冤罪で変態扱いされ学校一の嫌われ者になった俺、なぜか学校一の高嶺の花にだけ懐かれる ~絶望的な状況ではありますが、どうにか諦めてた青春を取り戻してみようと思う~
第9話 デート(尾行)の幕開けとあざとい彼女
第9話 デート(尾行)の幕開けとあざとい彼女
そういうわけで週末。土曜日。
俺と亜月さんは、以前よりも凝った変装をして、進藤の通ってるテニスクラブのコートへ足を運んだ。
「それにしても暗田くん、よく休みの日に歩くんの通ってるテニスクラブのコートへ行こうと思ったね。下手したら里佳子たちもいるかもしれないのに」
「そのために変装したんだろ? 特に亜月さんとか、めちゃくちゃ気合入ってるし」
言って、俺は隣に立ってる彼女の姿を上から下まで見やる。
頭部分には深々と被った黒のキャップ。そこから下に行って星形のサングラスに、薄手の黒パーカー(背中には『I LOVE おでん』と書いてある)。そして、黒のズボンといった出で立ち。
「……何かな? その『こいつ、これだと逆に目立つってわかんねーのかな?』みたいな顔は」
「え、なんで考えてることがわかった!? もしかして亜月さん、エスパーか何か?」
「エスパーじゃなくてもわかるから! もうっ、すっごい失礼。せーっかく私がとびっきりの変装コーデで今日来たってのに」
「色々惜しいと思うんだよ。変装ってのはバレないために顔を隠すのはもちろんのこと、地味目な恰好をするのが基本なんだけど、全身黒でいこうって考えは悪くないと思う。けど、その訳の分かんないサングラスとパーカーは何なんだ……。おでん好きをこんな時に主張してくれなくてもいいから。絶対にいいから」
「こ、これはたまたまなの! 黒パーカーっていったらこれくらいしかなくて……き、基本的には白色とか、薄ピンクみたいなふわふわ系のカラーで攻めるのが私のスタイルっていうか……」
「なるほど。狙ってゆるふわ系を演出していると。あざといな」
「あざといってゆーな! 別に狙ってもないから! 誤解を生むような発言はダメって、暗田くんが一番理解してるはずでしょ!?」
「それとこれとは話が別だな」
「なんでよ!」
と、賑やかしくやり取りをしていると、金網の向こう。テニスコート内で俺たちの知っている奴の声が聞こえてきた。
「よし! じゃあみんな、今日は他クラブとの練習試合だけど、本番のつもりで臨もう! 各自、それぞれ課題を持って試合に入ってくれ!」
いやいや、監督かよあんたは……。
声の主は進藤歩だ。進藤歩が、同じテニスクラブメンバーと思われる十人ほどの奴らに向かってそう告げていた。
「やっぱすごいんだなあいつ。勉強もできるし、部活じゃなくてこういう校外のクラブチームでもガチガチにテニスやってんだもん。逆立ちしたって勝てる気がしねーよ」
「別に勝たなくてもいい気はするけど……。あと、何を基準に勝ち負け判定してるのか謎ですね。歩くんにもいいところはあるし、暗田くんにもいいところは……あるでしょ」
「素直に喜びたかったのに、その意味ありげな間のせいで全部台無しっす」
「私の本気の変装コーデをディスったお返しだよーだ。黒Tシャツに黒のチノパンと丸い黒のサングラスっていう面白みも何もないどこかの誰かさんに対するね」
「やっぱり、そのおでん好きアピールは受け狙いだったの?」
「違うって! 私が言いたいのは星形のサングラスのこと! おでんからはいったん離れてよ! これは完全な事故で、こっちだって本音を言うと恥ずかしいんだから!」
――ということらしかった。
まあ、確かに亜月さんはどっちかというと黒ってよりは白系統の色の方が似合ってる。叶うことなら今度そういったコーデも見たいなぁ、なんて思ったり、思わないこともなかったり。うん。見たいです。いつか見せてほしいです。
「まったく~……。そうこうしてるうちに歩くんの試合始まりそうだよ? ちゃんと見なきゃなんでしょ?」
「ぶっちゃけ試合に関してはどうでもいいけどね。奴のプライベート的なこととか、人間関係について知りたい」
「校外の人間関係なんかが何かの役に立つの?」
「言っただろ? 俺はとにかくあいつについて何も知らないんだ。一番コミュニケーションを取らずに奴のことを知るには、こういう休みの日をストーキング……いや、尾行するのが一番だと思ったんだよ。だから、今日ここへ来た」
「なんかかっこいい感じに言ってるけど、言葉の節々からヤバめな人だって伝わってくるね、暗田くん。普通、まずコミュニケーションを頑張って取ろうとするはずなのに、尾行しようとかなかなか思わないよ」
「そりゃそうだろ。言葉の通り、普通な立場にいるような人間じゃないんだし。学校の生徒ほぼ全員から嫌われてるような奴なんだし」
「それを差し引いてもヤバめな人だってことは……?」
「ない。いたって健全な男子高校生です。痴漢とか、そういう卑劣なやり方は絶対行いません。ここに誓います」
「でも、ストーキングはする、と」
「尾行、ね。確かに今ストーキングって俺言いかけたけど、尾行ね。勘違いしないでね?」
強く念押ししたところで、進藤の試合が始まった。
試合なんて興味ない。
そういった俺だが、結果的に奴の試合運びに見入ってしまった、ということは伝えた置かなければならない。
それと同時に、なんとなくだが、俺は奴の影のような部分にも気付くことができたのだった。
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