第18話 懐かしい味
病院から、電車を乗り継ぎ、美依と俺の住むアパートに到着したのは午後八時を過ぎたところだった。美依の部屋を開けると、美依の母親である恭子さんが笑顔で出迎えてくれて、さらには夕食を作ってくれていた。
「太一君。久しぶりね。また、背が大きくなったんじゃない?あっ、ごめんね。美依のこと、本当にお騒がせしました。ありがとうね」
「お母さん、また、やっちゃった!!!」
そういうと美依は恭子さんの胸に飛び込み静かに静かに泣き出した。
恭子さんは、俺の方を見るとウインクして、片手で、どうぞ上がってというような仕草をした。
「お邪魔します」
俺はそう言うと美依の部屋へ上がった。
部屋を見渡す。うん、美依らしい。まさに美依の部屋だという印象を受ける。
シンプルな家具、そして必要最低限の家電など、とにかくとてもすっきりとしている。だが、カーテンやカーペットは薄いピンク色で統一されていて女の子の部屋という感じだ。
そうか…、実は、もう二年も経つのに俺は美依の部屋に初めて上がったんだんな。
そう思うと、なんだかそわそわしてどこに座っていいのかも分からない。だから、俺はじっと突っ立ていたのだ。
「太一君、ほら、ここに座って」
恭子さんの声で『はっ』とした俺は、「あっ、はい」とちょっとお間抜けな声を出しながら言われた通り、テーブルの右側に座った。
「はい、美依は、こっちね」
美依は、俺の向かいに座る。だが、ずっと下を向いたままだ。
「じゃあ、食べようか。時間が無かったからカレーライスとサラダだけなんだけどね。はい。太一君、どうぞ。沢山作ったからお代わりしてね」
「は、はい。ありがとうございます」
「ほら、美依も、食べないと駄目よ。貧血なんでしょ?貴方のサラダには、地元の農家さんから分けて貰ったほうれん草を沢山入れたからちゃんと全部食べるのよ」
「うん、母さん、ありがと」
「さぁ、じゃあ、食べよ!細かい説明は食べてからしましょう。いただきます」
恭子さんは、そういうとスプーンでカレーを一口食べる。
「うん、良い感じ!」
俺も、色々とあって、お腹が空いていたよううだ。なんとも食欲がそそる香りにつられスプーンに大盛りに乗せたカレーを口に運ぶ。
「えっ!これって…」
この味を忘れるわけがない。これは、俺の母さんのカレーの味だ!なんで、恭子さんが!?
「太一君、わかった?これ、貴子さんのカレーでしょ?そう、前にみんなでキャンプ行った時に食べた貴子さんのカレーがとっても美味しくて、レシピを貰ってね…。それから我が家はずっとこのカレーなんだ。美味しいよね!!」
あー、泣きそう…。う、上手い!そして、母さんの顔が目に浮かんでくる。必死で涙を堪え、スプーンを快速で皿から口ヘ、口から皿へと運ぶ。
「お代わりいいですか?」
涙を流すのを見られたくない俺は席を立つと、テーブルから台所へと向かいカカレーを大盛りで装う。
この前、食べた唐揚げといい、今日のカレーといい、母さんの味がこうして引き継がれていってるなんてとても嬉しい。
俺は、シャツの袖で涙を拭うと、「このカレー、最高です!」とテーブルへ戻って行った。
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第十八話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「日曜の朝は、パン?ご飯?それとも?」をお楽しみに!
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