第22話 ふざけたグループワークと呼び出し

 自己紹介を終え、各々上利先輩の指示通り近くにいた奴らとグループを作った。


 グループの構成メンバーは好きな人とではなく、本当に自分の席の周りにいた人たちということから、各人表情や仕草から色々と思うところもあったみたいだ。


それでも、そんなことに関係なく、会は上利先輩主導のもと、スムーズに進められていく。


「みんな既に知っているとは思いますが、今年度の体育祭のスローガンは『駆けろアオハル! ~皆勝(かいしょう)胸に精いっぱい~』となっています。これに基づいた企画をまずは何でもいいので、否定することなく出し合ってください。ブレインストーミングです」


 先輩は授業中の教師のように、俺たちのくっつけた机の間を歩き回りながら説明してくれる。


 それを受けて、各グループでは既に始まっている話し合いがさらに盛り上がったり、逆に「ここはさらにこうしたらどうだ?」などという声もチラホラと聞こえてきた。


 つまるところ、会議室内は自己紹介の時よりも雪解け状態で、割と活気のあるものとなっていたのだ。


 唯一、俺を除けば、だが……。


「とりあえず、楽しめるイベントを考えるべきだよな」

「ね、それ思う。去年とか、親子リレーみたいなのやったっぽいけど、正直そういうのだるくない?」

「あー、だりーだりー。けど、リレーかぁ。リレーなら、男女一組のリレーとかどうよ。男子と女子が組んで、そんで学年別でリレーすんの」

「組むってそれ、二人一組ってことか?」

「そそ。男女でやれる系の企画考えね? の方が青春っぽいっしょ」

「確かにー」


「………………」


 俺を含む、男三人、女子一人の四人一組グループだが、完全に俺は除け者にしたうえで話が進んでいた。


 話を振れ、というわけではないが、絶対にこいつには話させないというオーラというか、雰囲気というか、会話の流れというか……。


「……でも――」


「あー、いややっぱこれいいかもしれんね! 男女一組でリレー! なんだったらリレーじゃなくてもいいし、二人三脚とかでもよくね!?」

「それ、秋永お前女子と密着したいだけじゃんよ!(笑) 思考がどっかの誰かさんと同じ!(笑) セクハラしてみんな勝つる! みたいな(笑)」

「それはキモイ(笑)」

「ちがっ、違うって勘違いすんなよー! おいー!」


 こんな風にな。


 つか、目の前に本人がいるのに平然とディスるのはやめていただきたい。挙げた意見だって完璧にセクハラ目的だし。


 徐々に苛立ちも募っていた。そろそろ出た案をまとめて発表しないといけないってのに、いつまで経ってもこいつらはふざけてばかりだ。


 仕方ない。


俺も俺で、強引な行動に出ることにする。


「上利先輩、ちょっといいですか」


「ん、どうしたんだい? 何か質問?」


「これ、ブレインストーミングですけど、発表の時は出た意見を一つにまとめた方がいいんですかね? それとも、箇条書きにしたものをそのまま言えばいいんですか?」


「いや、一つにはまとめなくていいよ。出た意見をそのまま箇条書きにした通り発表してもらえばいい。最終的にはそれらすべてを私が板書して、みんなでまとめていけるようリードするから」


「わかりました。ちなみに、一応出た意見なんですけど、」


 俺は話し合いに参加できず、それでも耳で聴いていた、こいつらの出した意見を一つずつ先輩へ言っていく。


 連中はその最中にかなり動揺していたが、俺は気にせず続けた。


「――ってのが全部です。これ、発表時に言ってもいいですか? ちゃんとした立案企画になってますかね?」


「……うん。それは少し違うね。ブレスト以前の問題だ」


 ざまあみろ、といったところだ。


 予想通り、連中の出していたふざけた意見は却下。上利先輩は少々冷めた視線を奴らへ向け、


「君たち、ブレストはブレストでも、企画に沿った意見を出してくれるかい?」


「はっ、い、いや、俺たちは――」


「企画に沿った意見を出したつもり、とでも言いたいかい?」


「そ、それは……」


 言い淀む同じグループの男子。確か、名前を江川か何かと言ったか。


 そんな江川に対し、上利先輩はため息交じりに続けた。


「いいかい? ブレストでの意見は一切否定しない。けれど、それはしっかりと目的に沿ったものに限る場合だ。今回の話し合いでは、スローガンを元にした企画立案をお願いしている。その辺りを考えて欲しい。これだと、君たちの出した意見はまるでセクハラ大会の企画会議みたいじゃないか」


「……っ! せ、セクハラは……そいつの方が……」


 チラッと俺の方を見つつ、言い訳する江川。


 俺は奴とは目を合わせず、何食わぬ顔で白紙のプリントを用意した。


「言い訳は聞かない。ほら、発表まであと少しの時間しかないからね。ちゃんとした目的の元、ブレストしていこう」


「は、はい……」


 説教した後、上利先輩はまた別のグループの方へ歩いていく。


 俺は他の三人から憎々し気に睨まれたが、気にすることなく「ちゃんとした意見を考えたい。時間が無いから」と言ってやった。


 何度も言う。ざまあみろ、というやつだ。



〇●〇●〇●〇●〇●



 グループでの話し合いが終わると、一通りブレストした結果の意見を出し合い、それを上利先輩が一つずつ言った通り黒板に書いていった。


 すべてを書き終えた頃、外は既にもう暗くなり始めていて、時刻も六時を指し示している。


 意見をまとめるのは明日ということになり、その日はそれでお開きになった。


 あとは各人各分団に顔出しをし、分団長に挨拶してから帰るという流れだ。


 委員会はあるものの、なんだかんだ応援練習とかにも参加しないと本番のダンスとかで踊れない可能性も出てくるからな。


 面倒くさいが、そういうことを一つ一つやっていかないといけない。執行委員に入るってのは、つまりそういうことだ。目的もあることだし、しっかりやっていかないと。


 そうして、俺が会議室を出ようとしていたタイミングで、だった。


「すまない、暗田くん。ちょっといいかな?」


 一人、最前列の席で書類をまとめていた上利先輩に声を掛けられる。他の奴らはぞろぞろと出ていく中、なぜ俺が? とも思ったが、それでも呼ばれた以上振り返らないわけにはいかなかった。


「なんですか?」


「少しだけ、時間をもらってもいいかい? 少々大事な話があるんだ」


「大事な話?」


 疑問符を浮かべた俺に、先輩はゆっくりと頷いた。


 表情は真剣そのものだった。

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