第36話 開会式と嫌な予感
グラウンドに着いて、まず俺たちがすることは開会式だった。
各分団、それぞれ背の高い順に並び、蒸し暑い中、長々と校長だったり、生徒会長だったり、お偉いさん方の話を延々と聞かされる。
小学校、中学校に比べて、保護者の数はどちらかといえば少ないから、ギャラリーの方もそれほど多くない。
ただ、多くないとは言っても、まったくいないというわけでもなく、張られたテントの中にはそこそこの数の親たちが楽しそうに談笑し合ってるので、見られてる感は練習に比べて強い。
今更だけど、俺はちょっと前に起こした例の冤罪の件で有名になってる。
父兄の方々に俺の名が知れ渡ってるのかどうかは怪しいが、ともかく、今日はこの数のギャラリーの中で事を起こさないといけないって考えると、程々に緊張もするわけで……。
俺は一人、開会式の段階から手に汗を握り、心臓をバクバクさせていた。
バカかよ。ここまで緊張するって。とは思うものの、体は正直である。
間違いなく緊張してる。言い逃れは不可能だった。
「では、第●●回体育祭、開幕です! 皆さん、精いっぱい頑張りましょう!」
体育祭実行委員の女子先輩が大きな声で宣言し、俺たちは拍手。
で、さっそく始まる種目に参加するため、スタート地点の方へわらわらと俺たち生徒は向かっていく。
一番最初は、各学年の男子による徒競走だ。
正直なところ、なんでこれが一番最初なのか……と毒づきたくなる。
そりゃメジャー種目ではあるけど、一番メンタルやらに負担のかかる競技じゃん、徒競走って。
ただ走るだけだと思われがちだが、ただ走るだけだから辛いのだ。はったりやごまかしが効かない。運も何もほとんど絡まない。完全に実力ゲーである。
気乗りはしないが、俺も一応男子なので、友人と話しながらスタート地点へ向かう連中の波に乗って移動する。
まあ、俺からしてみればこんな競技、至極どうでもいい。
問題は今日の午後からある借り物リレーだ。
そこに向けて、精神を良好なものにしておかないと。
――なんて、そんな風に一人で考えてると、突如として何物から肩を押される。
「っ!?」
背後へ振り返ってみると、そこには大平やら進藤やら、例の御一行様が下卑た笑みを浮かべながら立っていた。
お前ら、本当に悪役って言葉が似合うな。秘密結社かどっかに採用応募出してみろよマジで。
「……なんだよ? なんか用か?」
無視してもよかったが、とりあえず聞いてみる俺。
すると、大平が「けっ」と吐き捨てるように言う。
「お前マジ調子乗んなよ? 体育祭も本番だけどよ、なんか最近妙に生き生きして見えるんだよな。犯罪者のくせに」
「んだよ? そんなこと言いに来たのか? 徒競走前だってのに」
「徒競走なんてどうでもいいよ。とりあえずは力出し切って走るだけだしね」
爽やかに言ってみせる進藤に対し、俺は鼻でわざとらしく笑い、
「百点満点の回答だな。おい、大平。お前も進藤見習えばいいんじゃないか?」
「おい、ふざけんなって言ってんだよ。さっきの、聞こえなかったのか?」
「別に偉そうにしようがどうしようが、お前に縛られるつもりはない。言動とか仕草も変えるつもり一ミリもねーっつの。諦めろ」
俺の物言いに、大平は舌打ちして詰め寄って来る。
それを進藤は「まあまあ」と止め、
「何にせよ、徒競走の方、まずは頑張ろう暗田君。また後でね」
「後もクソもないだろ」
「あるよ。俺、君と同じレースなんだからさ」
「……え……?」
そうなのか。初めて知った。
それだけでげんなりするが、配られたパンフレットを見ると、どうやら本当にそんなようだった。
それも、俺が第三レーンで、進藤が第四レーン。まさに隣同士。
……なんか嫌な予感がするが、たぶんこれは気のせいだろ。そういうことにしとこう。
「……了解。あくまでもフェアにやろう」
「ははっ。そう言われると、俺がいつもフェアじゃないみたいじゃないか」
笑いながら言う進藤だけど、フェアではないと思う。
徒党組んで俺を攻撃しようとしてきたし(ていうか、今も)。
「じゃあ、また後でね。と言ってもすぐだけど」
「へいへい。りょーかい」
俺は気だるげに挨拶し、スタート地点への歩を進める。
さすがにまだ何も起こらないはずだけどな。……たぶん。
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