第39話 敵の中にも味方アリ

亜月さんに傷の手当てをしてもらって、俺はまたグラウンドの方へ戻った。


 その間、一つの競技が終わってたみたいだけど、これは俺たちにはあまり関係ない。特に出場する予定も無いから。


 問題は、その次の次だ。


 男子の徒競走と間が空いてるけど、女子の徒競走がある。


 そこでは、当然ながら亜月さんが走られるのだ。


 要チェック。いや、要応援。


 まあ、俺の応援なんてなくたって、割と大勢の男子から亜月さんは応援されるんだろうけどな。


 絶対声に出して「頑張れ!」なんて言えないけど、心の中で叫ぶくらいは許されるはずだ。


 それが終われば、また数競技程あって、昼食。そして、件の作戦を決行させるための借り物リレーがある。


 借り物リレーの直前は、色々と最後の仕込みが必要なんだが、とりあえずは現状ゆっくりできる。


 大勢の生徒がいる分団別テントに入れば、間違いなく避けられて気まずい空気が出来上がるので、俺はそこから離れたところにある、大木の陰にて一人で腰を下ろした。


 我ながら寂しいもんだと思うし、悲しすぎる絵面だと思う。


 自分で座っておきながら思うけど、これやっぱりやめとくか? かえって目立ってる気がするぞ……。


 そんなことを考えてると、亜月さんも参加しない、つまらない競技が楽し気なBGMとともに始まった。


 ふぅ……。何なら、幹にもたれかかって昼寝したいくらいだ。うーむ……。


 ウトウトし、騒がしい中ながら本格的に眠気が襲い掛かってきてたところでだ。


 ザッザッ、とこちらへ近付いてくる足音が聞こえる。


「……?」


 何気なく目を開けて、その音のする方を見やると、そこには思いがけない奴が立っていた。


「……え。佐藤……?」


 つい、名前呼びで疑問符を浮かべてしまう。


 俺はとっさに口元を抑えたが、佐藤は特に気にすることなく、「よぅ」と軽く手を挙げて反応した。


 で、図々しく俺の隣にどかり、と腰を下ろしてくる。何しに来たんだよこいつは。


「相変わらずぼっちで寂しいところいんのな(笑)」


「……おかげさまでな」


 何なら、それが誰のせいなのかまで言ってやりたくなったけど、そこまでは言わないでおこう。今さら感もあるし。


「まあよー。けど、同情はするってーかさ。俺、なんか前に暗田君から本当のこと教えてもらったじゃん?」


「……ああ」


「あれから、暗田君のことが気になってな? 教室内でもさりげなく目で追っちまうし、大変なんよ」


「いや、お前ホ●の民か? 意外過ぎだろ」


「ち、ちげー、ちげー! そうじゃないって! そうじゃなくて、上手くやれてんのかなーみたいな感情だよ! 勘違いはダメダメ!」


 びっくりさせるな。


 俺、基本的には多様性に富んだ人間だと思うけど、さすがに恋愛対象は男以外だ。女の子が好き。特に、『あ』から始まる子とか。


「シンプルに心配してんだ。暗田君のこと。里佳子と一緒にいる身としては、申し訳なさもあったりしてよー」


「……いや、意外過ぎだろ」


「え? 何がよ? もしかして俺、またホ●容疑かけられてる?」


 問われ、首を横に振った。


「違う。お前がそうやって人の心配とかするんだって。そういう意味」


「うわっー! めちゃ失礼なやつじゃんそれー! するに決まってるっしょー? 俺、めちゃ聖人よ? いい奴よー?」


 仮に本当にいい奴だったとしても、自分でそれ言うなよ。とは思った。


 けど、こいつのそのセリフもあながち間違っちゃいない気がする。


 こうして話してるとわかる……というか、滲み出てるのだが、確かに佐藤はいい奴そうだった。


 進藤や大平らに比べて、毒気みたいなものをあんまり感じられない。


「って、言ってもまあ、俺いつも里佳子たちといるし、悪い奴ーみたいに暗田君に思われても仕方ないんかねー。いい奴と思われるのにも無理ある感じー?」


「……まあ、無理はあるかもな。信用しろとか言われても、素直に『うん』とは言えない」


「がーん、じゃん! そこまでハッキリ言われるとは」


 言って、佐藤は「うーん」と考え込む仕草を少しし、


「んじゃあ、ごめん! 里佳子たちの代わりに俺が謝る! だからさ、俺のことだけでもいいから、信用してくんない?」


 そうは言われても、だ。


 両手を擦り合わせ、謝ってくる佐藤に対し、俺は微妙な表情を崩さず、「もう気にするな」の一言を言うことができない。


 そりゃ、当然と言えば当然だ。


 ここまでの仕打ちを受けてるんだから。


「そもそも、なんでお前そんな俺に対して謝るんだよ? 別にメリットとか何もなくないか? むしろ俺と絡んでたらデメリットしかないし、真中が俺に対して何していようが、関係ないだろ」


「いやいやいや! あるあるある! 大アリじゃん! 里佳子は俺の友達だしさ、そんな友達が誰か傷付けてるってなったら、それは周りにいる俺たちが代わりに謝るのが筋じゃね? 違う?」


「違う……こともないだろうけど、そこまでの聖人セリフ吐けるのは圧倒的少数だと思う」


「基本っしょ、それくらい。ちょい、さすがに無視はできんべ」


 何なら、と佐藤は続けてきた。


「暗田君、今度里佳子に謝らせに行こか? さすがに今日は体育祭で無理だけどよ、俺、今度動くべ?」


 いい提案だ。


 でも、俺は「いや」と首を横に振る。


「その必要はないな」


「え? 何でぇ? 暗田君、もしかして心チョー広いタイプ?」


「全然」


「ならなんで断るんよ~?」


 理解できないとばかりに佐藤が天を仰ぐ。


 俺はそんな彼に対し、一言言ってやった。


「もう、今日強引に謝ってもらうつもりだから」


 訳が分からないのか、ポカンとする佐藤。


「てか、それなら佐藤。申し訳ない気持ちがあるなら、俺にちょっと協力してくれよ」


「協力?」


「そう。協力。今から何をして欲しいか、話すからさ」


 笑みを浮かべ、俺は協力して欲しいことの内容を佐藤に話すのだった。

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