ていたみたいだが、結局俺には一言も声をかけず美依と一緒にストアを出て行った。
それから俺は、もう一度野菜コーナーから真剣に手に取り見定めをしながら買い物をしていった。
果たして美依の言う通りだった。
箱の中には、中が傷んでいるもの、とても綺麗なもの、サイズが小さいもの、大きいものと無造作に入っているのだ。
だから、俺はしっかりと品定めをして、綺麗で新鮮そうでサイズが大きなものを選んでいった。一個百円もするトマトの中からとてもいいものをチョイスできた時は、自分が得したように嬉しく思えてきた。
あー、買い物って面白いな…、そんな気持ちが少しだけ芽生えた気がした。
その時、『ピローン』とラインの音が鳴った。
【太一、ちゃんと買い物できた?】
美依からのラインだ!髙橋先輩と歩きながらラインしているのだろうか?もしくは、もう髙橋先輩の家?もしくは美衣の部屋!?
【出来た。ちゃんと選べた。ありがと】
俺は、今どこなんだよ?と一番聞きたい事を書かずに送信した。
【ほんと!?良かった〜。太一、ちゃんとやればできるもん。私、それ知ってるからさっきはきつく言ったんだよ。でも、ちょっと言い過ぎたかなって思って。ごめんね】
なんて、可愛いんだろう。なんで、ラインの文章ではこんなに優しいんだろう?いつもこうしてくれたらいいのに…。なんて思いながら、俺は返事を打つ。
【美依、いつもありがとうな。俺は、お前がいないと駄目だよほんと】
【太一!!!!————またね】
急にばっさり終了されちゃった。
あいつ、髙橋先輩と付き合ってるのかな…?
その頃、美依は、自分の部屋で、溢れる喜びを必死でこらえながら何度も、スマホの画面を見ていた。
【美依、いつもありがとうな。俺は、お前がいないと駄目だよほんと】
美依は瞼を閉じ、両手を胸の上で合わせる…。
太一が私を抱きしめながら、この言葉を甘く耳元で囁いてくれたらどんなにかいいだろう?でも、現実にそんな事はあり得ない。
でも、私は、いつの日かそうなることを夢見て今日もラインで太一にキラーパスを送る。
【太一。ありがと。大好き…】
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第四話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「新歓コンパの打ち合わせ」をお楽しみに!
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