第22話 運も実力のうち?

桃馬たちの元へ戻り、勇夢は母に作ってもらった弁当と、千沙都に作ってもらったおにぎりを腹に入れた。


(ヤバい……超美味い。おにぎりって、こんなに美味しかったっけ)


母が作ってくれた料理も、勿論美味しいと感じる。

だが、それ以上に千沙都が自分の為におにぎりが心の底から美味しいと感じた。


「……勇夢、そのおにぎり辛いのか?」


「へ? なんで」


「いや、薄っすら涙が浮かんでたからよ」


恋人ではないが、憧れている人が自分の為に作ってくれた料理。

そんなシナジー効果もあり、勇夢にとって今食べているおにぎりは涙が出そうになる程美味かった。


(危ない危ない。自分でも気づかなかった)


まさか涙を流しそうになっているとは気付かず、慌てて目をこすった。


「いや、そんなことないよ……ちょっと眠気が襲ってきたからかな」


「眠気って……もしかして、夜遅くまでゲームしてたのか? 午後は選抜リレーもあるんだし、しっかりしてくれよ」


「あぁ、分かってるって」


全員リレーと大繩は終ったが、まだ最後の勝負……選抜リレーが残っている。

ここで勝てば、千沙都にまた褒めてもらえる。

そう思うと、当然やる気が湧き上がってくる。


勇夢の意識は桃馬たちと喋りながらも、既に最後の勝負である選抜リレーに向いていた。


ただ……ここで一つ、勇夢はとある可能性を完全に忘れていた。


千沙都は自分におにぎりを作ってくれた。

その理由は、勇夢が生徒ではなく……ある意味特別な関係を持つ人物であり、こういう事をしなければ、彼の機嫌が変わって秘密を上に報告されるかもしれないという思いがあったから。


しかし、そういった理由ではあったが、千沙都はしっかりと勇夢に望みであるおにぎりを作った。


であれば……正真正銘の恋人関係である竜弥には何も作っていない?

勿論そんなわけがなく、千沙都は竜弥の為に料理を作るために、朝早く起きて弁当を作っていた。


そしてその料理は現在、その恋人である竜弥が勇夢の前で食べていた。

少し考えればそれぐらいは予想出来そうだが……勇夢の頭には、既にそういったことを考える隙間がなかった。


無駄に嫉妬をせずに済んだ。

そう考えれば、その考えに至らず良かったのかもしれない。


(千沙都ねぇが作った弁当……やっぱり美味しいな)


竜弥がそんなことを思いながら弁当を食べているとは知らす、勇夢は昼休みが終わるまで楽しい時間を過ごした。


そしていよいよ体育祭の午後の部が始まり、相変わらず旗を振ったり同じ組の先輩たちを応援し続けた。


(なんか……青春してるな~)


普段、全く絡まないクラスメイトと絡み……一緒に自分たちの組を応援。

誰も勇夢のことを疎まず、一緒にハイになって必死に……声が枯れるまで応援しようと、声を出し続けた。


「よっしゃ行くぜ勇夢!!」


「うん」


いよいよ一年生だけで行う選抜リレーが始まる。


選ばれた生徒たちだけがグラウンドに入り、全員リレーの時よりもピリピリとした雰囲気が流れる。


他クラスのメンバーたちは、自分が入ってる部活にいない……全く顔が知らない面子が二組のメンバーに入っており、いったい誰なんだと小声で喋っていた。


陸上部ではなく、サッカーでもなければ野球部ではなく、バスケ部でもない。

その他の運動部にも入っていない者が、何故選抜リレーのメンバーに入っているのか?


少し考えれば理由が出てきそうだが、もう選抜リレーが始まる為、考えるのを放棄した。

クラスから選ばれたメンバーは全員で七人。


勇夢の順番は四番。

スタート前からドキドキが止まらない。


だが、いざ始まればそんな泣き言は言ってられない。

高校生になっても覇気の無さはな変わらないが、それでも中学の頃からバスケ部でスタメンとして舞台には立っていた。


自分が番が回ってくれば自然と落ち着きを取りも出し、冷静にバトンを受け取り……その後はまた最高スピードを更新しようと、全力で走り抜けた。


他クラスの選抜メンバーの脚も速く、勇夢に回ってくるまでの順位は四位。

だが、そこまでの差はなく……ギリギリ限界突破しそうな勇夢が目の前の走者を抜かし、三位に躍り出た。


このまま三位の状態で次の状態に繋げる。

そう思っていると、目の前に第二走者がカーブに失敗して盛大にこけた。


「うわっ!!??」


一位と二位も勿論接戦であり、体勢を崩した二位の走者は左側に崩れ……そのまま一位の走者にぶつかる。


いきなりの衝撃で体が揺れ、転びそうになるが……なんとか寸でのところで転ぶことはなかった。


だが、体勢崩さない様に堪える為に失速し、完全に立て直す前に勇がチャンスを流さない為、全力で追い抜き……次の走者にバトンを渡した。


まさかの最下位からトップに駆け上がり、青組の生徒たちは大歓声を上げた。

一年二組だけではなく、青組である上級生たちも一年二組の生徒から勇夢の名前を教えてもらっており、全力でその功績を称えた。


そして、残りの走者は運良く生まれた他組との間は最後まで潰されず……見事一位に輝いた。

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