第38話 一難去ってまた一難
流石にもういないよな…。
俺、横峰太一は、現在、大学のサークル『遊ぼ』のメンバーと千葉の海岸にキャンプに来ている。このキャンプが決まった時から、サークルの美しき看板娘の二人、桜ちゃんと美依から甘い言葉をかけられた俺は、正直最高の思い出になるだろうと意気込んで来たものの、なんだか違う方向へと行っているような…そんな気がしていた。
漸く俺は美依と付き合うことになった!?と自分では思っているのものの、なんだか思っていた感じとは違っている。
つーか前より叱られているような気がしてならない。
それは、塩谷あかりという女性の存在が俺と美依の間に大きな影を落としているからじゃないだろうか。
俺の母さんが入院していた時、隣のベットで愛らしく笑っていたあの少女がまさかあんなナイスバディになるとは…。
いや、この発言は撤回して、、、。もう一度冷静に状況を把握しておこう。あの塩谷あかりのせいで、俺は危うくあいつのシャツの下に手を入れるところだった…。
「あのね、それって、太一君がだらしないし辛抱出来ない体質だからでしょ?」
はっとして振り返ると潮風が乱した髪を片手ですきながらニコッと笑っている桜ちゃんがいた。
まさか、俺の心の声がダダ漏れになっていたのか?
「桜ちゃん、ひ、酷いよ。そんなんじゃないし」
「ふ〜ん、まあ、いいけど。ところで、太一君、白石さんと付き合ってるって本当なの?」
ぐっ。本当ならば一番聞かれたくない質問だった。正直、俺もどうなってるのかさっぱり分からなくなっているから。
だけど、ここはしっかりと男を見せなければならないだろう。俺は、美依が好きで美依を一生守って行くと決めたじゃないか!さぁ、言うぞ!しっかりと言うんだ!太一!!
「俺ッ…」
「やっぱりいい。何も言わないでいい。関係ないからそんなの。私の気持ちは変わらないから」
い、いや。言わせてください。桜ちゃん。
だって、今、言わないと、俺、きっとあとで酷い目に遭うような気がしてならないんです。だから、きちんと、言わせて!!!
「いや、桜ちゃん!聞いてっ…。えっ」
俺が言おうとした時、胸にジーンとした温もりがあった。
桜ちゃんの頭が俺の胸に…、そして両手は俺の腰に絡みついている。
「少しだけ…。少しだけでいいから…。このままで…」
俺は、もう何が何だかわからないまま、その場にずっと立ち尽くしていた。
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「よう!太一〜!お前、なんで来なかったんだよ。最高だったぞ。潮干狩り競走。俺、惜しくも二位だったんだけど三十四個も取ったんだぞ〜。凄いだろう〜」
玉木は、俺の肩に腕を回すと、左手に持っているバケツの中身を自慢げに見せる。
「そうか、良かったな」
「えっ?つーかそれだけっ?なに、どうしたの?テンション低いじゃん〜。太一、お前、まさかもう白石さんとケンカしたとかじゃないだろうな?」
とにかく、この玉木という男、俺の感情を読むのが上手いんだよな。まあ、そうだな。こいつに隠しておく訳にはいかないか…。
「玉木…、ちょっと相談に乗ってくれるか?」
「おうっ。勿論だ。俺とお前の仲じゃないか」
二人で、海岸添いに歩いていく。
「なあ、俺、どうしたらいい?この歳になってモテ期が到来しているんだよな〜。どうしよう?なあ、どうしたらいい?三人の美女から言い寄られるってありえないだろう?なあ、玉木〜〜」
「はぁ!?どうでもいいわっ。好きにしろ!もう俺知らん!!」
凄い剣幕でコテージの方に走っていく玉木。
もしかして、あいつ、俺が美依に振られたとかそんなことを思っていたのだろうか?
まあ、確かにそうだよな。
だいたい、こんな自慢話みたいなものって誰が聞いてもムカつくよな。俺、どうかしてたよ。玉木に謝ろう…。
息を切らしながら全力でコテージまで戻って来た俺は、玉木の姿を探す…。あっ、いたいた。
「おーい、玉木〜。ごめんな。さっきの事だけど…」
「太一!!!!!!!!!!」
へっ?
「何、太一って、三人の女性に言い寄られて困ってるんだ。へ〜、それをニヤニヤしながら嬉しそうに玉木君に相談したんだって?」
一難去ってまた一難…。
玉木の野郎、よりによって美依に言わなくても…。
「いや、そ、そんなつもりは…」
「じゃあー、どんなつもりなのよ?信じられない!!!その三人の中に私がいるってこと事態が恥ずかし過ぎる!もう、太一なんか、知らないッ!!!」
美依は、そういうと、今日何度目かのダッシュで、俺の前からいなくなった。
あー、マジで落ち込む…。なんか、最近、いいこと一つもないや。
『ピローン』
スマホが鳴った。俺はズボンのポケットから素早くスマホを取り出す。
あっ、美依だ。
【私、三人の中だったら、一番可愛くないし、ガミガミ言うし、女の子っぽくないし、それにエッチでもないし…。太一は、私よりも他の二人の方がいいんだよね】
はぁっ。今日の美依はやけにネガティブじゃないか。
【ごめん。俺、調子に乗ってた。というか、三人の中どころか世界中で美依が一番好きだよ】
『ピローン』
【ほんとう?】
【本当だってば】
『ピローン』
【ほんとにほんと?】
【ほんとにほんと!】
『ピローン』
【もう一回言って…】
【だから、美依が一番好きだってば!!】
『ピローン』
【ふふ。でもね、私の方が、もっともっと太一のこと好きだもん!!!】
あ〜、俺が好きになった女の子は、なんて可愛いんだろう。
俺は、部屋の壁に持たれながらラインに綴られた言葉をもう一度見返す。
【私の方が、もっともっと太一のこと好きだもん!!!】
俺、やっぱり、美依には適わないや…。
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第三十八話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「朝陽の中で」をお楽しみに!
皆さま、どうぞお時間のある時に遊んでいってくださいね!
引き続きよろしくお願い致します。
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