第40話 お互いにアピール

「よし、そろそろゲームを始めるぞ」


最後のメニューが終わり、残るは五対五のゲームのみ。


十分、一クォーター分だけ。

それを男女交互に繰り返していく。


「それじゃ、勇夢。Bチームのポイントガードとして入ってくれ。竜弥はAチームのポイントガードな」


「うっす」


「はい!!!」


既に新人戦に出場するポイントガードは二年生の主力メンバーの一人と決まっているが、控えのポイントガードとして……智之は勇夢と竜弥でかなり迷っていた。


(パッと見では勇夢の方がポテンシャルは上だが、それだけで決まる訳じゃないからな)


勇夢に期待しているところがないといえば嘘になるが、それでも今年の春に新入生として入部してきた竜弥の頑張りを見てきた。


人一倍練習に熱心で、人一倍強くなることに関心がある。

そんな竜弥に期待している気持ちもある。


この一試合、次の世代の正ポイントガードをどちらに任せるかという意図もある。

勿論、この試合だけで決まることはない。

これからの成長を考えれば二転、三転することもある。


(まっ、結果次第では控えのポイントガードも二年生が務めることになるけどな)


そんなことを考えている間に、試合開始ティップオフ!!


最初はBチームがボールを持ち、試合スタート。

二人以外のメンバーが殆ど二年生ということもあり、上級生の試合スピードについていければ、即戦力と証明できるチャンス。


「……」


ボールは直ぐにポイントガードの勇夢に渡り、キョロキョロ見回し、パスコースを探す。


(今だ!!!)


竜弥は勇夢の視界からボールが切れていると思い、前のめりになり過ぎない程度に手を伸ばし、スティールしようとしたが……それを呼んでいた勇夢。


大きく左にスライドし、竜弥のスティールを回避。


(罠だったか!)


それでも前のめりになり過ぎてないお陰で、直ぐに追いついて体勢を立て直す。


次は何を行う……と考える隙を与えず、勇夢はもう一度左に大きくスライド。


「っ!!」


そのスピードとタイミングは竜弥をワンテンポ置き去りにし、そのままシュートを放った。


(いきなり!?)


試合開始してからまだ二十秒も経っていない。

初めての練習参加、現環境で初めてのゲーム。


普通に考えれば、最初のワンプレイはパスに徹する。

そんな考えが頭にあった竜弥は、慌ててジャンプしがら手を伸ばしてシュートをブロックしようとするが、ボールは既に勇夢の手から離れていた。


「……よし」


放たれたボールはボードに当り、綺麗にリングに跳ね返り、ネットをくぐった。


いきなりスリーポイントシュートを放ち、あっさり決めてみせた勇夢に歓声が飛ぶ。


「ナイッシュー!!!」


「メンタル強いな、おい」


「良いぞ、良いぞ! もっと攻めてけ!!」


次はAチームが攻める番。

ボールはポイントガードの竜弥に渡り、先程とは逆の状態。


勇夢は竜弥のドライブを経過し、腰を落としてハンズアップ。

鋭いドライブが来ても対応出来る様に神経を尖らせる。


そして竜弥が何度かドリブルをつき、呼吸を整えたところで……なんとドライブにはいかず、先程の勇夢と同じ様にスリーポイントラインより外側からシュートを放った。


「えっ!」


この選択に驚いたのは……マッチ相手の勇夢ではなく、シュートを放った竜弥だった。


(予想が当たって良かった)


明らかにドライブを警戒しているディフェンスの姿勢をしていた勇夢だが、実は竜弥先程の自分と同じくシュートを撃ってくるのではと予測していた。


まだ千沙都や結月と比べれば付き合いは短いが、なんとなくバスケの事になると気が強くなると感じていた。


であれば、自分がやられたシチュエーションを即座にやり返すかもしれない。

そんな考えがぱっと頭に浮かび、見事的中。


「ナイスブロック!!!」


即座に反応したAチームの二年生が勇夢のブロックを称賛しながらブロックされたボールを手に取り、ゴールへ一直線。


そのまま見事なカウンターを決めた。


「くそっ」


竜弥としては上手く虚を突いたと思った。

リングに真正面からのシュートには自信があり、ボールを放った感触は……必ずリングに入ると確信できた。


だが、読み合いでは勇夢が勝った。

確かに虚を突いたシュートではあったが、身長差と元々の予測もあってブロックに成功。


これは決して勇夢と竜弥の勝負ではないが、個人的に二連敗したと感じた竜弥は悔し気な表情を浮かべるが……直ぐに切り替える。


まだゲームは始まったばかりであり、アピールするチャンスはある。

そう思い、焦らず冷静さを保つ。


それからは無理にやられたことを直ぐに返そうとはせず、Aチームメンバーの助けもあり、勇夢をドライブで抜き、そのままシュートを決めることも出来た。


一年生にしては、十分働けるところを見せた竜弥。


しかし、ドライブに関しては勇夢も負けておらず、チームメンバーの助け……スクリーンという壁がなくとも、何度も竜弥を抜いた。

そしてAチームのメンバーが直ぐにカバーに入っても、空いた隙を見逃さずにパスを出し、広い視野を見せた。


そして十分という結果の中でかなり点が入り……結果は二十一対三十一と、Bチームの勝利で最初のゲームは終了。


この結果に……竜弥は微かに焦りを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る