第32話 誰かに取られる前に
竜弥SIDE
阿久津竜弥は、この春……念願の目標を達成。
それは、歳の離れた幼馴染である九条千沙都に告白し、付き合う事。
自身の恋心に気付いたのは早く、小学生低学年の頃から漠然と千沙都に対して好きという感情を持っていた。
幼い頃にそういう意味で千沙都に好きだと伝えたことがあるが、竜弥のことを弟の様に思っていた千沙都は本気で自分のことを異性として好きだと思っている、とは考えなかった。
歳上らしい対応で軽く受け流した。
それでも竜弥の千沙都に対する思いは消えない。
ただ……年齢の差もあり、竜弥が小学生になる頃には千沙都は中学生。
竜弥が中学生になる頃には、大学生になっていた。
時が経つにつれ、相変わらずご近所ではあるが、顔を合わせることは少なくなっていく。
そして中学生にもなれば、千沙都が男性から一般レベルより遥かにモテるという事実を理解する。
そうなると、ますます焦りが生まれた。
何々を達成したら、告白しようなどの目標を立てたこともあるが……それは竜弥一人だけの目標で達成できるものでもなく、上手くいかなかった。
もっと千沙都につり合える男になりたい……そういう思いがある一方で、このままだといつ他の男に取られるかもしれない。
そんな恐怖もあった。
そこで……何か目標を達成したわけでもない。
だが、それでも千沙都を他の男に取られたくないという一心で、中学を卒業したタイミングで千沙都に告白した。
竜弥の告白に対し、千沙都はもっと竜弥に似合う女性がいる……などど、歳上らしい言葉で断ろうとしたが、そんなどこにでも転がってる様な言葉で竜弥が諦めるわけがない。
どれだけ自分が千沙都のことが好きなのかを伝えた。
今まで一番真剣な表情で……覚悟を決めた顔で、自身の愛を口にした。
「わ、分かった……その大胆に付き合うことは出来ないが、それでも良かったら」
「ッ!!!」
告白からもう少し間が空いていたら、竜弥はやっぱりだめかもしれないという不安で涙を零しそうになったが、最後は良い意味で涙がこぼれた。
竜弥が千沙都に告白した時点で、千沙都が教師を行っている高校に入学することは決定した。
それもあってここは断るべきだと思っていたが、竜弥の覚悟が決まった顔……眼の奥を見て、どれだけ自分のことを好きだと…愛しているのかを感じ、その思いを受け取った。
当然、高校に入学してからは教師と生徒として接する。
名前を呼ぶときも、九条先生と呼ぶ。
割と我慢出来そう……そう思っていたが、雰囲気と流れに身を任せてしまい、一度校内でハグをしてしまった。
周囲に誰もない空間だったので良かったものの、バレたら一発で色々とアウトだった。
(はぁ~~、今日は危なかったな)
その日、家に帰ってベッドに寝転がりながら校内でハグしてしまった事を思い出した。
直ぐに離れたが、それでもその時の感触と匂いがまだ残っている。
「……ッ!! いや、今はそういう事よりも、もっと鍛えないと」
竜弥は中学から始めたバスケットボールにかなりガチでのめり込んでおり、まだ高校のバスケ部では新入り同然だが、本気でレギュラーを狙っている。
欲を言えば、スタメンになりたい。
ただ、全国常連などではないが、それなりに真面目に練習を行い、それなりの結果を残している部活。
練習もきっちりしており、現三年生のポイントガードのポジションを奪うのは容易ではない。
それは自覚しており、煩悩で頭を覆いつくされそうになった竜弥は、少しでも持久力を鍛えようと思い、いつものランニングコースに向かった。
(もっと強く、上手くならないと!!)
高校一年生になった竜弥の身長は百六十二センチ。
平均身長と比べると、約六センチも小さい。
大きければ良いという訳ではないが、バスケットボールでは大きいことが不利な要素になることは、基本的にない。
自分の武器はスピードとドリブル。
更に四十分走り切れる持久力を手に入れれば、スタメンを手に入れるのは無理ではないと考えている。
身長を伸ばすことは諦めてはいないが、それでもしっかり前を向いている竜弥。
そんな竜弥にとって、偶々同じクラスメイトになった人物の言葉に、少しばかり不快感を持つようになった。
「バスケを嫌いになったわけじゃないけど、あんまり部活っていう縛りの中でやるのが嫌になったというか……そんな感じかな」
勉強会に参加した同級生、鳴宮勇夢が同じ勉強会に参加しているクラスメイトとの会話で、そんな言葉を漏らした。
「……勿体ないね。俺だったら、そんな身長があれば部活に入らないって考えはないよ」
勇夢の言葉に、思わず……無意識に棘のある言葉を返した。
「お、おう。そうか」
勇夢の戸惑いを含んだ返事が聞こえ、しまったと思った。
悪意がある言葉ではなく、ただの本心だった。
そんなの良く考えれば分かる。
ただ、平均身長に届かない竜弥にとって、百八十センチに届きうる身長を持つ勇夢は羨ましく、嫉妬心を持ってしまった。
(いけない、勉強に集中しよう)
本当に勿体ないと思っている。
しかし自分が口出す件ではないので、黙って再度試験勉強に集中した。
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