第3話 本音はどっち?
セブンスターからニコチン1ミリタールの銘柄に変えて約一ヶ月。
最初は、全く慣れなかったこの味にもだいぶん慣れてきた。
大きな声では言えないが、高校二年から吸っていた銘柄を変えるのはなかなか勇気がいったのだが、自分の健康を考えると少しは軽いものに変えた方がいいと思ったのだ。
だが、美依が突然俺の部屋にやってきて、とても困っていると一方的にまくし立てている…。
「太一!あのさ、私の洗濯物に煙草の臭いがつくのよ。なんとかしてくれない?」
美依は、いつものように、ちょっと下向き加減で俺に文句を言っている。
俺は、自分の部屋ではそんなには吸わない方なのだが、それでもどうしても吸いたいと思った時は、小さなベランダに出て吸うことが多かった。
なんでも、その際にベランダから流れた紫煙が美依の洗濯物に独特の匂いを付けるというのだ。
確かに、上着はともかく、下着が臭いのは気持ちが悪いと思うし…。
「はっ?下着!?」
俺は、ついつい美依の下着姿を想像して顔を真っ赤にしてしまう。
「そ、そうか。それは悪かったな」
「そ、そうよ。だって、洗濯物畳むときに煙草の臭いが付いていたらすごく嫌な気分になるのわかるでしょ?」
「……だな。わかったよ。無臭の電子煙草に変えるわ」
「あのさ、太一、もう、これを機会にやめたら!?」
「あー、でも、さ。今はいいじゃんか。電子煙草にするからさ」
「でも、一日に数本なんだったら、やめればいいのに」
「だけど、無性に吸いたくなる時があるんだよ。しょうがないじゃん」
「はぁ!?それをコントロールするのが賢い男って言うものでしょう!?それに身体に悪いからほんとに早く止めなさいよ」
「だってさぁ〜」
「だってって。太一、身体強い方じゃないじゃない?風邪引くと最後はいつも咳が酷いし。だから煙草は止めるべきだってば」
「へいへい〜」
「あー、もう、知らないっ!太一、早死にしても知らないから!そんなに吸いたいなら一生吸ってなさい!ほんと、馬鹿っ!」
そういうと美依は『バン』とドアを閉めて自分の部屋に戻っていく。そして、部屋に入るといつものように、俺のことをぶつぶつと呟いている。今日は声を絞ってるのか、内容まではわからないが、なにやらわめいているようだ。
すると『ピローン』と俺のスマホが音をたてた。美依からのラインだ。
【私、心配だよ。お母様、癌だったし…。だから、太一は絶対に癌とかになって欲しくない。だから、煙草はやめてよ…。お願いだから…】
正直、このテキストを見た俺は、しばらくスマホを持つ手が震えて文字を入力することが出来なかった。
美依……。本当だよな…。俺、母さんの分までも絶対に長生きしないとダメだよな…。
にしても、さっきは一生吸ってろって言い放って、ラインではお願いだから止めてって…。これって…。
でも、ここは俺が素直になるしかないな。美依は一つも間違って無い。
【わかった。じゃあ、俺、煙草止める努力する!ただ、もしも、もしも、口寂しさを美依がなんとかしてくれるんだったら、今からすぐに止めるけど】
【うっ。太一!ありがとう。私むっちゃ嬉しい。煙草やめてくれるんだね。わかった。ちゃんと考える。でも、う〜ん、心の準備が…】
え〜〜!心の準備って!!!!
俺、ちょっと美依をからかっただけなのに、もしかして、マジに取ってしまったとか?これって、チューのことなのか?どうなんだ!?
それから俺は、自分の部屋でバタバタと手足を動かし悶絶していたのだった。
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第三話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「買い物」をお楽しみに!
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