第21話 マックスを越えて
「頑張れーーー!!!!」
「負けんじゃねぇぞ!!!」
「良いぞ良いぞ、抜いちまえ!!!」
全員リレーは勇夢が想像していた以上に白熱。
足の速い生徒が良い感じにばらけているからか、そこまで大差が生まれることはない……今のところは。
だが、それでも勇夢の番が回ってくる頃には、二組は現在三位。
一位に躍り出るには前の二人を抜かさなければならない。
(人は見かけによらないとは言うけど……いけるか?)
勇夢の出走順はほぼ真ん中。
状況的に……まだ前の二人を抜かせないことはない。
「鳴宮君!!」
クラスメイトの声が聞こえ、後ろを振り返りながら走る。
そしてしっかりとバトンを落とすことなく受け取り、全力ダッシュ。
走るフォームがどうたらこうたら考える余裕はなく、ただただ全力で走る。
「いけ、勇夢!!!」
「抜ける抜ける、抜かせぞ!!!」
クラスメイトたちからの声援も聞こえ、自然と気持ちが昂る。
「よっしゃ!!!!」
ついに勇夢が前二人を抜き、トップに躍り出た。
二組の生徒たちは盛り上がり、勇夢次の走者にバトンを渡してレーンの中に戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「お疲れ!! 良く走ったな!!」
「ナイスランだったぜ!!」
「あ、ありがとう」
クラスメイトたちから労いの言葉を貰い、頑張った価値があったなと感じた。
だが、まだ勝負は終っていない。
息が整ったら勇夢も応援に参加し、普段は出さないような声量でクラスメイトにエールを送る。
そして最後の走者、アンカーにバトンが渡り……二組で一番足が速い陸上部の男子生徒が僅差で一位を追う形となり、二組の生徒たち声援はマックス状態。
だが、それは他の組も同じであり……自分たちの席で観ている二年生や三年生たちも自分と同じ色の走者たちを全力で応援。
「おっ、ら!!!」
最後のゴールまで約十メートル付近で二組のアンカーが一位のサッカー部を抜かし、トップとなり……そのままゴール。
長い全員リレーが終わり、勝者となった二組のテンションは限界突破。
その熱は自分たちの席に戻ってからも冷めなかった。
「勇夢、中盤凄かったな!!」
「ありがとな、桃馬。でも、桃馬だって足が速い奴らに負けてなかったじゃん」
最初に足が速いメンバーを持ってくるというのは、どの組も採用していたアイデア。
桃馬も並の陸上部より足が速いため、他のクラスに後れを取らない為にもその辺りの走順に配置された。
そこで桃馬は見事前の一人を抜かし、順位を上げた。
「部活で毎日走ってるからな」
「えらいな。この調子、午後からの選抜リレーも頑張らないとな」
「だな……てか、俺らはその前に大繩があるだろ」
「…………全員リレーで凄いテンションが高くなってたから、すっかり忘れてた」
勿論、大繩では手を抜こうなんて考えてない。
ただ大繩ではタイミング良く跳んで、足がが引っ掛からないように気を付ける。
それだけしか出来ず、全員のタイミングが合わないと厳しいので、中々凄い記録を出すのが困難。
昼休みになる前に勇夢たちの大繩が行われたが……結果は惜しくも二位。
だが、この結果に二組の生徒たちは不満を持つことはなく、我ながら良くやったという表情で満足気だった。
(……このままいけば、一位になれるか?)
体育祭なので、勿論最後は順位が発表される。
現在勇夢たちの青色は二位であり、一位の黄色を追いかける流れ。
しかし、赤と緑ともそこまで大差はないので、油断していると順位をひっくり返される可能性は十分ある。
「それでは、これから四十分の昼休憩に入ります!!!」
昼休憩に入り、各々好きなグループで飯を食べる。
勇夢も桃馬と一緒に飯を食べようと思っていたが、スマホに一通のラインが届いた。
(ッ!!! 直ぐに行かないと)
桃馬に直ぐ戻ってくると伝え、千沙都からラ〇インで送られてきた場所に向かう。
そこは授業で実験を行う理科室前。
現在は体育祭中ということもあり、誰もいない。
勇夢はダッシュでそこに向かうと、既にジャージ姿の千沙都が待っていた。
「廊下を走るな」
「す、すいません。急いだほうが良いと、思って」
全員リレーの時も本気で……今までで一番本気を出したのではないかと思うぐらい、全力で走った。
しかし、メッセージが送られてきてから理科室前に到着するまでのダッシュの方が、もしかしたら思いっきり走っていたかもしれない……と、本人は思わなくもなかった。
「それもそうだな……ほら、これが約束のおにぎりだ」
千沙都は三つのおにぎりが入った袋を勇夢に渡した。
「あ、ありがとうございます」
確かにラ〇イン内で約束はしていたが、いざ実際に受け取ると……嬉しさがこみ上げてくる。
「……全員リレー、ナイスランだった。午後も期待してるぞ」
それだけ最後に伝え、千沙都は颯爽と去っていた。
今度はメッセージではなく、直接褒められ……もう勇夢の幸せ度はマックス越えて限界突破だった。
「…………やべ、早く戻らないと」
幸せ過ぎて数秒ほど放心状態となっていたが、直ぐに我に返り、桃馬たちの元へ戻った。
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