第35話 真面目に尊敬する

「なぁ、やっぱり勇夢はバイト漬けの夏休みって感じなのか?」


「別にそういう訳じゃないよ。一日働いて、一日休んで……そしたらまた働いて。それの繰り返しだよ」


「いやいや、そんな感じで働いてるってなると……夏休みが始まってから、二十日間ぐらいは働いてるんだろ」


「……まぁ、そうなるかな」


目的地に向かう電車での道中、バスケ部の一人が勇夢の働きっぷりに大層感心していた。


(仕事が早く終わる日もあったし、予定の時間が過ぎたら過ぎたらちゃんと残業代出るし……そんな皆が驚くほど働いてはないと思うけどな)


基本的に、どんなに早く仕事が終わったとしても、最低七時間分の給料は保証されている。

勇夢は一度だけ、二時間で仕事が終わったことがあり……その時の給料は時給に換算すると約四千円だった。


そんなこともあるので、勇夢からすればバスケ部に所属している同級生たちの方が、辛いというイメージを持っていた。


「でも、皆だって毎日練習頑張ってるでしょ。合宿だって行ったんだし……俺より、皆の方が大変だと思うけどな」


休みの日は休みの日で体力トレーニングやシュート練習。

人が集まるコートに行っては、三対三に混ぜてもらっていることは、まだ言わない。


「合宿はバスケ漬けの日々だったな」


「だな。何度吐くと思ったことか」


「スポドリが大量にあったから熱中症にはならなかったけど、正直……何度もぶっ倒れたいと思ったよ」


日々の練習も大変だが、合宿は楽しい面もあったが、本当にきつかった。


これは桃馬と竜弥も同じ感想であり、結月たち女バスの面々も同じ感想だった。


「というか……勇夢は何か欲しい物でもあるのか?」


「ん? いや……まぁ、ゲームとかは欲しいと思ってるよ」


「ゲームなら、本体を買うにしても……だいたい三万から四万ぐらいあれば十分だろ」


「最近のゲーム機ってそんぐらいだよな。でも、勇夢はもう二十日以上働いてるんだろ……欲しいのがゲーム機だけってのはないだろ」


友人たちの言葉は正しく、勿論最近は欲しいゲームソフトなどもあるが……頑張って金を稼いでる理由は、千沙都とのデート費。


それが主な理由なのだが、当然……そんなこと、この場で言えるわけがない。


「別にそんな大層な理由はないよ。どこかの店でバイトするのは色々と面倒だなって思ってさ。だから、働ける時間を自由に選べる派遣が丁度良いんだよ。それで、夏休みの間に稼げるだけ稼ぎたいと思ってさ」


夏休みの間に、稼げるだけ稼ぎたい。

その気持ちは実際にバイトをまだ一度もしたことがない面々だが……なんとなく理解出来た。


「ところで……部活が忙しそうな皆は、夏休みの宿題は終ったの?」


「「「「「「うっ!!!」」」」」」


勇夢の何気ない一言に、何人かが会心の一撃を食らった。


ちなみに、普段は早めに宿題を終わらせたりしない桃馬だが、休みが被っている日などに勇夢と一緒に勉強していたので、割と終わっている。


「そ、そういう勇夢は……終わってるんだろうな」


「うん、終わってるぞ」


勇夢がそこそこ勉強できることを思い出し、笑顔で終わっている宣言をされ、三人かは海に入る前に撃沈。


「ま、まだ夏休みはあるし、最後の日まで頑張ればなんとかなるって」


「竜弥……そうだよな、頑張ればなんとかなるよな!!」


某バスケ漫画の監督も、諦めたらそこで試合終了だよ、と言っているが……仮に諦めずに頑張ったとしても、期日までに終わらせなければ、結局はアウトになってしまう。


そんなこんなで……勇夢たちは電車に長いこと揺られ、神奈川の海水浴場に到着。


海水浴場に到着した勇夢たちは速攻で遊ぶ準備を始めた。


(ちゃんと日焼け止め塗っとかないとな)


肌が思いっきり焼けるのは嫌だな~と思っていると、友人の一人が勇夢の体を凝視。


「な、なに?」


「いや……お前さ、ちょっと細マッチョ過ぎないか?」


「だな。勇夢……部活入ってないんだろ」


「入ってないよ」


「飯は結構食べる方だろ」


「食べる方だね」


「なのに……なんで腹筋がビシッと割れて、結構に筋肉付いてるんだよ!」


バスケ部面々の体がだらしないという訳ではない。

毎日大変な練習に耐えており、その成果が肉体にも表れている。


だが……部活に入っていない勇夢が自分たちと同じか、もしくはそれ以上に仕上がった肉体を持っている。

その事実に、少々目を疑いたくなる。


しかし、そんな中……桃馬だけは特に驚いていなかった。


「勇夢はちゃんと自己管理ができる奴なんだよ。太りたくないって理由で、毎日筋トレとかは決めた分、ちゃんとこなしてるみたいだぞ」


「えっ……マジ?」


「まぁ、マジだね」


特にやらなければいけない理由や環境があるわけでもないのに、体型維持の為にトレーニングを欠かさない。


そんな勇夢をバスケ部の面々は真面目に尊敬した。


そして男子たちが日焼け止めの準備などを終え、集合場所に着いてから五分後……同じく水着を着た女バスの面々が現れた。


勿論……結月たちは水着の上からパーカーなど着ずに、全員ビキニを着ていた。

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