第29話 たった一つの忠告と反撃の狼煙

 進藤と一対一で会話がしたい。


 そんなトチ狂ったことを考えた俺は、まずグラウンドへ奴を探しに行った。


 が、見た感じいない。


 第一分団と第二分団の人たちが応援練習をしてるのは伺えたのだが、残念ながら進藤が属してるのは第三分団は、そこで練習してなかったのだ。


 だったら、体育館内か?


 そう思って、次は体育館へ移動。ビンゴだった。


 ほぼほぼ体育館いっぱいを使って、第三分団の人たちが練習してる。


 ここから探せば、進藤はいるはずだ。


 えーと、進藤は……と。


 なんて風に思いながら探すのだが、どうも奴の姿が見当たらない。


 いやいや、さすがに見落としだろ。絶対どっかにはいるはず。


 そう考え、再度目を凝らしてみるも、やはり進藤の姿はどこにもなかった。


 確か、あいつは俺や亜月さんみたいに特定の委員会へ入ってない。


 だから、いるとすれば第三分団の集団の中だと思うんだけど……。なんでいないんだ? うーん。


 ――と、体育館の入口辺りで頭を抱えている時だった。


「おい。ここで何してるんだ?」


「――⁉ うわっ!」


 突如背後から声を掛けられ、俺は驚く。


 そこに立っていたのは、紛れもなく探していた人物、進藤歩だった。


「な、なんでお前、分団練習に参加してないんだよ? 他の連中は頑張ってるってのに」


 俺が動揺を落ち着かせながら言うと、進藤は首に巻いていたタオルで頬の汗を拭きながら、「勘違いしないでくれ」の一言。


「さっきまで俺は、応援練習のまとめ役をやらされてたんだ。休憩なしだったし、水分補給もしばらくさせてもらえなくて、今ようやく休憩もらったところだったんだよ。まるで何もしないクズみたいな言い方するのはやめてくれないか?」


 お前とは違うんだから。


 暗にそう言われてる気がした。


 まあ、間違っちゃいない。俺とこいつは色んな意味で違う。カースト差も、考え方も、仲のいい人も。


「それに、今の質問は君にも向けられるよ。君の属してる第四分団だって、普通に練習してるはず。なぜ君は参加してないんだ? 練習場所だって体育館ではないだろうし」


「俺はアレだ。イベント執行委員のメンバーやってんだよ。今は委員の仕事が終わって、ちょうど分団練習に参加しに行こうとしてたところ。別にサボるつもりはないよ」


 嘘だけどな。


 お前と会話するため、練習参加を少しだけ遅らせてる。


 これが本音だが、正直に話そうとも思えない。


 あくまでも本当のところを隠したまま、俺はチャンスとばかりに言葉を続けた。ここでこいつを逃してはならない。


 ――本題に移ろう。


「ただ、ちょっと意外だったな。いつも目立ってるお前なら、てっきり中央委員会辺りに入るものかとばかり思ってたんだが」


「委員会? ……ふっ」


 こいつは何を言ってる、とばかりに鼻で笑う進藤。


「その言われ方だと、俺がいつも意図的に目立てるよう動いてる、みたいな言い方だな。好きになれないよ」


「じゃあ、違うとでも?」


「違うに決まってる。目立とうと思って行動したことなんて一ミリもないし、その意味もメリットも見出せない。浅はかな考え方だ」


「なるほどな。じゃあ、お前がいつも派手な連中で周りを固めてるのも、別に意味はないわけだ。よく理解できたよ」


 俺の言い方が鼻についたのかもしれない。


 進藤はギロっとこちらへ睨みを利かし、


「何のつもりなのかはよくわからないけれど、推測でわかったようにモノを語るのはよしてくれないか? 俺だけならまだしも、俺の友人たちをバカにするのなら、容赦はしないが」


「そっちこそ、推測で苛立つのなんてよしとけよ。俺は何もお前の友達についてバカにしたつもりは一切ない。ただ、今日は色々お前に確認することがあって来ただけだ」


 言うと、進藤は眉間にしわを寄せ、


「……? 確認、だと?」


 疑問符を浮かべた。


 そう。確認だ。


「何を確認しに来た?」


「なに、ちょっとしたお前らの友情度チェックだよ」


「バカにしてるのか?」


「いや、まったく。あくまでも真剣。参考にさせていただきたくてね。友達のいない俺が、友達の多い進藤君と、その御一行がどうやって普段から友情を育んでるのか」


「………………」


 気に食わなさそうだった。


 舐めるな、とでもすぐに口から飛び出しそうな進藤の表情。


「君の相手をした俺がバカだったな。もう行く。話しかけないでくれ」


「そういうわけにはいかない。待て」


「……」


 言うも、進藤は俺の呼びかけを無視し、体育館内へと入って行こうとする。


 仕方ない、か。


「真中がお前に告白してきたらどうする?」


 俺は、脈絡もなく、本当に聞きたかったことを語調強めに問うた。


 こうでもしないと奴は止まらない。


 そして、俺の目論見通り、この質問をしたことで奴の足はピタリと止まった。


「……いきなり何だ? 何が言いたい?」


「何が言いたいって、言葉の通りだよ。進藤、お前、真中に告白されたらどうする。オーケーするのか?」


「……」


 返答はない。


 が、代わりに、奴の視線だけは余すことなく頂戴できている。


 ジッと俺を見つめ、こちらの真意を聞かずとも引き出してやろうとする、狡猾そうな目。


 しばらく眺めた後、進藤は「ふっ」とさっきみたいに鼻で笑った。


「愚問だよ、性犯罪者。そんなこと、仮に答えが用意されていたとしても、君に答えるつもりはない」


 性犯罪者って……。


 呼び方が明らかに攻撃的なものになった。これは奴に効いてる証拠だな。


 やはり、突かれると苦しい質問らしかった。


「なるほど。じゃあ、答える気はゼロだと」


「ああ。そう言ってる」


「そうか。なら、忠告だけしとく」


「……?」


「体育祭本番、真中は確実にお前へ告白してくる。曖昧なものじゃない。本気の告白だ」


「……は?」


「お前がどういうつもりなのかは俺にはわからないが、とにかくそれだけは頭に入れとけ。あと、これは絶対に誰にも口外しちゃいけない」


「ちょ、ちょっと待て、それは――」


「俺が言いたかったのはそれだけだ。お前がどうするのかについても俺は聞きたかったけど、とにかくそれはそれでいい。口外も……お前なら、たぶんしないだろ」


 いや、正確に言えば「できない」とした方が正しいんだろうけど。


 俺は内心ほくそ笑みながら、「じゃあ」と言って、そそくさと進藤の前から去った。


 奴は最後の最後まで、「待て」だの、「答えろ」だの追いかけてきたが、俺は一切合切をスルーし、第四分団の練習してる、大会議室を目指した。

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