第37話 俺が悪い?

 塩谷あかり、こいつはちょっとやばい。

 いや、ちょっと処ではない。間違い無く危険人物だ。


 頭の中では、サイレンが鳴り響いているのだが、こんな時でさえ根がヘタレな俺は体に力が入らず、玄関で座り込んでしまった。

いや、正確に言うと、塩谷あかりに押し倒されているのだ。


「私、貴子さんに太一君のお嫁さんになる許可をもらっているよ」なんて、嘘に決まってる。母さんがそんな事を軽々しく言う訳がない。きっと、こいつが捏造しているのか大きな勘違いをしているに違いない。

 ここは早く体制を立て直して、集合場所に急がないと…。

 

 そう思った時、塩谷が猫なで声で話しだした。


「ふふっ。どこ見てるの。太一君のエッチ!!!」

「ど、どこも見てないわ!勝手なこと言うなよ」

「え〜〜、ほら、ほら、今っ、ほら!私が動くと上下に揺れるところをチラッチラッとみてるじゃない。ふふっ。いいよ。太一君なら、服の下に手を入れて自由にしていいんだよ…」

「くっ…」


 俺が言葉に詰まっていると、ドアが急に開いた。俺と塩谷あかりは驚きの余り床に転げ落ちた。


「やっぱりね。来て良かったわ。なんだか胸騒ぎがしたのよ。塩谷さん、集合時間は過ぎてるわよ。太一を揶揄うのもいい加減にして。ほら、行きなさい。ほら、早くっ!!!」


 怒気を含む美依からは、正直かなりヤバいオーラが出ている。だが、流石、美依だ。できるだけ冷静に…と自分を律して声を発している。

 上から目線の塩谷も所詮大学一年生。先輩である美依の注意に怖じ気づいただろうと思いチラッと顔見ると、彼女はなんと不適な笑みを見せている。


「あら、白石先輩。太一君はまだ先輩のものになった訳ではないですよね。私、太一君と結婚することを太一君のお母様に承諾を頂いているんですよ…。だから、先輩から身を引いてください」


 美依の顔が真っ赤に染まっていく。恥ずかしさではなく、怒りで血が上っているのだろうか…。


「あのね…。ふっ。もう一度言ってあげる。いいから、早く行きなさい。い、き、な、さ、い!!!」


 今度の声は更に迫力満点。こ、怖すぎるっ!!!なのに、塩谷は全く顔色を変えずに立ち上がる。


「はいはい。まぁ、いいかっ。邪魔者が入ったから、今日は大人しく戻りますよ。でもね、白石先輩。私は、自分の信じる道を歩んでいきますから覚悟してください」

「いいわ。よく言ったわね。貴方のその信じる道って言うやつがいつまで続くか見物だわ」


 美依の怒オーラをものともせずに、塩谷あかりは、「太一君、またね〜」と軽い調子で手を振って集合場所に向かって歩いていった。


「た、助かった〜〜!み、美依、ありがとう。ほんとにアリガト…」


ありがとうと心からの感謝の気持ちを伝えるべく、美依に向かってハグをすべく両手を差し出したのに、「バチーン」と目一杯の力で叩かれた。


「太一、これ、どういうことなの?説明して」

「いや、美依さん!?ちょっと冷静になってって、はっ!?俺か?俺が悪いのか?ち、違うだろ!?あいつ、塩谷が悪いんじゃんか。絶対にそうだろう?」


 ん?美依?どうしたんだ?

 俺が必死で弁解をしているのに、前みたいに俺の顔を見ずに下を向きっぱなしなのは、何故?


「ううん。太一、太一が悪いのよ。だってそうでしょ?太一って、可愛くて胸が大きな女の子だったら誰でもいいんでしょ?そうでしょ?」

「そんなわけないじゃんか?分かるだろう?俺には、美依しかいない…」

「嘘おっしゃい!!!ほらっ、そのもう一人の人格さんは喜んでるじゃないの!!!」


 げぇ、、確かに。ズボンの中央が、膨らんでる!

 

 は、恥ずかし過ぎる〜〜!。でも、これは、俺の心とは関係無く、男としての生理的現象というか…。

 だって、服の下に手を入れていいって言われたことなかったんだもん。


「バカッ!太一の大馬鹿!!!」


 美依は外に飛び出していった。

 残された俺は、力無くぺたりと床に尻餅をつく…。


 やっちまった。ちょっとこれはやばいかもと思っていたら、『ピローン』とラインの音が鳴った。

 俺は慌ててスマホを確認する。


【太一、ごめんね。言い過ぎたよね。反省しているから、私を許して…】


 あー、良かった。美依からだ。

 ん!?でも、なんだ!?また、ラインの中でのデレが始まったのか!?


【わかってるだろう?俺には美依しかいないことを】

【太一〜〜〜!!!それ、本当?】

【バカッ、こんなの本当じゃなきゃ恥ずかしくて言える訳ないだろう?】

【太一〜〜!!!ありがと。大好き〜〜〜!】


 あ〜、良かった。

 リアルタイムで美依の怒オーラを見たのは久しぶりだったがほんとヤバかった。俺、正直、泣きそうだったもん。


 そう思った時、またスマホが鳴った。

 ん?誰だ?美依か?いや、ショートメールだ…。


『太一君、今度は二人でもっといちゃいちゃしようね。あかりんより』


 くっ…。あ、あいつ…。

 でも、こんなことくらいで動揺していたら駄目だ。俺がもっとどしんと構えてないと、あんなやつに舐められてしまうよな。そして、俺と美依の為にも塩谷あかりとはなるべく早くきっちり話をしなければ…。


 ふと、時計を見る。


「ノォーーーーーーーー!!!!」


 集合時間から既に二十分が経過していた。


 髙橋先輩は時間には厳しい人だから、俺、きっと今日一日このキャンプ場の清掃をやらされるとか、きついお仕置きが待ってるんだろうな。


 超憂鬱な気持ちを抱えながら、俺は集合場所の海岸沿いにある大きなウサギのような岩に向かって歩き出した。




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第三十七話を読んでいただきありがとうございました!

次回、「一難去ってまた一難」をお楽しみに!


皆さま、どうぞお時間のある時に遊んでいってくださいね!

引き続きよろしくお願い致します。






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