第18話 もやもや吹き飛ぶ

「勇夢、助かったぜ!!!」


「そりゃ良かったな。まっ、桃馬の坊主はちょっと見てみたかったけど」


中間テストの結果が全て返ってきた。

高校生活が始まってから、まだそこまで経っていないのでテスト範囲は広くないが、それでも勉強が苦手な桃馬にとっては、絶対に乗り越えなければならない試練だった。


「おまっ、そんな恐ろしいこと言うなよ!!」


「はは、すまんすまん。それで、結果はどうだったんだ?」


「ふふ……どうよ!!」


中間テストは主要の五科目……正確にはテスト科目は八つ。


ちょっと問題の解説や採点ミス訂正の時間などを詰め、一日でテストが全て返ってきた。


「…………桃馬、これからはもうちょい、日頃から勉強を頑張ろうな」


「そ、その生暖かい目はやめてくれ。てか、これでも結構頑張ったんだぜ」


桃馬は勉強会以外の時でも勇夢と勉強する時間をつくり、勇夢自身の勉強時間はあまり邪魔しない様に……なんとか頑張った。


その結果、赤点ラインである三十点以下どころか……五十点以下の教科が一つもなかった。


一応八十点越えの教科も二つあり、桃馬としては会心の出来だと自信を持って言える。


「というか、勇夢はどうだったんだ?」


「こんな感じ」


「…………勇夢、勉強し過ぎて熱出したりしてないよな」


「熱出てたらテスト受けられてないっての」


勇夢のテスト結果は……殆ど九十を超えており、中には百点の科目もチラホラとあった。


「いや……お前、そんなに勉強でき……やる時はやれてたか」


「だろ。今回は春休み入って、高校入学してからもちょいちょい頑張ってたからな」


本人としても、ここまで結果が上手く出たのは少し予想外だった。


(まっ、千沙都さんにエールを貰ったから頑張れた、ってのもあるんだよな)


吉祥寺で別れた時に会話ではなく、テスト一週間前になった日に……勇夢は全く期待していなかったが、千沙都からラ〇インで応援のメッセージが届いた。


関係としてはイチャイチャラブラブする関係ではないので、毎日のように連絡をすることはない。

なので、まさかの千沙都の方からメッセージが来るのは予想外中の予想外……そして、当たり前だがテンション爆上がり。


「桃馬だって珍しく頑張れてたし、これからも続けていけば良い点取り続けられるって」


「……努力してみるわ」


「その気持ちが大事だよ」


その日はバスケ部は部活がなく、勇夢はサラッと帰ろうとしていたが……一緒に勉強会をした面子に捕まった。


そしてマ〇クで誰一人として赤点を取らなかった祝勝会をし、その後はカラオケで飲んで騒ぎ……解散。


(カラオケとか久しぶりに行ったな……今度は千沙都さんと一緒に行ってみたいな)


流れ的に断る訳にはいかなく、最後まで一緒に行動した勇夢だったが、思っていたより祝勝会を楽しめた。


「……ここからはまだ忙しいよな」


中間テストが一段落し、千沙都をデートに誘おうかと思った勇夢だが……千沙都が女バスの顧問だという事を思い出した。


そろそろ大会などが始まることを考えると、容易に誘えないと思い、また別の機会にしようと決めた。


「はぁ~~……デートしたいな~」


家に着いた勇夢ベッドに転がり、盛大に本音を漏らす。

向こうは社会人で、学校の教師。

あまり無茶を言えないのは解っているが、それでもやりたいことはやりたい。


無謀にもお誘いしてみるか否か……ごろごろと転がりながら悩んでいると、スマホからラ〇インの着信音が鳴り、見ると……千沙都からのメッセージが届いていた。


『よく頑張った。次も期待している』


勇夢は千沙都が授業をしている教科、歴史のテストで満点を取った。

言葉としては味気がなく、とても簡素。

特別な関係を持っている相手への言葉ではなく……単に教師から生徒に対して贈る言葉というのが妥当なところ。


「……よっしゃ!!!!」


だが、勇夢にとってはもやもやしていた気分が一気に晴れる魔法の言葉だった。


よく頑張ったと、今回のテストに対する努力を褒めてもらえた。

加えて、最後に次も期待していると、ありがた過ぎる応援の言葉を頂いた。


「勉強するか」


本日テストが返却され、同級生と祝勝会をして普段とは違う楽しい疲れを感じていた。

今日ぐらいはもう、勉強しなくてもいいだろ……と思うのが普通かもしれない。


しかし、不意に燃料が着火された勇夢はガバっと起き上がり、風呂の時間になるまで机に向かい、歴史の勉強を始めた。


そして風呂上り、さすがにもう勉強する気力は起きず、本体のスイッチを入れてス〇ブラを始めた。


(勉強は……特に歴史はこのまま頑張る。ただ、やっぱりこう……もっと他に探した方が良いよな)


千沙都に褒められそうな……何か良いイベントはないか。

CPUをハメ技で潰していると、一学期の中間テストが終わったあとにある行事を思い出した。


「そういえば、体育祭があったな」


部活はやっていなくても、そこら辺の運動部よりは動ける男、勇夢。


体育会系の千沙都のなら本気で取り組む行事だろうと思い、体育祭まで運動する量を少し増やそうと決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る