第40話 同じ部屋に!?

 千葉のキャンプ場から途中渋滞に巻き込まれながらもほぼ時間通りに大学に戻ってきた俺たちは、前の席に座っていたメンバーから順番にバスから降りる。

 自然と髙橋先輩の周りに集まっていく。やっぱり先輩の存在感って凄いや。


「みんな、お疲れさま!事故もなく無事にこのイベントが終わってとても良かった。みんな、かなり楽しめたんじゃないかなと思うけどどうだった?」


「「「「楽しかったですっ!!」」」


「よし!ありがとう!じゃあ、これを機に、この『遊ぼ』の先輩である曽根さんのキャンプ場をどんどん使ってくれよ。あっ、SNSでの宣伝も忘れずに頼むぞ!」


「「「は〜い」」」


 バスの中では爆睡していたにも関わらず、みんな凄く元気だ。


「次はみんなお待ちかねの夜鍋祭りを実施する。えっと、再来週の金曜日の夜だな。みんな予定空けておけよ!はいっ、家に戻るまで気を抜くなよ。じゃあ、解散〜!」


 髙橋先輩の号令でみんなバラバラに帰路につこうとした時、


「あっ、言い忘れた。バスの集合時間に遅れた太一と白石は、罰として活動報告書を作成して提出、そして、コンロや余った炭を専用ロッカーまで戻しておいてくれ。いいな太一と白石」


「はい…。すいません」


 実は、夜に二人でコテージを抜け出し、砂浜でイチャついたところまでは良かったのだが、不覚にも二人共いつのまにか爆睡してしまい、気が付いたら朝陽はとうに昇り、帰りのバス集合まであと何分というところだった。

 俺は、美依の手を取ると、猛然とダッシュでコテージに荷物を取りに帰り、慌てて準備をするも結局みんなを三十分近く待たせてしまった。

 遅れてバスに乗り込んだ俺らを多くの人は、やいのやいのと茶化したが、桜ちゃんと西谷あかねだけは冷めた表情で俺を見つめていたっけ。


 あー、思い出しても背筋を冷たい汗が滑っていく…。


 俺と美依はなんとも罰が悪い顔で、荷物をロッカーに運び、そして、学生課の椅子に座って活動報告書を書くと提出はこちらと紙が貼ってあるトレーの上に置く。


「じゃあ、行こうか」


 無言で頷いた美依と俺が、駅に向かって歩こうとした時、「待って」と背後から呼び止められた。


 振り向くとそこには、西谷あかねが立ちすくんでいた。


「家に帰るんでしょ?じゃあ、私も一緒に帰ってもいいかな?」

「はあっ?俺は美依と夕飯の買い物でもして帰るからお前一人で先に帰れよ」

「へぇ〜、私も買い物するけど!?それに、貴方たちのおかげで貴重な時間を三十分も無駄にしたことを忘れたとは言わせないわ」

「・・・・・」


 それを言われると俺にはもうなにも言えない。

 美依も下を向いたままで言い返そうとしない。

 いいのか!?これで!?


「じゃあ、行きましょう」


 西谷はそういうと俺の左手に腕を絡ませなにか上機嫌で歩き出した。


 途中、スーパーで買い物をした際、なんとか西谷を巻こうとしたが失敗に終わり、俺らは結局三人並んでアパートに向かっている。

 

 でも、これ…、冷静に考えれば両手に花ってのはこのことだろうな。

 とにかく行き交う男性達の視線が非常に痛い。「なんであんなのに?」「あの二人、かなり可愛いよな」なんて会話も聞こえる。

 

「あのね!俺が好きでこんな罰ゲームみたいなことやってないんだよ!」と大声で発したいところではあるが、流石にそんなことは出来ない。

 なら、一秒でも早くアパートに向かって歩くのみだ。俺は、さらに歩くスピードを速める。


「もう、太一君たら、そんなに急いだら白石さんの息が上がるわよ」

「あのね、塩谷さん。私を見くびらないでくれる?こんなの楽勝よ」

「あらっ〜そうなんだ。じゃあ、どっちが先にアパートまで着くか競争でもする?」

「へ〜、そちらこそ、負けて地団駄踏まないようにね」


 おいおい、子どもじゃないんだから、そういうのは止めましょうよ。


「じゃあ、太一、これ持って」「太一君、私のも持ってくれる?」


 二人は、俺にスーパーで買った荷物を預けると、「スタート」というかけ声の下、走り出した。



 おいおい、どれだけマッハで走ったんだよ。ふう。


 実は、俺も荷物を持ったまま走ってアパートに向かったのだが、行けども行けども彼女らの姿が見えない。そうこうしているうちに、アパートに着いてしまったが、アパートの階段の前で二人はにらみ合っている様に見えた。


「太一、ありがと」「太一君、荷物ありがとう」


 美依と塩谷あかりは、俺に不自然な笑顔を向けたと思うと奪うように俺から荷物を取り階段を登っていく。


「太一、じゃ〜また、あとでね」「太一君、あとでショートメールするから返事してよね」


 部屋に入る前に、二人は俺に声をかける…。

 一体、この状況って…。ヤバすぎだろう!?俺、モテモテか?本当に!!!



 まずは、シャワーを浴びよう。

 そうしたらなんだかいい答えが出そうな気がした。


 まず…、俺は美依が一番だ。桜ちゃんは可愛いとは思うけど美依への思いとはまた別物だ。塩谷あかり!?これは論外だ。だって、母さんのことを持ち出してくるなんて反則だしな。


 だったら、俺はどういう態度を取っていけばいいんだ?


 バスタオルで髪を拭きながら風呂場から出た瞬間、『ガシャッ』と鍵が開く音がしたと同時にドアが一気に開く。


「太一、なんか私の部屋、電気付かない。まっ暗だし…。それにシャワーも使えないの。炊飯器も動かないし…。なんでだろう?太一の部屋は…、大丈夫そうだね」


 美依は、煌々と灯る俺の部屋の照明とシャワーから上がった俺を見るとちょっと安心したように小さな声でつぶやいた。


「私、今日、ここに泊まってもいい?」

「へっ!?」

「だって、管理人さんは明日しか連絡つかないと思うし」

「そ、そうだよな。まぁ、散らかってるけど、お前が良ければどうぞ」

「うん、ありがと。じゃあ、ちょっと着替え取ってくるね。懐中電灯ってある?」


 部屋の奥で埃を被っていた懐中電灯を渡すと、「じゃあね」と言って美依は自分の部屋に戻っていった。


『どうする?どうする?どうなる?太一!!!』



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第四十話を読んでいただきありがとうございました!

次回、「特別に許してあげる」をお楽しみに!


皆さま、どうぞお時間のある時に遊んでいってくださいね!

引き続きよろしくお願い致します。




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