第34話 キャンプでの出来事
今、俺は、潮騒を聞きながら夕陽が落ちるのをじっと眺めている。
砂浜に直に座ったまま見つめている青い波はずっと同じビートで、寄せては帰るを繰り返す…。まるで勇気を出せなかった今までの俺みたいだ。
だが、今、隣には美依がいる。時折俺の方を向くと最高の笑顔を見せてくれる。俺の手は美依の肩を抱いている。
あー、なんだか、無性にキスがしたい。こんなシチュエーションで何もしない方がおかしいってもんだろう。それに、きっと美依も待っているだろう。
俺は手に力を入れると美依をぐっと抱き寄せた。
「えっ、太一…。ばかっ。誰かが見てるかもよ」
「いいよ。だって、俺と美依は付き合っているってこと隠すつもりはないし」
「た、太一…」
美依の唇に俺の唇が触れる瞬間……
『バチコーン』という大きな音と衝撃で実世界に無理矢理引き戻された。
えっ!?俺は夢を見てたのか?
「あほっ!太一、俺の、俺のファーストキスを奪う気か!!」
玉木が自分の唇を両手で隠しながらもぞもぞとしている。
くっ、や、やばかった!もしかして、俺、玉木と熱いキスを交わしていたかもしれない。いくら長い付き合いとはいえ、男同士のキスはやっぱ考えられないし、きしょい!!!
「ご、ごめん!!俺、美依の夢見てて…」
「ん?美依?って…。お前、もしかして、まさか…!?」
「あっ」
「ん?美依って、白石のことか?」
俺はもう覚悟を決めた。
そもそも俺はサークル全員に知られても構わないと思っているし。
「そうだよ。俺は美依と付き合ってるんだよ。駄目か?」
「おー、まじっ!?良かったな〜〜太一!!!俺、凄く心配してたんだぞ。だって、髙橋先輩がっ…。あっ、ま、、いいか」
普通、こんなに歯切れが悪い奴じゃないのに何故か急に話を止めてしまった玉木を俺はジト目で見つめる。
「あー、なんもないって。だって、お前と白石が付き合ったんだったら、他のやつらもきっと諦めるだろうからな」
他のやつらって、そんなに美依は人気があるのか?
まあ、このサークルの中でも美依はトップスリーには入るし、当たり前なんだろうけどちょっと心配だ。
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千葉のオートキャンプに来た俺らは、初日は海岸でビーチバレーもどきで汗を流したり、海釣りをしたり、持参したマシュマロを焚き木で焼きつつコーヒーを飲んでる奴らもいた。またアウトドアチェアーでゆったりと舟を漕いだり、ずっと読書をすうるなど各々がやりたいことを思いっきりやっていた。
まさに、それこそがこの「遊ぼ」の醍醐味なんだけど、なんだかいつもより美依が元気じゃないと感じた俺は、何度かラインを送るも【大丈夫】といつもよりも素っ気ないラインの返事が返ってきた。あいつ、大丈夫なんだろうか?
あー、そんなんでずっと気になっていたから、美依の夢を見たのかも知れないな。
「太一、ヤバいぞ。今日は八時にキャンプ場入口に集合だったよな。あと五分しかないぞ」
「まじか!?さっと着替えていくから、お前は先に行っててくれ」
「おう。じゃあな」
「おう」
玉木が先にドアを開けて出ていくのを横目で見ながら、スウェットを脱いで長袖のシャツを着た俺は、急いでスニーカーを履くと外に飛び出した。
だが、結局俺は外に出ることは出来ず、玄関に座り込む形で尻餅をつく。
なぜだ?ん?どうやら、俺がドアを開けようとした瞬間、急に誰かが外から部屋に入り込んできたみたいだ。
正直、俺の頭は混乱に陥っていた。はっ?誰?と思った瞬間、良く知る甘い香りが俺の身体を包み込む。
「太一君、この香り、好きでしょう?」
俺を見つめる瞳が尋常で無い状況を物語る。
俺は、声を出すことも出来ず、ただずっとその女性を見つめていた。
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第三十四話を読んでいただきありがとうございました!
次回、「もう一人の…」をお楽しみに!
皆さま、どうぞお時間のある時に遊んでいってくださいね!
引き続きよろしくお願い致します。
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