第23話 最後までビシッと

運良くといった要素はあれど、見事選抜リレーで一位をもぎ取った勇夢たちは自分たちのクラスに戻ると、あっという間にもみくちゃにされた。


(褒めてくれるのは、嬉しいけど……つ、疲れた)


普段は太らない為にもっと体を動かしている勇夢だが、組の勝敗を左右する勝負……そんなプレッシャーが重くのしかかり、普段より疲れが大きいと感じた。


「お疲れ、勇夢!!! 超カッコ良かったぜ!!」


「桃馬も、超カッコ良かったよ」


「いやいや、MVPは勇夢だったぜ!!」


桃馬の言葉に一緒に選抜リレーで戦ったクラスメイトたちは全員頷いた。


「桃馬の言う通りだな。前の二人が運良くバランス崩したってのはあっても、その前に自力で一人抜いてたしな」


「運を引き寄せたって感じだったな」


「無警戒だった鳴宮がいきなり迫って来て、思わずビビッて転んだんじゃねぇか?」


「それあり得そうだな」


他クラスの選抜メンバーが無警戒だったのは事実であり、二組に負けた他のクラスの選抜メンバーたちは、勇夢がいったいどんな人物なのか話し合っていたが……直ぐには情報が出てこなかった。


「よっしゃ!! 最後までビシッとやろうぜ!!!」


「「「「「おう!!!」」」」」


(皆、ちょっと元気過ぎない?)


これから一年女子の選抜リレーがあり……二年生、三年生も同じことを繰り返す。


勇夢たちの勝負は終ったが、まだ組全体の勝負は終っていない。

どの学年も最後まで自分の組を応援し続け……三年生の選抜リレーが終了。


各組の合計点は少し前から見れない様になっており、現在実行委員が最後の計算を行っている。


(多分……勝ったんじゃないか?)


勇夢たち一年二組は選抜リレーで勝利し、女子は惜しくも二位。

二年生、三年生の青組も優勝争いに絡む順位だったこともあり……勇夢は自分たち青組がトップでもおかしくないと思っている。


そしてついに合計点数が一桁ずつ明かされ……二位の赤組と三十点差で、見事青組が優勝をもぎ取った。


「優勝は、青組です!!!!」


体育祭実行委員長が青組の優勝を宣言した瞬間、青組のクラスは一斉に歓声を上げた。


真剣に……真面目に、ガチで取り組んだからこそ、天辺を取れた時の気持ちは格別だった。


勇夢も桃馬とハイタッチを交わし、自分たちが優勝したことを心の底から喜んだ。

青組の優勝が決まった後、諸々の流れが終了し……勇夢たちは自分たちのクラスへと戻る。


「素直に言おう。私は、今回の体育祭で優勝できて、凄く嬉しい」


普段はあまり見せない、純粋な千沙都の笑顔に……男女問わず、今日一日頑張って良かった思えた。


「だが、明日明後日の休日が終えれば、直ぐに授業が始まる。気持ちを切り替えていくんだ」


唐突に現実を突き付けられ、二組のテンションは急転直下。

千沙都の言葉は間違っていないが、今の生徒たちにはあまり直視したくない現実。


ただ、千沙都は直ぐにニヤッと笑った。


「しかし……お前たちは本当によく頑張った。今日は打ち上げに行くなり好きにして、店に迷惑掛けない程度に存分に勝った喜びに浸れ」


急転直下したテンションは直ぐに急上昇し、生徒たちのテンションは爆上がり。


帰りの会など連絡事項をパパっと済ませ、本日は解散となった。


「千沙都先生も一緒に打ち上げ行きましょうよ!」


直ぐに打ち上げはどの店で行うかという話になると、一人の女子生徒が千沙都に対し、一緒に打ち上げをしようと提案した。


(千沙都先生も一緒に……それはそれで楽しそうだな)


勿論、打ち上げ最中に千沙都に絡む勇気など無いが、見てるだけで十分楽しいと思えた。


だが、それを千沙都はあっさりと断った。


「すまないな。まだこれから仕事がある」


そう……生徒たちの勝負は終ったが、教師たちの仕事はまだ残っている。

それに、教師には教師の打ち上げがある。


「それに、私たちは仕事が終われば、まだお前たちには早い場所で楽しむ」


それだけ言うと、千沙都は速足で残っている仕事を終わらせるために、職員室へと向かった。


「私たちにまだ早い場所って……絶対に居酒屋だよね」


「千沙都先生もこう……ぐいっと飲むのかな?」


耳に入った言葉を想像してしまい、頭の中にぐびぐびとビールを飲む千沙都を浮かべてしまった勇夢。


(……いや、その方がなんか……千沙都さんらしいな)


なんてことを考えながら、教室から出て決定した打ち上げ場所に二組全員で向かい、クラス内カーストなど関係無しに、この日はクラス全員で騒いだ。


因みに、勇夢は殆ど歌わずに注文したパーティーサイズの料理を黙々と食べていた。


決してカラオケで歌うのが嫌いな訳ではないが、大勢の場だと……見てる方が楽しい派なのだ。


「ほら、勇夢。一曲歌おうぜ!!」


「……一曲だけな」


桃馬に肩を組まれ、渋々デンモクに細かい内容は知らずとも、全員オープニングソングは知っているであろうアニメの曲を歌った。


知ってる人は知ってる曲なので、途中から何人か参加し、非常に盛り上がった。


こうして勇夢たちの体育祭は終わり……家に帰ってから現実に戻った勇夢は、ベットに寝転がりたい気持ちを抑え、机に向かった。

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