第15話 映画

 新宿南口、多くの人がこの改札の前で待ち合わせをしている。

 俺は、大きなポスターが貼られた柱に背を預け、桜ちゃんを待っていた。

 美依は!?美依はどこから俺を見ているんだろうか…!?そう思うと、全く落ち着かない。こんなの俺の精神力で耐えれるもんじゃないよ。あー。


「太一君〜〜!ごめんなさい〜〜!待った!?」


 行き交う男グループや、彼女を待っているであろう男達の視線も桜ちゃんに集まる。あー、やっぱり可愛いんだよな〜。守ってやりたいと思わせるような雰囲気を纏った感じというのかな…。でも、今日の桜ちゃんは、ちょっと違う。いつもの感じではなく、所謂大人女子コーデがこれまた似合っているのだ。

 細い身体にしっかり主張する胸元がゆったりと開いたグレーのシャツに黒のカジュアルなジャケットを着て、そして、さっきの男共を悩殺したのは超タイトなミニのスカートから出た細い足。なんだかちょっとエロカッコイイと感じるのは透けてそうで透けてない黒のストッキングが成せる技か…。なんて、俺も桜ちゃんを凝視していたら、少し向こうから「太一!馬鹿っ」と声が聞こえた。


 えっ!?美依か?


 意識がぐいっと現実に戻る。

 駄目だ、駄目だ。こんなにデレッとしたら後で美依に何をされるかわからないぞ。それに俺が好きなのは美依だし…。もっとしっかりとしないとと思った俺は、無意識のうちに両手でパチンと頬を叩き気合いを入れ直す。


「た、太一君。ど、どうしたの!?いきなり自分でビンタするなんて…」


「いや、ちょっと昨日夜が遅かったので、しゃきっとしないとと思ってさ」


「ふふふ。変なの!どう?今日の私。いつもとは違う感じでしょ?」


「う、うん。凄く、エロ、いや、カッコイイというか大人女子だね」


「え〜!!そう感じた!?嬉しい〜〜!私、いつも妹的な感じでしか太一君に見られてないと思っていたから今日は頑張って大人女子にしたんだよ」


「そ、そうなの。凄く似合ってるよ」


「ありがと!!!そして、今日は、なんだか無理に誘ってしまって、本当にごめんなさい。白石さんには内緒にしておいてね。私も気まずいから…」


『ゴホっ、ゴホっ、あっー、うっー』


すぐ近くの柱から変な声が聞こえる。これって、これって…。



「じゃあ、行こう!今日は、前から見たい映画があって、太一君と見たかったんだ」


「桜ちゃん、まずはきちんと話を…」


「駄目だよ、だって時間がもうないもん。予約もしてるから。さっ、行こっ」


 そう言うと桜ちゃんは俺の右手を遠慮がちに持つと少し引っ張る様に歩き出した。まあ、映画が終わったら多分、ランチとかするんだろうから、その時かな…なんて思っていたら、『ピローン』と音が鳴る。


【私、太一と映画、見た事ないのに、酷いよ。酷い】


 ぐっ!!!!!

 ど、どうすれば…。どうすればいいんだろう!?


【ご、ごめん。今度、美依の好きな映画をペアシートで見ような。ほんとごめん】


【太一は、優しすぎるんだよ。でも、そこが太一の良い所でもあるし…】


 ふう、どうやら、許して貰えたようだ。


【じゃあ、私、太一の後ろの席に座ろっかな】


 へっ!!!!


 あり得ない!一体俺はどんな修行をやらされているんだろう?やっぱり、早く桜ちゃんに俺の本当の気持ちを言わないと駄目だ。そう決心しながらも、受付でチケットを受け取ると嬉しそうに席を探している桜ちゃんを見ると、この場では言えるはずもなく、俺はただただ、桜ちゃんの後ろを何とも言えない気持ちで歩いていた。


————————————


第十五話を読んでいただきありがとうございました!

次回、「ランチは手短に」をお楽しみに!


あと数話で第一章を終える予定です。

第二章スタートまで少しお時間を頂く予定です。

引き続き、ツンデレな美依と優柔不断の太一のドタバタラブコメをどうぞよろしくお願い致します。

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