第24話 言っとかないといけないこと
「すいません。わざわざこんなところまで来てしまって」
「ん、いやいや、気にしないでくれ。遠くまで行かないといけない理由はなんとなく察することができるし、僕自身君の話を聞きたいとずっと思っていたからね。構わないよ」
上利先輩はにこやかに言って、注文したパンケーキのひとかけらを口に運ぶ。
「なんだかんだ、僕は甘党でもあるんだ。学校帰りとはいえ、こういうところに来れたのは嬉しいよ。いい店知ってるね、暗田君」
「いえ、俺は別に。ここ、亜月さんがおすすめしてくれた店なんで」
苦笑しながら言い、亜月さんの方をチラっと見やる。
彼女はもまた、「いえいえ」と謙遜しつつ、照れ隠しのように頼んでいたアイスココアを口にしていた。
今、俺たちがいるのは隣町のとあるカフェ。
学校付近にある駅から電車に乗って、おおよそ十五分ほどかけてここまで来た。
一応、学校周辺にファミレスがいくつかあるのだが、そこはすべて扇咲高校の生徒が利用してる可能性が高い。
犯罪者の俺が先輩と亜月さんを連れて来店するところを見れば、それはもう噂になるのは確定だ。二人に悪影響を及ぼしてしまう。絶対にそれだけは避けなければならない。
「先輩、じゃあ、あの、すいません。俺の話、色々と聞いてもらってもいいですか?」
「ああ、もちろん。聞かせてくれ」
言われ、俺は生唾をゴクリと飲み込み、口を開く。
「まず、さっき学校の自販機の前で話してた続きなんですけど、本当のところ、俺は痴漢なんてしてません。真中里佳子たちグループのごたつきに利用されただけに過ぎないんです」
「うん。そうだったね」
「なのに、無実を主張するのには状況が悪すぎた。虚を突かれて驚いたのもあったし、真中たちは元々俺を陥れるための準備を周到に進めていたんでしょう。俺が何を言おうと、誰も耳を貸してはくれなかったんです」
「そうだよね。それで、君は今日まで現在進行形で犯罪者扱いされてる」
「はい。でも、そんな絶望的な状況の時、俺は亜月さんに出会ったんです」
「いやいや、元々出会ってたのは出会ってたでしょ。クラスも同じなんだし」
横から突っ込んでくる亜月さん。
そういうことじゃない。
俺からしてみれば初めて出会ったみたいなもんだった。話しかけられたのは衝撃的だったし、何より会話したのも初めてだったし。
「ふむ。とにかく、そこで亜月さんと暗田君は結託したわけだ」
俺は頷く。
「結託した理由というのは、聞いてもいいものなのかな? 僕的には、その辺りのことについてもすごく興味が湧いてるんだけども」
「理由……ですか」
「うん。ああ、でもアレだ。そこに何かプライベート的なものというか、秘密にしておきたいものがあるのなら、無理に聞こうとは思っていないよ。僕にそこまで聞く権利なんてものはないしね」
アセアセと手を横に振って言う上利先輩。
でも、これは……さすがに正直に話しちゃダメだろう。
見ろ。亜月さんの目を。
それだけは話しちゃダメだという圧をそこはかとなく感じる。そりゃそうだ。変態にして欲しいって言ってきたからなんです、なんて言えるわけがない。
「……その、まあ、しいて言えば、亜月さんも悩んでたからってのが一番正しいのかもしれないですね」
「悩んでたから?」
「彼女、真中と同じ友人グループに属してるんですよ。そこでちょっとした悩みを抱えてて、同じグループにいたから俺のことも冤罪だって知ってたんです」
言うと、上利先輩は「あぁ」と手を叩く。
「なるほど、そういうことか。つまり、曲がったことは許せない。冤罪を冤罪のままにさせるわけにはいかないという正義心が働いた、というわけだね?」
「んーーーーー……まあ、そんな感じなんですかね? ね、そ、そうだよね、亜月さん?」
「あ、う、うん。そうなるのかなー。あ、あは、あははは……」
苦しい。苦しすぎる。
どうにかこうにか、嘘が嘘だとバレないように取り繕って見せてるけど、明らかに俺たちの反応は不自然だった。
もしかして、上利先輩もわかったうえでこの反応なのかもしれない。
そう考えると……ひたすらに苦しい。
「ふむふむ。なるほどねぇ、なるほど。そういうことなら合点がいくよ。納得」
ほ、本当ですか……?
「実は、僕も似たような感じなんだ。暗田君が無実なんじゃないかと疑った理由、それは正義心から来るものでね」
「そうなんですか?」
俺が問うと、先輩は「うん」と大きく頷く。そして、残っていたパンケーキをパクパクッと口へ放り込んでしまう。
「ただ、その正義心も、実が無いところには行動にまで発展させられない。僕の場合、とある人物からのタレコミがあってね。それで暗田君に近付いたんだよ。まさか、同じイベント執行委員になるとは思ってもなかったけれど」
「え……? とある人物からのタレコミ……ですか?」
なんだそれ。明らかに新情報だぞ。
「ああ。君さえよければ、今度そいつに会って欲しいくらいだ。もちろん、亜月さんも」
「いや、全然会います。というか、会わせてください。こっちからお願いしたいですよ、それは」
「そうかい? なら、さすがに今日は無理だろうけど、明日とかまたどうだろう? 奴にも予定がありそうだし」
「構わないです。だよね、亜月さん?」
「うん。なんか、色々前に進みそうな感じだね」
俺と亜月さんは顔を見合わせて同調。
これは話を聞くしかない。
聞くしかないけど……、そこで俺はとあることを思い出した。
上利先輩にどうしても言っとかないといけないこと。
「あの、上利先輩?」
「ん? なんだい、突然改まって?」
「実は、その――」
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