第19話 しょうがない思春期

中間テストが終わり、そろそろ体育祭の時期が近づいてきた。


気の利く先生は授業をささっと終わらせ、種目決めの時間に使って良いと宣言。

その気の利く先生は勿論……勇夢たちの担任である千沙都だった。


因みに、一年生の勇夢たちが参加する競技は全員リレーと大縄跳び。

そして一部の者たちは選抜リレーに参加する。


授業時間のあまり時間では、主に全員リレーの順番を決める。

しかし、その前に男女別れて行われる選抜リレーのメンバーが決めが先に行われた。


「……鳴宮、お前なんで部活入ってないんだ?」


担任の千沙都から渡された五十メートル走のタイムが全員分書かれている紙を見て、陸上部の男子が思わず尋ねた。


「いや、ほら……部活って疲れるだろ」


「そりゃそうなんだけどよ……これはどう考えても勿体ないだろ」


勇夢の五十メートル走のタイムは六秒一。

高校男子の平均タイムを大きく上回っている。


「勇夢は中一の頃から脚は速かったもんな」


中学からの同級生である桃馬は特に驚かない。

中一、中二、中三と順調に五十メートル走のタイムを縮めた。


バスケ部でも相手チームの遠距離パスを防いだりと、その速さに助けられたことが多い。


「なぁ、部活入ってないなら選抜リレーのメンバーに入れといても良いか?」


「あぁ、良いよ」


体育祭で良い結果を出せば、また千沙都からお褒めの言葉を貰えるかもしれない。


そんな物凄い不純な動機でメンバーになることを了承。

全員リレーでも最後の方の重要な順番に据えられ、問題が起こらなければ、それなりにアピールできると確信。


そして昼休みが過ぎ、五時間目と六時間目の授業が終了。

部活に入ってない勇夢ここでいつも通り一人で家に帰ろうとしたが……そうはいかなかった。


「行くぞ、勇夢!!」


「うぉ!? ……はっ? どこに行くんだ? 桃馬は部活だろ」


「何言ってんだ? これから選抜リレーの練習だろ」


「……マジ?」


「マジマジ。勇夢、もしかして聞いてなかったのか? まっ、とりあえず行こうぜ」


本日は体育の授業があったので、体操着もジャージもある。

だが、速攻で家に帰れないのは予想外だった。


(……特に用事がないのに帰るのはバカだよな)


本番に失敗しない為にも練習は大切だと思い、溜息と一つ吐いてから桃馬と教室から移動し、体操着に着替えてグラウンドへと向かった


練習といっても、ガチで他クラスの選抜メンバー競い合う訳ではなく、バトンの受け渡し練習がメイン。


とはいえ、練習に一度は全体の流れを掴むために、それなりに本気で走る。


「ふぅーーー、ただ走るってのも、偶には悪くないな」


「そうか? 何も考えずに走ってると、結構頭スッキリするぞ」


「……俺はスッキリするまでにギブアップしそうだな」


勇夢の言うことがあり得ないとは思わないが、部活の外練習の際に行うランニングでさえ苦手意識がある桃馬にとって、休日に走るという桃馬の神経は少々理解出来ない。


「勇夢、次は女子の番だぞ」


「そうだな……って、なんでそんなちょっとキモイ顔してるんだ?」


「うるせ! 見てりゃ解るっての」


桃馬に言われた通り、女子がそこそこ本気で走り、練習する姿を見る。


(あぁ~~、なるほど。そういう理由か……まぁ、ちょっとキモイ顔になってしまうのは仕方ないか)


勇夢は女子の練習光景を見て、直ぐにその意味を理解した。


その理由は……がっつり走れば、女子の胸が激しく揺れる。

ただ、それだけの理由。


ガキか。


そう思う者がいるかもしれないが、高校一年生なんて一番思春期な時期と言っても過言ではない。


これは桃馬と勇夢だけではなく、同じクラスメートの選抜メンバーや、他クラスの男子も同じことを考えている。

桃馬と同じくバスケ部から参加することになった竜弥も人並みに乳は好きだが、そこまで他の男子ほどだらしない顔はしていなかった。


その様子を……千沙都と特別な関係を持つ勇夢は見ていた。


(阿久津はあんまり興味なさそうって顔してるな。もしかして下ネタが嫌いなタイプか?)


勇夢も昔はあまり好きではなかったので、もしそうであるならば、多少なりとも気持ちは解る。


(……もしかしたら、既に生の胸を見たことがあるのか?)


母親親戚の姉という存在を除き、既に生乳を見たことがある……という経験をしているのならば、あそこまですました顔になるのも理解出来る。


仮にそうだとするならば、その乳を持つ相手は誰なのか?

勇夢だけがその相手が誰なのか、瞬時に辿り着く。


(仮にそうであるなら……あっ、駄目だ。これ以上考えるのは予想)


妄想するのが悪いことではない。

ただ、不肖の息子が元気になってしまうのが、周囲の状況的に

よろしくない。


(もしそうなら、それはちょっとなんというか……不満というかズルいというか……いや、幼馴染としても千沙都さんがまだ高校生の阿久津に手を出すか?)


二人は恋人同士なのでそういう事をするのは決してズルくはないが、色々とアウトではある。


ただ、勇夢はそれを自分と千沙都がすれば……それはそれでアウトなのを忘れて、不満を心の中で呟いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る