第31話 もう色々超えてるのでは?
料理があまりにも美味しく、千沙都は腹六分目ほどになるまでとあることを忘れていた。。
当然だが、店で料理を食べれば、お金を支払わなければならない。
「……鳴宮君、今回の昼食代はいったい幾らぐらいになるんだ?」
「えっと……多分、一万二千円ぐらいですね」
「ッ!!??」
まさかのお値段に、食事の手が完全に止まってしまった。
しかし千沙都がそうなってしまうのも無理はなく、二人分の外食で一万二千円もする食事は今まで一度も体験してない。
(ぎゅ、牛〇の食べ放題や回転寿司よりも高い!!)
何とも庶民的な考えかもしれないが、そう思ってしまうのも無理はない。
学生といえばの食事例で、勇夢がどんなに食べても大体八千円ほどで済む。
だが、今回の食事は一万円超え。
払えない金額ではないが、今日の出費がそこまで大きくなるとは思っていなかった。
「あっ、今回は俺が出すんで安心してください」
「ッ!!!???」
勇夢の口からでた言葉に、千沙都にしては珍しく思いっきり表情に驚きが出ていた。
それもその筈。
何故なら、先程勇夢は水族館の入場料を払うので、昼飯代を奢って欲しいと言われた。
(な、何を考えているんだ?)
千沙都は勇夢が何を考えているのか解らない。
解らないが……一先ず数時間前のやり取り確認する。
「な、鳴宮君。昼食代は私が出すはずだっただろ」
「えっ………あぁ~~。はは、そんなこと言ってましたね。すいません」
何故謝るのか解らない。
一般的な女性であれば、なんやかんやでその好意を有難く思い、感謝するだろう。
しかし、千沙都と勇夢は一般的な関係ではない。
それ故に……何か裏があるのではと疑ってしまい、その好意を素直に受け取れない。
ちなみに、元々勇夢は千沙都とのデートということで、昼食代は絶対に自分が払うと決めていた。
確かに約一万二千円の出費は痛いが、それでも千沙都とのデートの思い出と考えれば惜しいとは思わない。
そして上手く丸め込まれてしまい、昼食の料金は結局全て勇夢が支払った。
その後、水族館に再入場してまだ見ていなかった魚やペンギン、カピパラたちをスマホで連写。
ショーの時間前になると、ショーが行われる場所に移動。
(……わ、私はどうすれば良いんだ?)
イルカたちのショーが始まるまで、延々と勇夢に何を返せば良いのかを考えていた。
勇夢にとっては純粋な好意。
だが、千沙都にとってはどこかで一万二千円の何かを返せと要求されているように感じた。
勇夢に後日一万二千円を渡しても、受け取ることがないのは明白。
一万二千円の何かを返さなければならない。
イルカのショーを見ている間はそのことを忘れられたが、終われば直ぐにそのことで頭がいっぱいになる。
「それじゃ、今日は本当に楽しかったです。また、予定が合えば遊びに行きましょう」
「う、うむ。そうだな。また予定が合った時、何処かに行こう」
結局デートが終わるまでに良い案が出ることはなく、勇夢と品川駅前で別れ、帰路についた。
「……どうしようか」
電車の中、最寄駅から家に着くまでの間……ずっと考え込んでいたが、全く思い浮かんでこない。
普通に今度は千沙都メインで誘い、その時の代金を全て払えば良いだけの話……かもしれないが、本当の恋人がいる手前……あまり自分からデートに誘いたくないという思いがある。
とはいえ、恋愛経験がほぼゼロの近い千沙都がいくら頭を悩ませたところで良い解決策は浮かばない。
そして、こんな悩みを相談できる相手もいない。
「…………だ、駄目だ駄目だ!!」
誰に何かを言われたわけでもなく、急に大きな独り言を発する。
千沙都の顔は若干赤くなっており、勘の良い者であれば何を考えていたのか容易に解ってしまう。
勇夢としては今千沙都が考えてしまった内容がお返しの中身であれば、それはそれで思春期の男子として嬉しいので、喜んで返事を返す。
「それは教師として、さすがに……」
もう現時点で色々と教師として越えてはいけないラインを超えているが、確かにチョメチョメまでいくのはヤバいかもしれない。
これに関しては、さすがに竜弥にも高校を卒業するまで待ってもらおうと思っている。
恋人である竜弥にそういう対応をしているので、勇夢とそんなことをするなど考えられない。
「……全く良い案が浮かばないな」
時計やブレスレットなどのプレゼントもありかと思ったが、勇夢の趣味ではない。
親にそれを見つかったら……なんてことも考えると、あまり形が残るプレゼントは良くないと判断。
(ただ返すだけではなく、鳴宮が納得出来る内容がベスト……)
自分で考えるだけでは無理だと思い、ネットで色々と調べ始め……千沙都はようやくこれだ!! と思える案が浮かんだ。
「しかし……八月は無理そうだな」
そろそろ部活の合宿が始まり、終わってからも色々と予定は詰まっており……勿論、竜弥とデートもある。
千沙都の勇夢への返しは、九月が十月ごろになりそうだった。
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