第34話 それはそれ、これはこれ

「だぁ~~~~……疲れた」


夏休みもあと少しといった時期になるころ、相変わらず勇夢は日雇いのバイトとバスケの練習、体力トレーニングなどに時間を費やしていた。


今日は肉体労働がメインの派遣バイトを終え、家に帰ると速攻でベッドに倒れた。


(今日も一日頑張ったな~……飯食べよう)


どんなに疲れていても、腹は減る。

明日は明日で外にあるバスケコートに向かい、シュート練習をしようと決めている。


なので、きっちり腹ごしらえはしておかなければならない。

そんなことを考えながら母が作った夕食をパパっと食べてしまい、自室に戻った勇夢はそのまま寝てしまいたい……と思ったが、まだ時間は八時を過ぎていない。


「走るのは無理というか、さすがにきついし……ゲームでもするか」


いくら体が疲れていても、ゲームは何時間でも出来る。


モニターとゲーム機本体を起動させ、普段から遊んでいるゲームをプレイし始めた。


(新しいゲーム買おうかな)


千沙都とのデート代を貯めるために日雇いバイトを頑張っている勇夢だが、ゲームソフトの一つや二つを買っても、そこまで支障はない。


最近人気のゲームでも調べようかと思ったところで、スマホにラ〇ンから通知が来た。


(誰だ……桃馬か)


夏休みは部活で忙しい桃馬が何の用なのかと思いながらメッセージを見ると、海にみんなで行かないかというお誘いだった。


「海か……良いな」


良いなという言葉、もし千沙都と二人で海にデートに行けたら……という妄想を考えたからこそ出てきた言葉。


(面子は勉強会を行ったメンバーか。それなら、参加しても良いかもな)


中間テストや期末テストで赤点を取らない為に集まったメンバーとは、今まで何度か一緒に遊んだことがあるので、特に抵抗感はない。


「……海パンあったっけ?」


海に行くならば、海パンがなければ始まらない。


中学の時、体育で水泳があったので授業を受けるような水着はあるが、海に遊びに行くときに履くような水着ではない。


「あったあっ、た……とりあえず履いてみるか」


押入れの中から探し出し、発見した海パンは勇夢のイメージよりも少し小さい。


しかし、とりあえず試しにと思って履いてみると……やっぱり小さかった。


「仕方ない、明日買いに行くか」


海に行くのは二日後なので、明日買いに行けば問題無い。


桃馬に了承のメッセージを返し、十時過ぎまでゲームを楽しんだ勇夢はベッドに入ってから数秒で意識がとんだ。


翌日、家からそう遠くない水着が売っている店に向かい、適当にサイズが合う海パンを購入。


(……うん、これで良いかな)


さすがに海パンぐらいは自分のセンスで選んでも良いだろうと思い、店員のセンスに頼らず自分で黒がメインの海パンを購入した。


その日は海パン購入という予定が終われば、いつも通りシュート練習と体力トレーニングを行い……翌日の準備をして就寝。


翌朝、普段より少し早い時間に起き、集合場所に向かう。


「おっ、勇夢。どこに行くんだ?」


「おはよう父さん。海に行ってくる」


「おぉ~~、高校生らしいな。女の子はいるのか?」


この時、勇夢の父は本当に軽い気持ちで尋ねた。


「うん、いるよ」


「そうか、そうか。楽しんでこい……えっ!!??」


まさかの返答に、二度寝したいかもという気持ちが一瞬で吹き飛んだ。


「ちょ、勇夢! どういうこと……って、もういない」


父親が振り返った時には、既に家から出ていた勇夢。


父親としては……息子に対してこんなこと思うのは良くないと思っているが、異性からモテるタイプではなく、そこまで社交性も高くないので異性のクラスメイトとすら、遊ぶ機会に恵まれないと思っていた。


そんな息子が女子と一緒に海に行く……詳しく話を聞きたい!!!


そう思った時には既に遅く、勇夢はチャリで駅に向かっていた。


「おっす、勇夢」


「おはよ、桃馬」


待ち合わせ場所には既に親友の桃馬が到着しており……二週間ぶりぐらいに会った桃馬は、随分焼けたなと感じた勇夢。


「桃馬……室内でバスケやってるんだよな?」


「おう、そうだぞ。でも、外でランニングすることもあるからな」


「えぇ~~~……熱中症にならない?」


普段から外で走っている勇夢がそれを言うのはいかがなものかと思われるかもしれないが、体育館という室内で走れる場所があるにも関わらず、外で走るのは……それはどうなんだ? と思ってしまうのもむりはない。


「そこら辺はちゃんと加減してくれてるからな。熱中症になることはねぇよ。まっ……超きついのは確かだけど」


「頑張ってるな……そういえば、新人戦には出れそうか?」


「いやぁ~、厳しいな。来年は出れると思うんだけど、やっぱり二年生たちもちゃんと練習してきてたから……土台の差でまだ負けてるかな」


そんなことを話している内に二人以外の男子……竜弥たちが到着し、集合時間十分前には女子たちも到着した。


(……今年の夏は、本当に充実してるな)


女子も来る……という話は、事前に桃馬から聞いていたので、驚きも焦りもない。

ただ、レベルが高い女バスの面々が私服で登場し……勇夢のテンションは顔には出てないが、確実に上がっていた。


勿論、今一番想っている人物は千沙都だが……それはそれ、これはこれという話。

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