第15話 ファミレスでの攻防③

「いやー、申し訳ないねほんと。いくら陽菜と一緒にいたからとはいえ、急によくもわからない友人グループとファミレスとか、割と精神的にもきつかったでしょ? みんなはここにいないけど、だからこそ謝らせてよ。悪かった」


 トイレに着き、三つ並べてある小便器の二つに俺たちも並びながら小便。


 進藤は緊張の「き」の字も無く俺の方をしっかりと見て喋ってくるが、俺は隣にいる奴のことをまじまじと見ることができず、自分の股間部分へ視線を落とし、ややぶっきらぼうに「別に大丈夫ですよ」と返した。


 奴はそれでも気にせず「はは」と軽く笑みながら続ける。


「悪い奴じゃないんだ、みんな。それはさっきの会話でもわかっただろ? 人間さ、そりゃ悪いところもあればいいところもある。俊二はお調子者だけど、友達思いで、誰かが困ってたら必ず手を差し伸べようとするような奴なんだよ」


「……はぁ」


「里佳子だってそうだ。圧が強くて、そのせいで勘違いされる時もあるけど、根は頑張り屋で、自分の決めたことはやり通すまで諦めない強い気持ちを持ってる。そこはあいつのいいとこだよ。ああ見えて、学校のテストだって毎回上位にいるくらいだしな」


 柔らかい笑顔で諭すように説明してくれる進藤だが、俺からしてみればそれはため息ものでしかなかった。


 おめでたい奴だ。


 佐藤は別にどうだっていい。お調子者で仲間思いか。結構なことだ。


 だが、真中。こいつに対する誉め言葉に関して言えば、いただけない。


 自分の決めたことをやり通す強い気持ち? バカか。


 その強い気持ちとやらは、裏を返せば、自分の目的のためなら手段を問わないという見方ができる。


 現にグループ内でひそかに亜月さんを攻撃してるみたいだし、敵視してるのを俺は彼女と一緒にこっそりと陰から聞いた。


 俺にだってそうだ。


 未だその意図はわからないが、自分のストレスの発散か何かのために、俺を痴漢犯罪者に仕立て上げ、学校内での評判を最悪なものにしてくれた。


 褒められるようなことじゃない。


 そりゃ、人間誰にだっていいところがあるってのを否定しきるつもりはないが、だとしても真中に関して言えば、善人であるとは言い難い。


 だから、それを何も知らない亜月さんの親戚という設定中の俺に言うな。聞いてるだけで虫唾が走る。


「……なるほど。まあ、そうですね。人間悪いところもあれば、いいところもあるってのは同意です」


 若干イライラしていたが、それを表面上に出さず、あくまでも淡々と返した。


「だろ? そう思うよな」


「ですけど、それが必ずしも誰彼にいい影響を与える、とは思わないです。一人がいいところだと褒めても、もう一人は苦手なところだと思うかもしれない。あくまでも主観的な意見でしかないと思います」


「……? 主観的?」


 若干、奴の笑顔から光が消えた気がした。


 それもそうだ。突然に俺は進藤の意見を批判的に切ったのだから。


「佐藤君が仲間思いだとしても、それは仲間内だけに対する優しい思いの可能性があるし、真中さんの目標を達成する強い気持ちってのも、それは手段を厭わないってことに繋がる気がする。だから、それはあくまでも主観的な意見なんじゃないかって思っただけです。気に障ったなら謝ります。なんなら、俺は部外者なので、『帰れ』と言われれば全然帰ります」


「………………」


 進藤は呆気にとられたようだった。


 小便を終え、既に奴は俺の傍に立ってるだけ。対して俺はかっこいいことを言ってる風だが、そんなカッコいいセリフを言うことに集中しすぎて、便器に向かったまま、顔だけ奴の方へ向けるというなんともダサい姿のままだった。ほんと、決まらない人間である。


「ふふっ。そうか。つまり、君はそう思うんだな?」


「はい。あくまでも部外者である人間が見聞きするに、ですが。あと、気に障ったなら全然帰ります」


「いや、いい。これだけで帰れとまでは言わないよ。ちょうど二人なんだし、言いたいことを言えるってのは今くらいだもんな」


 とは言ってくれてるが、実際のところ、全く関係ない人間が突然人の友達を批判的に見て、それを伝えるってのはどうなのか、とは思う。


 冷静じゃなかった。


 物申せる立場であることが、俺をいつになく奮い立たせてくれてる。


 普段、学校じゃ絶対にこんなこと言えない。


 そもそも、こうして進藤と二人きりになれることすらないのだ。言いたいことも次から次へと出てきてしまう。


「もしかしてだけど、色々と陽菜から聞いてる? 抱えてる悩みとか」


「……抱えてる悩み? 陽菜さん、何かに悩んでたりするんですか?」


「君も嘘が下手だな。さっきの物言いで陽菜が君へどんな相談をしてるのかくらいは予想ができるよ。あまり俺をバカにしないでくれ」


「……別に、バカにはしてないですけど」


「まあ、何でもいい。陽菜はさ、今、俺たちのあのグループの中で嫌われてるんだ。そういうこと、あいつは感じ取ってたんじゃないか?」


「……それは」


「陽菜も勘のいいところがある。気付いてたんだな」


「……」


 ただ、黙り込むしかない。俺は何も言わなかったが、それを進藤は肯定と捉えたみたいだった。気に食わない。てか、こいつはそれを知ってたのかよ……。


「でも、そういう陽菜さんの諸々の悩みを知っておきながら、なんで進藤君は陽菜さんを助けようと動かないんですか? 嫌いだから動かないんですか?」


「それは違う。嫌いだからじゃない」


「じゃあ、なんで?」


「正確に言えば、動けないんだ、俺は」


 次の言葉を即座に出そうとしたが、俺はそれを喉元までで留め、また黙り込んだ。


 進藤はやや苦しそうに目を閉じ、こめかみを押さえている。


 言いたいことはなんとなくわかった。


 こいつも鈍感じゃないし、バカではないはず。


 動けない理由は、真中にあるとでも言いたげだ。


 けど、言えない。それを言えば、今のグループが一瞬にして崩壊することも理解してる。


 要するに、男女の恋のドロドロ。どうしようもない三角関係みたいなものと、グループでの仲を平和なものに保ちたいという奴の気持ちが、現状を生み出していた。本当にどうしようもない。


「……なあ、これは少し唐突なんだが、さっきも言った通り、ここには俺と君の二人しかいない。もう化かし合いはやめにして、本音でちゃんと話し合わないか?」


 唐突、と言った通り、進藤は俺に対してこめかみを押さえたままそう言ってきた。


 意味が分からない。化かし合い? どういうことだ?


「わからないか、暗田君? 俺は君と、ちゃんと陽菜について話したいって言ってるんだ」


「…………は…………?」


 奴の言葉に、俺は一気に頭の中が真っ白になった。






※作者のつぶやき※

おい……、ファミレスでの攻防が4で終わるって言った奴誰だよ……。この調子だと、5まで続きそうだぞマジで……。

ってわけで、次4よろしくぅ! できる限り面白くするぅ!

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