第5話 亜月さんお守り計画
「……そういうことがあって、私は暗田くんに変態にして欲しいってお願いしたの。すべては里佳子たちに好かれるためでもある。なんか、ごめんなさい。こう言うと、あなたを利用したみたい。今更だけど」
「……いや、別にそこは全然気にしてないからいいんだけどさ……」
亜月さんが俺にとんでもないお願いをしに来た理由。
それを洗いざらい聞いて、俺はなんというか、グループに属する陽キャラ集団の人間関係の面倒くささに心底嫌悪感を感じていた。つい、顔をしかめてしまう。
話はこうだった。
クラスでもおなじみの陽キャラ集団、真中里佳子を筆頭に男女それぞれ三、四人で構成されてる計七人ほどのそれに亜月さんは内心付き合いのため仕方なく誘われる形で入っていた。
しかし、元々、その陽キャラグループにいる奴らとは性格的に合わないと感じ取っていた彼女は、グループで行動を共にするうちに、徐々にその合わない空気感というものを輪の中で発してしまっていたそうだ。
具体的に言えば、微妙に趣味の話で噛み合わなくなり、シケた空気を作り出してしまう元凶になったり、それによったイジリも出始め、最近ではイジリがいじめになりつつあるんじゃないか、と思い始め、悩んでるようだった。
俺に『変態にして欲しい』とか言いに来たのも、真中たちの下品な下ネタトークに着いて行けず、苦笑いを繰り返してばかりだった際に嫌味を言われ、『下ネタ修行ってことでさ、暗田に変態にしてもらいに行ってきなよ』とありがたーい言葉を頂いたことが理由だという。
俺からすれば、『何のつもりだよ、クソが』ってところだが、どうせそれは罰ゲーム的な何かであり、亜月さん本人が推測してる通り、いじめの域に発展しつつある。
罰ゲーム扱いされてる俺が心配するのもおかしな話ではあるものの、聞くだけで非常にむかっ腹の立つ内容だった。
――お前のせいで俺はここまで嫌われるハメになったんだぞ、真中。地獄にでも落ちろよマジで。
過激な言葉だが、それ以外のワードが浮かんでこないのも事実。
亜月さんも亜月さんで、そんな人間関係すぐに切り捨ててしまえばいいのに、と思う。
……思うんだけど、それが上手いこといかないから、健気にも俺にお願いしに来たんだろう。変態にしてください、と。犯されても仕方ない、と。
「……バカだろ、控えめに言ってさ……」
「……へ……?」
感情の高ぶりから、気付けば口から言葉が漏れ出てたらしい。
小声で言ったのをもう一度聞き取ろうとして、亜月さんが俺の方へ耳を澄ましてくるリアクション。
俺はそんな彼女を無視して、一人ため息をついた。
「亜月さん、教えてくれてありがとう。状況はよくわかった。苦労してるのは、俺だけじゃないだなってのもわかったよ」
「い、いえいえ、そんな。私のなんて暗田くんに比べたら全然だし、比較対象にもならないよ」
「そんなことないって。よく、『俺はここまで苦労してるから、お前の苦労なんてまだまだだ』とかいう奴いるけど、人それぞれ考え方も違うし、捉え方も違うんだ。辛い、苦しいと少しでも思ったら、それは全部苦労してることのジャンルにぶち込んでいいことだよ。そこに差なんてない。弱音だって全然履いていいと俺は思うし」
「で、でも……」
「デモも何もない。思いはしっかりと主張することが大事なんだ。海外の政治に対する国民の動きだってそうだろ? 日本人は意見をハッキリと言わないのが悪いとこだよね。海外の人なんて集団で文句言いまくってるのに」
「それは私にはよくわかりませんけど……」
ジトっとした目で俺に言い、亜月さんは続けた。
「……ただ、それでもね、私は……この人間関係を簡単に切ることができないの……。笑っちゃうよね。すごい愚痴っぽく抜けたいオーラ全開で言ってるのに……」
俺は首を横に振る。
「……いや、別に笑いはしない。そういうグループを抜けたりとかって、部活の退部とか転部とかみたいに免罪符になるような届け出用紙もないし、面倒なのは死ぬほどわかるよ」
それは友達がいなくても。他人から嫌われていようとも、だ。
今まで寝ぼけながら学生生活を送ってきたわけじゃない。俺にもそういった面倒さを感じるシーンに幾度となく直面したことがあったのだ。ああいうのを想像すればわかりやすい。
「……それは……そうだね、確かに。人間関係って……一度構築されるとすごく面倒」
言って、吹っ切れたように「はぁー」とわざとらしく声に出してため息をつく亜月さん。それからさらにヤケになりながら続けた。
「私、叶うことなら過去に戻りたいよー。今ばっかりはアニメでよくあるタイムリープものの主人公が羨ましく思える。もう、里佳子たちと仲良くする前のとこまで戻ってさー」
「なら、トラックに轢かれてくるといいんじゃない? 一発で現実どころかストレスフリーな異世界に飛べると思うけど」
「うん。現実だとそれは天国に異世界転生だね。ていうか、異世界転生じゃなくて、それもう死んじゃってるよね。勝手に私を殺そうとしないでね、暗田くん。もしかして、君も私の敵なのかな?」
「敵でも味方でもないダークヒーローってところだね。嫌われ者だし」
「嫌われ者って……。それ、全然ダークヒーローと関係なくない? 恰好つけたいだけじゃん」
ジト目で言ってくる亜月さんに対し、俺は首を横に振って否定。
「関係あるよ。ダークヒーローってのは、ある種気まぐれで人助けするから」
「……え、ってことは……」
「ああ。その話聞いて、ちょっと俺もムカッときた。手伝うよ。亜月さんが快適な高校生活を送れるようになるところまで」
俺は正直に、本心からそう言った。
他人より、自分の身を案じたらどうだと言われればそれまでだが。
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