第3話 変化に気付いた者

「……はぁ~~~~~~~~。一生分の勇気を使い果たしたかも」


家に帰った勇夢は先日同じく、帰って部屋着に着替えるなりベッドへ倒れ込んだ。

ただ、胸の中の気持ちは全くの別物。


(物凄くやってしまった感が残ってる……でも、もうやってしまったものは仕方ないよな)


もしかしたら上手くいかない。

上手くいかない可能性の方が高いのではないか?


そう思っていた勇夢の作戦は見事に予定通りに進んでしまった。


「これで俺と九条先生は恋人……じゃなくて、浮気の関係になった……んだよな」


その通り。

勇夢と千沙都は恋人というノーマルな関係ではなく、浮気というアブノーマルな

関係となった。


だが、ここで勇夢の頭の中に一つ疑問が浮かんだ。


(あれ? そもそも俺が九条先生のことが好きという気に入っていたとしても、別に九条先生は俺のことをただの一生徒としか思ってないし……てか、普通に今回の件で表情に出さないかもしれないけど、嫌いになってるよな)


勇夢はそれだけのことをしたという自覚はあった。

だが、そうでもしないと今のところ身長ぐらいしか取り柄がない勇夢が千沙都と特別な関係を持つことは、どう考えても無理だった。


そこに関しては間違いない。


(まっ、そこに関してはどうでも良いか。はぁ~~~~……早くデートとかしてみたいな)


男女が行うことといえば、まずはデート。

碌な恋愛経験をしてないチェリーボーイの勇夢が思い付くのはそれだった。


(でも……俺も阿久津と同じ高校生なんだし、九条先生とデートする時はなるべく俺だって分からない格好で外に出るべきだよな)


今更ながら、かなり面倒だなと思い始めた。

だが、本来であれば絶対に巡ってこないチャンスを手に入れた。

そう思うと少し気が楽になった。


翌日、普段よりも少しドキドキしながら学校に到着すると……教室が普段と違う景色に見えた。


(なんだろう……この感覚。俺がリア充? になれたから、いつもと違う景色に感じるのか?)


無理矢理関係を持っただけなので、決して勇夢は陰キャからリア充に昇格はしていない。


しかし、同じ教師だけではなく生徒からも憧れの存在である千沙都と浮気関係を持ったという事実が、勇夢に謎の自信を与えた。


(……にしても、あの阿久津が九条先生と付き合ってたなんてな……本当に意外というか、真面目に色々と気になる)


クラスカーストの中でもトップクラスに位置する存在、阿久津竜弥。

名前だけ見れば、とてもカッコいいのだが……本人はカッコイイよりも可愛い系の男子生徒。


髪型はマッシュに近く、本人は可愛い系の見た目が少しコンプレックスに思っているが、多くの女子生徒はその可愛さにやられることが多い。


(九条先生って……もしかしてショタコンなのか? いや、それは阿久津に失礼か……でも、阿久津の見た目は完全に幼い系というか可愛い系だし……)


まだ高校生活が始まったばかりとはいえ、勇夢には殆ど友達がいない。

故に、竜弥と千沙都の関係性の情報なんて、全く回ってこない。


しかし竜弥と千沙都が幼馴染という関係を知っているのは、クラス内でも殆どいない。


(できれば、マイナスから少しずつプラスの印象にもっていきたいけど……俺はあぁいう見た目を目指すべきなのか?)


一瞬だけそんなバカなことを思ってしまったが、直ぐに無意味だと理解して頭を横に振った。


そもそも勇夢の見た目は可愛い寄りやカッコイイ寄り……そのどちらでもない。

加えて、身長もそれなりに高いのでそういった見た目を目指したところで、失敗して黒歴史が出来上がってしまうのがオチだった。


小説を読みながらあれよこれよと考えていると、ホームルームが始まる時間となり、担任である千沙都が教室に入ってきた。


(……ちょっと目が腫れてる? というか、普段はない隈??)


ある意味特別な関係となった千沙都に目を向けると、表情こそ普段と変わらないが、勇夢は微妙な変化に気付いた。


(千沙都ねぇ……もしかして、昨日の夜泣いてた?)


その変化は勇夢だけではなく、千沙都の恋人である竜弥も気付いていた。

だが、昨日は全く連絡を取っていなかったので、何が原因でいつもと違うのか分からない。


(後でちょっと聞いてみよう)


学校ではなくとも、竜弥には学校中の生徒が持っていない千沙都の連絡先を持っている。


そしてそれは、今勇が最も欲しいと思っている情報。

ただ……それ自体は比較的直ぐに手に入ると思っていた。


しかし連絡先の情報を手に入れる為には、千沙都が顧問を担当している女バスが練習日でないのが条件なので、今日は少し都合が悪かった。

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