第33話 最後のピース①

体育祭もいよいよ目前に近付き、学校内は前にも増してイベントムード一色だ。


 練習がダルいだのなんだの言いながら、結局はほとんどの奴が本番を前にして元気になってた。


 中には、体育祭の練習を経て仲良くなってる男女もいるらしいし、『あの分団長は、本番が終わったら、副分団長をしてる〇〇さんに告白しようとしてる』みたいな噂もチラホラと聞いたりする。


 内心、唾を吐いてやりたくなったよな。


 何もない連中はひたすらに青春を謳歌してるってのに、俺は何をしてるかって言うと、とある奴らの仲を引き裂こうとするただの悪人だ。


 今更だけど、同じ歳だってのに、ほんとこの差は何なんだろう……。


 はぁ……。


 ……って、まあ、そんなこと考えても何の意味もないんだけどもね。


 とにかく、俺は俺で、できることをやっていくしかない。


 人間なんてそれぞれだ。


 辛い時もあれば、幸せな時もある。雨降りな時もあれば、晴れが続く日だってあるもんなんだから。


 てなわけで、切り替えていこう。


 本番までにやるべきことがまだある。


 最後、俺はそいつに助けてもらわなければならない。


 だから、交渉をしたいんだけど――


「おいおいー、暗田くーん? 君さー、歩くんに喧嘩売ってるってマジ気なーん?」


 その交渉相手が、自ら堂々と朝っぱらから教室で話しかけてきた。


 ――佐藤俊二。


 進藤グループきってのチャラ男で、すぐに女子へナンパしようとするヤバい奴。


 いつもテンション高めだし、俺が一番関わりたくないタイプなのだが、ちょっとだけ頭の悪そうな言動をしたりするところがあって、何気に憎めない奴でもあるという不思議な男。


 まあ、わかりやすく言ってしまえば、勢いだけのおバカってところだ。こいつほど扱いやすい存在はいない。たぶん、進藤辺りも同じこと思ってそう(そんなのは性格が悪い陰キャのお前だけだ、というツッコミは無し)。


「……さぁ。何のことだよ?」


 話しかけられたのが教室内だということもあり、下手をすればギャラリーを大勢作ってしまう。


 俺はなるべく目立たないよう、声を小さめに誤魔化して見せる。


 ――が、


「しらばっくれても無駄じゃん? 俺、歩くんに色々聞いたし、大河もまあまあ話してくれたしー?」


 いつも通り、大きめの声で佐藤自身が話すため、否が応でもクラスメイトの視線は俺たちに集まって来た。


 外野の方に居座り、「それなー」とかヤジ飛ばしてる大平が憎い。絶対あいつの差し金だ。


 進藤もだが、あいつもあいつでキレてる。


 どいつもこいつも、バカにされたり、危機に陥ってる進藤のためにと、健気な連中ばかりだ。泣けてくるね、まったく。


 ただ、そんなお前らのせいで傷付いてる女の子がいるのも、俺は知ってる。どっかのふざけた奴に痴漢冤罪吹っ掛けられ、青春の種さえも刈り取られた奴だって知ってる。


 許すことなんてできない。


「はぁ……」


 わざとらしく、聞こえるようにため息をついてやる。


「いやいやいや、何ため息ついてんの!? 状況わかってる!? 俺、結構キレてる系よ!? 危機感感じてる、暗田くん!?」


「感じてるよ。同時に、お前が進藤たちの差し金で送り込まれた兵器だってのも理解できた。気の毒だったな。お前の主人はポンコツだから、お前を上手いこと操作してやることができない。残念だ」


 俺の言葉に、教室中がざわついた。


 なんだ、もう既にギャラリークラスメイトほぼ全員じゃん……。


「おい、ちょっと待てよ」


 突如として別の方からする声。


 俺は声のした方を見るのだが、見た瞬間に思わず「うわ」と声が出てしまった。


 大平大河だ。またこいつかよ。今度はクラスメイト全員の前で暴行してくるつもり? だとしたら、俺もう普通に訴えるけど。


「さすがに今の発言は調子乗り過ぎだろ。マジキモいぞ、お前」


 はい、出た。害悪陽キャ特有の謎に何でもかんでも気に入らないモノへ『きもい』とか言っちゃう癖。


 お前の方が万倍気持ち悪いわ。略し言葉連呼してんじゃねえよ、ハゲ。


 ――という風に、雲行きが怪しくなってきたところだったが、朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴り、担任が教室へと入って来る。


 そのタイミングで、佐藤や大平含む、全クラスメイトたちが席に着いたり、自分の席へ戻ったりしていった。


 ただ、だ。


 そんな折、俺は去ろうとする佐藤の肩を持ち、強引にグイっと引っ張る。


 そして、俺の口元辺りに近寄せられた奴の耳へ――


「……昼休み、お前一人で俺の元へ来てくれ。頼む。お前の大事な進藤のことが掛かってんだ」


「……え?」







※※※ 

ここまで読んできてくれた方々へ。ありがとう。終わりが近付いてきてます。

次回、一話挟んで、遂に体育大会当日。そこで色々決着を付けさせようかと考えてます。

次作の構想も何本かある状態なので、またすぐに連載スタートができると思います。「おっぱい委員長」の方も終わりが近付いてきてるので、ダブルで終われそうな感じですね。

では、あまり語りすぎるのも良くない気もするので、ここらで。またよろしくお願いします。

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