第17話 結局伝えられない

「にしてもさ……勇夢。お前あんなに女慣れしてたっけ?」


「どういうことだ?」


図書館での勉強会を終え、帰宅途中に桃馬からいきなり身に覚えのないこと言われ、首をひねる


「どのまんまだよ。陽向たち相手に普通に教えてただろ。俺の記憶が正しければ、勇夢あんなに女子と喋れなかったと思うんだが……まさかお前、俺に内緒で彼女つくったりしてないよな」


「……桃馬、お前珍しく勉強し過ぎたせいで、頭おかしくなってるんじゃないか? 俺にそんな勇気がある訳ないだろ」


彼女……ではないが、特別な関係を持った人がいるのは事実であり、少々ドキッとした。


ただ、口に出した言葉はまるっきり嘘であり、変なところで勇気を出し、千沙都と関係を持った。


「それもそうだよな……でも、結構さらさらと喋れてたじゃん」


「別に解らない部分を教えてただけだからな。そこまで緊張とかはなった……と、思う」


「へぇ~~……それじゃあ、陽向とかが隣にいても、全くドキドキしなかったのか」


「桃馬、その質問は卑怯だろ」


勇夢も立派な男子高校生。

結月のような美少女JKと距離が縮まれば、当然の様にドキドキしてしまう。


「やっぱそうだよな。どうだ、うっかり惚れたりしたか?」


「それはない」


ドキドキはしてしまうが、惚れることはないと断言出来る。

少なくとも、高校を卒業するまではうっかり千沙都の女性に意識を引き寄せられることはない。


「おぉう、超断言するじゃん。もしかして……実はもう、他に好きな人がいるとか」


「そんな訳ないだろ。そもそも、俺みたいなモブが陽向みたいなカーストップの異性を好きになったところで、って話だろ」


性格は悪くない。顔も良く、スタイルも良い。

あんまり勉強が得意でないところも好感が持てる。


ただ、普通に考えて……仮に結月に惚れたとしても、告白しても恥をかくだけ。

そういう流れも理解しているので、高校三年間……自分が異性に恋をすることはないと思っている。


「それもそうか……ちなみにだけど、陽向は竜弥とできてるんじゃないか、って噂があるんだよ」


「……マジで?」


「おう、マジでマジで。二人とも日頃から結構仲良さげじゃね」


学校での日常風景を思い返すと……それらしい光景が割とあった。


(確かに、休み時間とか一緒にいることが多きがする)


しかし、現時点で竜弥には千沙都がいる。

それを考えると、結月が阿久津に片思いをしている……という状況が正のではと思えた。


自分にしてはあっさりと噂の真実に辿り着いた……と思ったが、細かい事情は話せないので桃馬の意見を否定しなかった。


「そうかもしれないな……もしかしてだけど、中学が同じだったりするのか?」


「らしいぜ。中学の頃から仲が良くて、同じ高校に入学して同じクラス。あの二人と同中の奴らは、もう付き合うのは秒読みじゃないかって思ってるんだとよ」


「なるほど。それは確かに高校生の間に付き合い始めてもおかしくないと思ってしまうな」


勿論、そんなことは思ってない。

中学から付き合いがあり、同じ高校に進学……そして同じクラスになった。


確かに若干運命の様なものを感じなくもないが、竜弥は既に歳の離れた幼馴染とくっ付いてしまっている。


「てか、そういう桃馬は彼女が出来そうなのか?」


「お、お前……いきなり鋭い槍を投げてくるなよ!」


桃馬は決してブサイクではない。

勇夢にはイケメンではなくとも、雰囲気イケメンの部類には入ると思っている。


勉強はあまり出来ないが、運動はそこそこなんでも出来る。

加えて社交性があり、多くの女性が異性に求める一緒に居て楽しい人……という条件は満たしている。


桃馬の友人的には彼女があっさりできてもおかしくないと思っているが、未だに彼女いない歴イコール年齢というのが現実だった。


「ったく、勇夢だって彼女つくれてねぇだろ」


「……ほしいとは思うよ。でもさ、漫画とかゲームの話が出来る女子っていないじゃん」


「それはそうだな」


勇夢にとって千沙都は特別枠なので、その部分は気にしていない。


しかし高校を卒業してから彼女をつくるのであれば、なるべく話が合う人が良いと考えている。


高校生らしい話をしながら別れ、自宅に到着した勇夢は母が作ってくれた夕食を食べた後、思いっきりベッドにダイブ。


「陽向が阿久津のことをねぇ……確証はないけど、結局それを伝えることも出来ないよな」


二人はこっそり付き合ってるから、阿久津のことは諦めた方が良いよ。

なんてデンジャラスな内容を伝えたら、色々と厄介なことに発展してしまう。


最悪の場合、千沙都が辞職に追い込まれる可能性もあるので、親切心で伝えることは出来ない。


もし、結月から告白された時……竜弥はどうするのか。

そんなことを考えながら時は進み、中間テストが到来。


クラスメートたちが絶望、悲観している中……勇夢はいつも通りの表情でテストを受け、割と良い点数と獲得した。


そして中間テストが終われば……学生時代のイベントの一つ、体育祭が始まる。

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