第14話 ファミレスでの攻防②
ファミレスに来て、そろそろ二十分ほどが経過しようとしていた。
連中は、ひたすらに誰かの噂話に花を咲かせてる。
あのクラスのあいつはあの人が好きで、けれどもあいつとあいつじゃ釣り合わないだの、釣り合うだの、挙句の果てにはあいつはあいつと付き合えばいいだなんて話もし始める。
人間の好意とかを恋愛ゲームか何かと勘違いでもしてるんじゃないかと思った。好きに思わせてやれよ。ったく。
聞いているだけでため息モノの会話ばかりが繰り広げられ、一分一分の過ぎる時間が遅く感じられて仕方ない。
しかし、それでもつまらなさそうにするのも奴らの機嫌を損ねる原因になってしまう。
亜月さんの親戚であり、他校の生徒であるって設定中の俺は、何も会話の内容を知らない風に装い、ひたすら相槌を打ちながら空気読み。
横にいる亜月さんはといえば、真中たちの注目が俺から逸れていることに安心し、普段教室にいる時と同じように、当たり障りのない感じで連中と会話に勤しんでいた。
よくできるもんだな、と我ながら思う。
自分が嫌われてると知りつつも、色々な感情を押し殺して、楽し気な雰囲気が壊れないよう、壊れないよう居続けることなんて、俺には到底できない。
コミュニケーション能力の差、社会性の差といえばそれまでだが、それ以上に何かがあるように思えて仕方ない。
彼女の抱える問題のすべてや、ありのままの全部の思い。
それが洗いざらい聞けるってのもまた、今の俺じゃ無理なのかもしれなかった。
前、なんだかんだあれははぐらかされたもんな……。
亜月さんともっと仲良くなりたい。
そう思いながら、チラとサングラス越しに彼女の横顔を眺める俺だった。
……のだが、
「……っ」
くそ。こんな時に突然襲い掛かってくる尿意。
緊張のあまり水を飲み過ぎたか。
会話が盛り上がってる中、一人盛り下がり気味で隅っこに座ってる俺が「ちょっちトイレ行ってきまーす☆」とか言わないといけないのきつすぎだろ……。いや、「ちょっち」とかはさすがに言わなくていいだろうけどさ。
我慢するか、それとも腹をくくってトイレに行くか、悩んだ挙句、漏らす方が後々事件になると冷静に判断し、俺は断腸の思いで席を立った。こういう時、ボックス席だとめちゃくちゃ不便に感じる。横にいる二人にどいてもらわないといけないのだから。
「す、すみません。ちょっとトイレ行ってきます……」
「ん、あ、はーい。どくねー。陽菜もいったんどいてあげよー」
「あ、うん」
光田は、俺のせいで席を立たなければならないところを快く受け入れてくれ、亜月さんを引きつれるようにして、立ち上がってボックス席から出てくれた。
向かい側の席に座っていた真中たちも、盛り上がっていた会話に水を差されたことに対して文句は言わないものの、どことなく「ちっ、いいところで」のような思いを抱いてるって波動を感じる。
まあ、感じるだけかもしれんけどな。どうでもいいけど、真中とはマジで目が合わせられない。憎き奴だが、今はバレたらまずいという後ろめたさが勝ってしまってる。俺はそそさくさと逃げるようにボックス席から出ようと試みた。
そんな時だ。
「なら、俺もちょい待ち。明木くんと同じくトイレに行ってくる」
言って、進藤も立ち上がった。マジか。
「え~、歩、行くの~?」
寂し気な声で真中は言った。お前、そんな弱々しい声出るんだな。
「小便くらい行かせてくれよ(笑) みんなで喋っててくれ」
「でも、歩がいないとさ~」
「いいから。生理現象、生理現象」
真中が引き留めてくるのを躱し、進藤は俺へ「じゃ、連れションってやつで」といつもやってるかのように笑顔で言ってきた。
断るわけにもいかず、「あ、あぁ……」とかいう曖昧な返事しかできない。
しかし、連れションか……。
あれ、誘ったり誘われたりの経験はないけど、微妙に話したことのあるやつとか、友達か友達じゃないのかわからない奴と鉢合わせて二人きりになると、超絶気まずいんだよな……。静かなところだと、小便が便器に当たる音だけが響いて余計に気まずさを増強させてくるし……。
どうあがいても進藤との連れションは地獄だった。
もう、さっさと出すもん出して席に戻ろう。まあ、戻ったら戻ったでまたこいつらの中に居なきゃいけなくなるわけだけどな……。
俺は頭の中でただただ肩を落とすのだった。
傍を歩く進藤、奴がどこか意味ありげな表情でこちらを見てきていたのだが、それについてはもう深く考えない。
さっさと戻るぞ、さっさと。
※作者のつぶやき※
ファミレスでのエピソードは4まで続きます。2の今回はちと展開的に進まなかったけど、お許しを。次回から展開が割とまた目まぐるしく動きます。よろしくです。
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