第45話 告白の反応と口撃開始

 二人の男女が見つめ合う。


 片方は想いをぶつけ、もう片方は想いをぶつけられていた。


 案の定と言うかなんと言うか、二人の周辺にいた奴らはキャーキャー騒ぎ、競技そっちのけで公開告白みたいな雰囲気になってた。


 けれど、悪くない。


 全部、何もかも、ここまでは俺が望んだとおりの展開だ。


 進藤と真中。


 奴らの関係をぶち壊すには、こいつらを公開告白にまで持って行かせるしかなかった。


 こういう状況に持ち込むには、いったいどうすればいいのかと考えてた結果が、イベント執行委員への参加につながったのだ。


 亜月さんはもちろんのこと、協力してくれた上利先輩、それから協力してくれるであろう松本先輩には感謝しかない。


 俺は一人、盛り上がる分団テントを放送席から眺めながら、笑みを浮かべた。


 恐らく、これで終わる。あいつらの中途半端な関係が。新藤の理想でしかない甘い人間関係が。真中の勘違いが。


「ちょっとあんた! 何なのあれ!? 競技中なのよ!? マイク持ってるんだし、声でも出して注意喚起しなさいよ! 競技がストップしちゃってるじゃない!」


 ニヤけてると、うしろから女の怒号が飛んでくる。


 中央委員会所属の女子だった。


 要するに、この体育祭のトップ。


 彼女的には、ああいうことが起こると面白くなくなるんだろう。


 リア充への憎しみか、と思うのは短絡的だとして、実際問題競技がストップし、真中と同じレーンで走ってた人たちも走るのを中断し、手を止めて二人の行く末を見守っていた。


「おぉぉぉぉぉぉ!?」とか、「うぉぉぉぉぉぉぉ! 真中さん告ったぁぁぁぁぁ!」とか、好き勝手の煽り文句が飛び交ってる。


 余計に進藤は真中へ応えづらそうにしていた。珍しくどこか挙動不審になってる。動揺がわかりやすく顔に現れてた。


「えぇぇぇぇ!? 珍しくない!? 進藤くんがキョドってんじゃん!」

「やっぱ真中さんが告ったから? 告ったからなのかな!? さすがじゃない!?」


 まあ、真中が告白したからってのは合ってる。


 けど、周囲の連中も本当におめでたい奴らだ。


 進藤のあの動揺は、告白されたところを周りに見られてたからとか、そういう次元の話じゃない。


 そうじゃなくて、今のあいつの胸中で渦巻いてるのは、恐らくどうやってここを穏便に済ませるか(要は真中の告白を躱すか)だと思うのだ。


 たぶん、俺のこの推測は間違ってないはず。


 そもそも、進藤にとって一番つらいのは、真中から好意の有無を迫られることなのだ。


 了承して付き合えば、本命(亜月さん)と付き合う権利が一切合切無くなるし、逆に告白を断ってしまえば、確実に今までのような関係を続けることは難しくなる。


 そりゃもちろん溢れんばかりの陽キャパワーでどうにかするのかもしれない。


 けど、それはかなりどでかいしこりを残す可能性がある。


 とにかく、ほぼ確実に前と同じような関係を続けるのは難しくなる。俺でさえそう思うんだから。


 自分の思いを殺すか、真中の想いを殺すか。実に見ものだった。


「別に、何もしないってわけじゃないですよ」


 俺は難癖を付けて来た中央委員の女子へぶっきらぼうに応える。


「何もしないのにここへ来る理由なんて一つも無いですしね。放送とか、普段なら俺死ぬほど嫌いだし。緊張するから」


「だったらどきなさいよもう!」


 俺はわざとらしくため息をついてやった。


「だから、俺の出番はここからなんだって。心配ご無用。すぐに放送しますから」


 言って、マイクのスイッチをオンにする俺。


 怒りの表情でいる彼女をサラッと流し、声を吹き当てた。


『借り物リレーも予想外の展開を迎えてしまいました。好きな人に二年生の進藤くんを選んだ真中さん。真中さんからほとんど告白をされてしまったも同然、進藤くん。さぁ、二人の選択はどうなる!?』


 どこぞのMCみたいにテンションを強引に上げ、表面上だけでマイクを使って喋り始める俺。


 その声に、悪い意味でグラウンドは騒然となった。


「おい、今の声ってさ」

「うわ、暗田じゃん。性犯罪者」

「よりにもよって真中さんが告白してる時に出しゃばるとか、未だに狙ってるってことなんじゃね?」

「キモいよな。もしかして進藤に対する嫉妬?w 俺の里佳子が取られるーみたいな」

「ギャハハw それヤバすぎ! でもあり得ん話じゃなさそうなのが怖いよなー」

「おい性犯罪者ぁ! 進藤に嫉妬してんじゃねぇよ!wwwww」

「ほんとほんとー! マジキモーい!」


 好き勝手にでかい声で煽って来るバカどもをシカトし、だったらば、と俺は隠しに隠してた秘密兵器を投入することにした。


 まずは初動攻撃からだ。


『引いた札は絶対ですよ! 進藤くん、真中さんの要求に対するイエスノーを答えてあげてください! でないと失格になりますよ! 分団にマイナス100点!』


「は!? 100!?」

「お、おい、聞いてねーぞ!?」

「答えろ、進藤! お前ならもう一択しかないだろ!? ずっと真中さんと一緒なんだし!」


 さらに周りに煽り立てられ、すぐにでも進藤は答えざるを得ない状況になる。


『さっさとしてくださいね、進藤くん。人には偉そうに裏で攻撃するくせに、自分が表でこういう状況になったらだんまり決め込むんですか?』


「「「――!?」」」


 唐突な俺の煽りに、グラウンド内は一瞬シンと静まり返った。


 どうも、俺の口撃がよっぽど驚きだったらしい。


 だったら、もっと驚きの燃料を投げ込んでやる。


『まあでも、すぐに答えられないのは仕方ないですよね(笑) なんたって、進藤くんが本当に好きな人は…………亜月さんですもんね』


「「「「「――はぁ!?」」」」」


 さっきよりも驚きの声がでかい有象無象のみなさん。


 俺の口撃はよっぽど効果アリみたいだった。

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