第42話 冤罪加害者の困るモノ
相変わらず方々から敵意を向けられまくる俺だったけど、遂に体育祭の大本命イベント・借り物リレーが幕を開けた。
参加してる奴らを含め、競技のサポート役を任されてる同じイベント執行委員の奴らだって、これからどんなことが起こるのか、知る由もない。
唯一知ってるのは、ゴール前に置いてある札の整理係をしてる亜月さんくらいだ。
今も遠くから、放送席に座る俺のことをチラチラと見てきている。
――大丈夫。作戦通りにやれば上手くいく。緊張はするけど、ここで俺は無実を証明するんだ。
ゴクリと生唾を飲み込み、鼓動の早くなった心臓をどうにか落ち着かせる。
そして、競技開始のBGMスイッチを入れた。
『次の競技は、借り物リレーです。各分団の皆さん、頑張ってください』
マイクを使って、俺は声を出す。
恐らく放送委員の奴らだろう。ひそひそと後方で何かを言ってる。
少しだけ「なんでアイツが」とか聞こえてきたし、たぶん俺のことでなんか言ってんだろう。想像に難くない。
何でもいいけど、とにかく俺の合図で競技は始まった。
ゲートから借り物リレーに出場する生徒たちが続々と駆け足で400メートルトラックの方へやって来る。
その中には佐藤の姿と、大平の姿、そして真中の姿があった。
珍しいかもしれないが、この借り物リレーは男女混合になってる。
これは俺の意図じゃないけど、イベント執行委員内での意見を元にこうする運びとなった。何でも、男女の仲も深めようだのなんだの、そんな理由だった気がする。どいつもこいつも発情しすぎだ。俺も人のこと言えないけどさ(実際女子と密着したい願望は確かにある)。
とまあ、そんなこともありつつ、出場選手の中の第一走者がスタートラインに立ち、次走者、つまりバトンを受け取る生徒たちは少し離れたところで待機。
スタートの合図を出す、ピストル係の先生が「よーい」と構え、
「どん!」パァン
という銃声と共に、一斉に第一走者が走り出す。
始まった。いよいよ本格的に始まった。
策にハメようとしてる人間――真中は第四走者。つまりアンカー前だから、もう少し先の登場だが、俺はマイクを握る手を汗で濡らしながら、分団テントで応援する一人の男子へ視線をやる。
「頑張れよー! 里佳子ー!」
進藤歩。
何も知らずに真中の名前を呼ぶあいつは、数分後にいったいどんな顔をするんだろうか。
あいつが中途半端に八方美人を演じなければ、亜月さんが困ることは無かった。真中が俺に痴漢冤罪を吹っ掛けてくることも無かった。
悪気はないんだろうけど、諸悪の根源は進藤だ。
少しばかり痛い目を見てもらう。
次に、進藤から名前呼びで応援されて、照れながら手を振り返してる女子――真中里佳子。
あいつはあいつで、俺をどん底にまで突き落としてくれた張本人。
これから、それなりの末路を辿ってもらう予定だ。既に上利先輩にはアシストしてくれるようお願いしてる。
で、最後に諸々の応援テントやらにいる一般生徒たち。
奴らにも、これから俺の無実を知ってもらう予定。
本当の事実を知れば、いったい連中はどんな反応をするんだろう。
今からドキドキが止まらない。
第一走者、第二走者と進んで行き、真中のいる分団が一位でタスキを繋がている。
そして――
「よしっ、行け里佳子ー!」
真中がタスキを前走者から受け取り、遂に走り出した。
俺は相変わらず「~分団、速いです! 頑張ってください!」なんてありきたりな盛り上げセリフを喋ってたんだが、真中が走り出した瞬間、思わずセリフ読み上げの声を裏返らせてしまう。緊張しすぎだ。
一つ、二つと障害物を乗り越え――遂に用意してた罠・ゴール前の札へ奴が辿り着いた。
作戦はバッチリ。ちょうど亜月さんが細工して置いた札を真中はめくる。
あの札に書かれたモノと一緒に最後のゴールまでを駆け抜けなければならない。
奴が共にゴールを目指さないといけないもの。それは――
「……へ……?」
――『好きな人』だったのだ。
唖然としたようにその場で立ち尽くしてたのが、しっかりと動揺してるのを表してた。
俺は内心、一人で「よし」とガッツポーズするのだった。
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