第41話 余裕は……ない
「全然錆びてないじゃん、勇夢!!」
「そうか? 外からそう見えてるなら、ちゃんとやれてたんだな」
久しぶりの部活動。
オールコートでの五対五は本当に久しぶりだったので、少々自信がなかった。
しかし、自信があるエリアからのシュートは積極的に行い、久しぶりの試合でもしっかりとポイントガードとしての役割を果たすことには成功していた。
同じ一年生や二年生も勇夢の実力は中学レベルで止まっていないと判断し、素直に賞賛していた。
(本当に適性がポイントガードなのか不安なところは少々あったが、無意味な心配だったみたいだな)
二年生も交えたゲームを行い、その結果に顧問で監督でもある智之は非常に満足していた。
個人的には他のポジションでも試してみたいと思っているが、既に頭の中では来年のことを少々考えていた。
(途中入部であれだけ動けるということは、毎日地道に練習を重ねていた……ということか)
勇夢のプレイや、練習に一切後れを取ることなく付いてくるスタミナを実際に見て、千沙都は勇夢が見えないところで頑張っていたのだと……口には出さないが、心の中から賞賛を送った。
本音としては、ポイントガードとして差を見せ付けられた竜弥のことが心配だが、教師や顧問という立場上、真面目に努力している生徒の結果を否定することなど、あってはならない。
「勇夢、次はパワーフォワードとして入ってもらっても良いか」
「はい、分かりました」
メンバーを少々チェンジし、チーム内でどう攻めるかを話し合う。
当然二年生が中心となって攻め方を考えるが、先程の試合を見ていた二年生は勇夢がパスセンスだけではなく得点力も高いと把握しており、打てるチャンスがあれば迷わず打って構わないと告げた。
そして女バスのゲームが終わり、再度男子のゲームが行われる。
先輩から言われた通り、勇夢は責められるチャンスがあれば、どんどん攻めた。
マッチ相手は二年生だったが、経験年数の差を感じさせないプレイでディフェンスを掻い潜り、シュートを決めていく。
(……本当に色々と出来るな。新人戦で控えのポイントガードとして使うのは当然ありなんだが……パワーフォワードとして起用するのもありだな)
勇夢は当然、ポイントガードのポジションを希望している。
それは智之も把握しているが、スポーツをしていれば……どこかでアクシデントは起きてしまう。
練習中、もしくは試合でスタメンの選手が怪我をしてしまった場合、当然選手交代が行われる。
智之は勇夢同じ中学だった桃馬から当時の話を聞いており、勇夢が公式試合というプレッシャーに圧され、いつものプレイが出来なくなる……とは思っていない。
だからこそ、そういったアクシデントが起こった場合、実際の試合で起用してみたいという思いが強い。
(新人戦まで、どれだけ二年生たち合わせられるか……そこ次第だな)
二ゲーム目も勇夢が入っているチームが勝利し、その後も何度もゲームは行われ……勇夢が参加したチームは一敗のみ。
他は全勝だった。
全て勇夢のお陰で勝てたという訳ではないが、一緒にプレイしたメンバーたちは、少なからず勇夢が同じチームだから……そんな思いを持った。
「マジで昔と変わらないぐらい……いや、昔よりも断然良い動きだったな」
「あの頃より体が大きくなったからな。桃馬だって、シュートの成功率上がったんじゃないか」
「そうか? ゲームの時はいつも超集中しているから、あんまりそういうの覚えてないんだよな」
勇夢はまた中学時代の様に桃馬と公式戦で一緒にプレイしたいという思いが少なからずあり、ゲーム中でも無意識に桃馬のシュート本数や成功数を数えていた。
「にしても、久しぶりに五対五をやってあれだけ動けるなら、新人戦で竜弥を押しのけて控えのポイントガードになれるかもな」
「……だと良いんだけどな」
今日、初めて練習に参加したが……同級生たちは皆、全力で練習に取り組んでいる。
二年生たちも同じく全力……絶対に新人戦で悔いが残らない様に練習を行っている。
だが、そんな部員たちの中でも竜弥一番本気で練習に取り組んでいる。
それはなんとなく……直感と言えば、あまり信頼度は低いかもしれないが、それでも本能的にその差を感じ取っていた。
(今日は俺の方が良い感じにアピールできたかもしれないけど、竜弥だって本気でレギュラーどころかスタメンの座を狙おうとしてる)
体格では勝っているからといって、余裕ぶっこいてられない。
「てか、本当にびっくりしたぜ。お前が部活に参加するなんてな。しかも、超本気だしよ」
「まぁ、その……色々あったんだよ」
少しでも千沙都と同じ空間にいたいから。
なんてストーカーじみた理由を口に出せるわけがない。
「ふ~~~ん……俺としては、またお前と一緒にバスケ出来るのは嬉しいから、理由はなんでも良いけどよ」
「それは俺も同じだよ。ん?」
スマホにラ〇インからメッセージが届いた。
誰からだろうと思い、スマホを手に取ると……画面には、結月という文字が記されていた。
(……何故?)
予想外の人物からメッセージが届き、勇夢は思わず足を止めてしまった。
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