第42話 勘違いしない奴だから

「……何でだ?」


桃馬と別れて家に帰り、夕食を食べ終えてベッドに寝転ぶ勇夢は……スマホの画面に映るメッセージに再度疑問を持つ。


メッセージの送り主は……陽向結月。


女バスのメンバーであり、一年生ながら今度の新人戦のレギュラーを獲得している。

そして容姿端麗、スタイル抜群であり……男子バスケ部の中には一年生二年生問わず、結月のことが気になっている者が多い。


「まぁ、別に良いか」


メッセージを味読スルーするような恐ろしい真似はせず、メッセージ内容である頼み事を了承。


返事のメッセージを送ると、直ぐにラ〇ン電話が飛んできた。


『やっほー、こんばんは!』


「……あぁ、こんばんは」


『あれ、テンション低くない?』


「何と言うか……不思議な感覚だから、どう反応して良いのか解らないんだよ」


バスケ部に入部したこともあり、勇夢は入学したばかりの頃の様に、ほぼ陰キャボッチ……のような立ち位置ではない。


しかし、自分は結月の様なスクールカーストトップの女子と、プライベートで話す様な仲にはならないと思っていた。


にも拘わらず、現在結月と電話しているこの状況が……勇夢的にはあまり信じられない。


「それで、頼み事ってのは何なんだ?」


『えっとね……鳴宮はさ、口堅い方だよね』


「そもそもあんまり喋る相手がいないからな」


今から自分は、結月が他人に知られたくない内容を相談される……それだけで、勇夢はその相談内容をなんとなく解った。


「もしかして、竜弥関係か?」


『えっ!? わ、私鳴宮にそれ話したことあったっけ』


「いや、雰囲気でなんとなく察せたというか」


上手く隠せてはいる。

友達として仲が良いという雰囲気を出しているが、勇夢は竜弥と接する時に表情から、他の男子とは違う思いを持っていることに直ぐ気付いた。


『そ、そっか……まぁ、バレてるなら話は早いか。頼みってのはさ、私と竜弥の仲を取り持ってほしいというか、色々情報を取ってきてほしいんだよね』


「なるほど……でも、なんで俺なんだ?」


結月の竜弥に対する思いを知っていたからこそ、頼み事の内容を理解出来る。

しかし、何故その役目を自分に頼んだのか……そこが理解不能。


『直感なんだけど、鳴宮なら勘違いしないかと思ってさ』


「勘違い…………あぁ、なるほど。そういうことか」


『そういうこと』


勘違いという言葉が何を指しているのか、勇夢は数秒で理解し、非常に深く納得した。


(確かに陽向にそういう事を頼まれたら、もしかしたらって勘違いする奴はいるかも……いや、大半の奴らが勘違いするか)


頼まれたのは、恋の手伝い。

しかし、このまま仲を深めていけば自分にその矢印が向くのでは、そう勘違いするおバカの方が大半。


「良いよ」


『本当!?』


「マジ、マジ」


耳に入ってくる声からしても、男の理性を揺るがす必殺の一撃である……と深々と感じる勇夢。


しかし、今の自分には千沙都という大切で……色々と複雑な関係を持つ人物がいる為、その他大勢の男子高校生の様に、うっかり気持ちが結月に向いてしまうことはない。


(色々と面白そうだ。でも、なんで本当に俺なんだ?)


自分に気持ちが向くことはなさそう。

その直感は理解出来た。


ただ、もっと竜弥と近い人物の方が良いのでは? そう思ったが、今は別に良いかと思い、後回し。


「それで、陽向はまずどんな情報が欲しいんだ」


『そりゃやっぱり……竜弥の好みのタイプね!!!』


「好みのタイプか。それぐらいは、俺じゃなくても陽向自身が聞き出せそうな内容じゃないか?」


『それがそうもいかないの。今まで何度かそういう話題になったけど、全部上手く流されたというか、曖昧な言葉で躱されたって感じ』


「なるほど」


(歳の離れた超絶美人で、高校生が敵わないようなスタイルを持ってる幼馴染が好き、なんてことは言えないよな)


面食い……という訳ではなく、そういう次元を超えて竜弥は千沙都に好意を持っている……いや、既に愛していると言っても過言ではないかもしれない。


『できれば、あまり歳上好きとか歳下好きとかじゃない方が嬉しいんだよね』


「そっちの方が勝機があるもんな」


既に正気どころか、割って入る隙間すらない。


本来であれば、もう略奪するしか……NTRという手段しかないよと伝えて上げたいところだが、相手が相手。


千沙都が真実を知った上でどうするのかは分からないが、もしかしたら竜弥と千沙都の関係が終わるだけではなく、勇夢と千沙都の関係も終わるかもしれない。


それだけは勘弁してほしい。


『もっと積極的にいければ良いんだけどね』


がっつり恋している結月だが、まだ竜弥の家に色々と口実をつくって行こうという勇気は出ない。


その勇気を振り絞る為にも、もっと仲を深めていこうと意気込んでいる。


「……俺に、目指すポジションを変えてくれ、とは言わないんだな」


結月が願っているかもしれない、と考えていた内容を口にした勇夢。


一瞬、お互いに言葉を発さない時間が続いたが、直ぐに結月が元気な声で破った。


『それとこれとは別って話よ。それに、そんな余裕ぶっこいてたら、あっという間に追い抜かれるんじゃないの?』


「はは、それもそうだな」


良い友人になれそうだと思い、少し話してから電話を切り、寝るまでベッドに転がりながら色々と考え込んだ。

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