第29話 何を考えている?

千沙都SIDE


歳の離れた幼馴染である竜弥と関係を持ち、その関係を十分表してしまった場面を教え子に撮られ、厄介な関係を迫られた。


学校の教師が歳の離れた幼馴染とはいえ、教え子とそういう関係を持ってしまうのは非常によろしくない。


それが解っていながらも、竜弥の真剣な表情に……想いに押され、恋人として付き合い始めた。

その結果……自分が学校内だということを少しの間忘れてしまい、取り返しのつかない事に発展。


近いうちに、竜弥に別れを切り出さなければと考えもした。


だが……教え子である勇夢からの要求は十八禁漫画にあるようなガチガチの変態的な内容ではなく、最終的には厄介な関係から解放される。


(……良く解らない子だな)


不注意から竜弥との関係がバレ、しょうがなく浮気関係という不本意な関係を勇夢と持ってしまったてから約一か月が過ぎた頃、ふとそんな事を思った。


千沙都にとっては、絶対に知られたくない事情を知られた。

それを脅しの道具として使われはしたが、歳頃の高校生らしい欲望が詰まった内容……とは言い切れない。


一度デートをし、その後は数回ラ〇ンでメッセージを交わすだけ。

自分にあまり興味がない……ようには思えない。


二人きりで長い間会話をしたのは吉祥寺でデートをした時だけだが、それなりに高校生らしい反応があった。


「真面目ではあるんだよな……」


学校内での生活を見る限り、まだ半年も勇夢のことを見ていないが、客観的に見て優等生としか言えない。


裏にはヤバい顔があるのか……なんてことを考えもしたが、デートを行った時にはそんな一面、全く現れなかった。


中間テストが終わり、各教科の点数を見ても……やはり優秀。

非常に努力が出来る人間の様に思えた。

体育祭でも同様であり、帰宅部とは思えない脚の速さで勝利に貢献し、所属している組は見事優勝。


コミュニケーションが大得意とは思えないが、不得意とも感じない。

まさに手のかからない優等生……だからこそ、何を考えているのか解らない不気味さがある。


今は表に出していないだけで、いずれは恐ろしい本性を現すのでは?

偶にそんなことを考えると、体がブルっと震える。


ただ本当に自分とそういう関係を持ち、偶にデートに出かける……それだけに満足しているのかと、不安に感じる。


そんな不安を抱えながらも、最初の一回だけで……勇夢からメッセージはくれと、デートの誘いは来ない。

千沙都としてはデートなんて、恋人である竜弥としか行きたくないので、それはそれで有難いこと。


一瞬、もうこのままデートの誘いは来ないでほしい……本当に来ないかもしれない。

なんて考えたことがあった。


しかし、その考えはあっさりと潰される。


『こんばんわ。夜遅くに失礼します。千沙都さん、八月はいつ空いていますか?』


期末テストが終わり、そろそろ学生にとって……おそらく非常に楽しみなイベントであろう、夏休みが来る前にそんなメッセージが送られてきた。


どう考えてもデートのお誘い。


社会人である千沙都は学生と比べて、当たり前だが夏休みなんてお盆ぐらいなものという認識。


ただ、身を置く高校はそこまでブラックではないので、当然休みはある。

そんな事は勇夢も分かっているであろうと考え、もう予定が埋まってるなどの答えはナンセンス。


なにより、自分はあまり勇夢を不機嫌にさせてはいけない立場だと自覚している。

なので体育祭の日、頑張っている勇夢に何か欲しいものをないかとメッセージで尋ねた。


意外にも体育祭の日に、昼食としておにぎりが欲しいとメッセージが返ってきた。


愛しの竜弥には愛情たっぷりの愛妻弁当を作ったが、適当に作ってはならないと解っており、勇夢のおにぎりも一つずつ具を変えて作った。


「……この日だな」


スマホのスケジュールアプリで八月の予定を確認し、ひとまず空いている日の一日だけを指定した。


さすがに七月の下旬辺りから八月末までの間に、休みが一日だけということはあり得ない。


とはいえ、基本的に空いている日は同僚の教師や学生時代の友人、それか竜弥と一緒にいる為の時間に使いたい。

他にも空いている日はないのかと尋ねられたら答えるしかないが、訊かれないのであれば答えたくないというのが本音。


そして勇夢から返信があり、その休日に水族館へ行くことが決まった。


「ん~~……服、買った方が良いか?」


竜弥と付き合う様になってから、あまり気にしていなかったファッションに気を使うようになってきた。


まだそこまでたくさんの洋服を持っておらず、機嫌取りの為にそれなりに服を買おうと思い、服屋向かった。


しかし、結局自分のセンスを信用出来ず、店員に夏に異性と出会う時に着ていく服について尋ねた。

千沙都にそんな内容を尋ねられた店員は千沙都の様な美人をコーディネート出来ると思うと、テンションが上がって頭をフル回転。


数十分後、千沙都は店員に薦められた洋服を購入し、デート当日……その洋服一式を身に付け、品川駅へと向かった。

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