第16話 ファミレスでの攻防④

「俺には、どうして君なんかが陽菜の相談相手になってるのか、まったくわからない。どういうつながりだ? どんな芸当を使った? それとも、あれか? 何か陽菜の秘密を握って接近でもしたというのか?」


 語気に静かな圧を含ませ、進藤は問うてきた。


 俺はそれに対し、どう答えていいのかすぐに脳内で判断することができず、ただ固まったまま、冷や汗を浮かべて奴の顔をジッと見つめることしかできない。


「……でも、そうだな。脅した、というわけではなさそうだ。君は今日、陽菜と俺の試合を見に来ていたみたいだし、君が自分の親戚であるという風に庇うような真似をしてる。見た感じ、君たち二人の間に主従関係のようなものを見受けられることもなかったし、そこは俺の勘違いか」


「っ……」


「なあ、どうなんだ? 答えてくれ。いや、答えろ。答えるまで君はここから出さない。強引に出ようというのなら、俺も力づくでそれを止める」


「……な、なんだよそれ……。それこそ、思い切り脅しだろ……」


「関係ない。あと、無駄なやり取りはもうするつもりもない。答えてくれ。君はなぜ陽菜と繋がっている?」


「………………」


 無言を貫く俺。


 もう、こいつの前で偽りの姿を演じる理由もないから、口調も砕け、警戒の色を一気に強めていく。


 しかし、別にその問いに絶対答えられない、というわけではなかった。


 進藤は亜月さんの抱えてる問題や、真中のことについて、ある程度は理解してるみたいだし、なんなら間近で二人を見ている分、俺よりも関係性に詳しいまである。


 俺と亜月さんが一緒にいるのだって、簡単なことだ。


 要は、真中との関係性を良好なものにして欲しいと頼み込んできた。で、俺も俺で、件の痴漢冤罪に対する復讐をするため、亜月さんを通じて、奴の情報を盗もうとしているだけのこと。


 まあ、俺自身の目的はこいつには言えないが、その辺りはいくらでも誤魔化せる。


 可愛い亜月さんが困ってるからとか、高嶺の花のお願いだからとか、嫌われ者の俺に唯一優しくしてくれた人だから、みたいな感じでな。……一番最後のは作り話じゃなく、本当のところではあったが。


「……俺がその質問に答えて、お前はどうするつもりなんだ?」


「今度は陽菜に問う。君の言ったことが本当なのか、もしも本当なら、なぜ里佳子に痴漢したような奴へ助けを求めたのか。その役割が俺たち……いや、俺ではダメだったのか、と」


「そういう問いかけをしようとするからダメだったんじゃないのか?」


「黙れ。何を上から目線に。君はそもそも自分の立場を理解してるのか?」


「理解してるよ。理解してるから、今こうして行動してるんだ。ふざけた情報を信じ込む連中に、今度こそ真実を教え込んでやるためにな」


「……真実?」


「ああ。そのきっかけを与えてくれたのは紛れもなく亜月さんだ。彼女のおかげで、俺は行動する勇気みたいなのをもらった気がした。クサイ言い方だけど、それ自体は本当のことだ」


「……だから、そうやってマウントを取るような物言いをするのはやめてくれないか?」


「別にマウントなんて取ってない。俺は事実しか言ってないし、さっきから喧嘩腰なのもお前だけだよ」


 俺の物言いすべてが癇に障るのだろう。普段は爽やかなキャラの進藤だが、本性が見え隠れし始めてる。こちらをジッと睨み付けていた。


 そして、しまいには呆れたように乾いた笑い声を小さく上げる。


「やっぱり、怖いね。もう落ちるところまで落ちた人間ってのは」


「……何が言いたい?」


「いやあ、君みたいなのに対しては脅しも通用しないな、と思ってね。既に学校中から嫌われてるし、悪い噂を流そうにも、それが君への攻撃にならない。現状お手上げだよ、暗田送助」


「…………そりゃどーも」


 軽い風に返して見せたが、内心ゾッとした。


 こいつ、普通に脅すとか言い出しやがった。しかも、笑いながら、さも当然のように。


「まあでも、アレだ。君と陽菜が一緒にいるということは、誰にも言わないでおこう。俺は君だけを攻撃したいのであって、陽菜を攻撃したいわけじゃない。君といることなんてのが学校中に知れ渡れば、途端に陽菜は痴漢犯罪者と同類の存在になってしまうからね」


「……あぁ、そう」


「ふふふ。けれど、いつまでものうのうと陽菜と一緒に居られると思うなよ? 絶対に君から陽菜を引き剥がしてやる。毒気を抜くかのようにね」


「………………わかったよ」


 言って、進藤は俺に対して「里佳子たちのところへ戻ろう」と提案してきた。


 断る理由もない。


 俺は先を歩く進藤の背を追いかけるみたいにして歩き、軽く息を吐いた。早くなっている鼓動を少しでも落ち着かせるためだ。


 さて、ここからどうする。


 進藤はやはりただ者じゃなかった。うかつに近付いた結果がこれだ。


 偶然も重なったにせよ、まさかこんな展開になるとは。


 ちくしょう、めんどくさいことになったな……。


 後頭部をポリポリと掻き、これからの行動について考えながら、戻った席へと目をやる。


「……?」


 そこに亜月さんの姿はなかった。


 あるのは、しかめっ面な真中たち女子三人組に、ソワソワしてる佐藤と眉間にしわを寄せる大平。


 そして、何とも表現し難い、気まずい空気だけだった。

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