第20話 どこまで注文できる?

なんやかんやであっという間に中間テスト終了から時間が経ち、体育祭当日がやってきた。


その間…………勿論、千沙都とのデートはない。

だが、勇夢的には全く問題無かった。


何故ならテスト終了時のお褒めの言葉を貰い、更に体育祭の前日の夜に一つ、またメッセージが送られてきた。


『明日、何か欲しい物はあるか?』


「ッ!?」


このメッセージを見た瞬間、勇夢は思わずスマホを落としそうになった。

幸いにも、まだラ〇インの画面は開いていないので、既読は着いていない。


(こ、これはどういう意味が込められてるんだ?)


明日、何か欲しい物はあるか? ……いったい自分は何を注文して良いのか分からない。

特別な関係を持ったとはいえ、初めてのデートの日以外、まだゆっくりと話せていないので……せいぜい、それなりに話す友人に届かないぐらいの関係。


なので、このメッセージに対してどう返すのが正解なのか分からない。


少しの間考え込んだ結果、明日は体育祭……欲しい物は明日に限定されている。

それらの情報から、勇夢はおそらくベストであろう回答を導き出し、ラ〇イン画面を開いて返信した。


『おにぎりが欲しいです』


特に作るのが面倒ではない。

だが、手作りで作れる料理。


我ながらベストな回答だと思った。

すると、即座にまたメッセージが来た。


『分かった。明日の活躍を期待している。おやすみ』


「ッ~~~~~……うし! 頑張ろう!!!!」


直接本人の口から出た言葉ではないが、勇夢にとってはこのメッセージだけでも嬉しい。


ただ、もう体育祭は明日なのでやれることはなく、就寝のメッセージを返して早く寝るのみ。


いつもはもっと遅い時間までゲームをしたり漫画を読んだり勉強したりと、中々早い時間に寝ないが、今夜だけはささっとベッドに入った。

そして……不思議と早く夢の中へ飛び立ち、翌日はベストコンディションの状態で起きることが出来た。


朝食を食べ終えた勇夢いつもよりテンション高めの状態で登校。

途中で桃馬と合流し、速攻でいつもよりテンションが高いことがバレた。


「楽しそうだな、勇夢」


「体育祭だからな」


中学の頃から、学校行事の中で体育祭は割と好きな方。

というのは、友人である桃馬も知っている。


ただ、今日の勇夢からはこれまで以上に、何かを楽しみにしている……という勇夢の状態に勘付いていた。


「勇夢……やっぱりお前も男ってことだな!」


「まぁ、そういうこと……いや、そういう事じゃないから」


桃馬が何を言っているのが理解し、即座に否定した。


(桃馬ってこういうところあるよな。だから今まで彼女が出来たことないのか?)


注意したところで治らないだろうと思い、その思いは口に出さなかった。

そして勿論、いつもより若干テンションが高いのは、そういった思春期の男子特有のムフフな楽しみではない。


「隠さなくても良いって」


「……桃馬はもう少し隠したらどう?」


なんて会話をしていると学校に到着し、荷物を教室に置いてホームルームなどを終わらせれば、いざ体育祭の始まり。


(ジャージ姿なのに華がある……改めて色々跳び抜けてる人だよな)


身長は百七十五と、女性の中では高く、スタイルは抜群。

容姿は言わずもがな、そこら辺のアイドルが霞むほど別次元。


そんないつもは見れない千沙都のジャージ姿を目に焼き付けながら、グラウンドに移動。


校長先生たちへの宣誓、準備運動などが終わり、さっそく他の組との戦いが始まる。

勇夢たちの学校は一学年に四クラス。


そして一組から順に赤、青、黄、緑と組が別れる。

勇夢たちは一年二組なので、青組所属。


体育祭では割と運動部以外の生徒も積極的に参加し、応援合戦も盛んに行われている。


「鳴宮、交代してもらっても良いか?」


「うん、分かった」


勇夢もクラスが一丸となって勝とうとしている空気を読み、旗を振る役割を全うする。


(これ、意外と重いな)


大きな旗を綺麗に八の字に振り回すのに最初は苦労したが、とりあえず次の交代がくるまで全力で振り続けた。


「鳴宮、そろそろ変わるぜ」


「ありがとう。よろしく」


普段関わることがないクラスメイトとも、気軽に会話出来る空間。

やはり体育祭は良いイベントだと思えた。


ただ……同じ組の先輩たちを応援している時も、旗を頑張って振っている時も……勇夢はとある人をずっと見ていた。


(写真で撮れたら一番良いんだけど、恥ずかしいというか……クラスと全く関係無いところ撮ってたら変だしな)


意外と拘束が緩く、体育祭でスマホを使って写真を撮ることは禁止されていない。

だが、全く関係無いゲームをしていたり、SNSを見ていたりすれば……即没収される。


「勇夢、そろそろだな」


「だな……一位取れると良いな」


「何言ってんだ。絶対に取るんだよ!!」


桃馬の言葉に一年二組の生徒たちも気合の入った言葉を口にしながら同意。


いよいよクラス対抗、全員リレーの時間が始まる。

勇夢は運動部じゃないのに足が速いという理由で、中盤……一位であれば更に突き放し、下の方の順位であれば巻き返す。という役割を与えられた。


足が速い運動部のメンバーたちがスタートラインに着き、スターターピストルの音と共に、第一走者たちが駆けだした。

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