第12話 つい、楽しんでしまった
「それじゃ、また学校で」
「あぁ、そうだな……私が言う必要はないと思うが、あと少しで中間テスト二週間前の期間に入る。ゲームや漫画を読むのも良いが、勉強を怠らないようにな」
「ふふ、分かりました」
いかにも教師と生徒らしい別れをし……二人は家へと戻った。
ただ、二人の最寄り駅はほぼ一緒なので、一緒に帰ることも出来るが……吉祥寺駅で待ち合わせした理由と同じく、周囲にバレない為になるべく顔を合わせないように電車に乗った。
(……はぁ~~~~~~~。すげぇ楽しかったな)
ボートに乗ってのんびり癒しを感じた後、夕食は食べずにそのまま帰宅といった流れ。
勇夢としては夕食を一緒に食べたいと思っていたが、まだ関係を持って大して時間が経っていないということを考慮し、今回はプランに入れなかった。
(ふふ、駄目だ。どうしても笑みが零れる)
初めて気になる女性とのデートを行い……その時に撮った写真を見て、勇夢は思わずゆるゆるな笑みを浮かべてしまう。
もしかしたら気持ち悪い顔になってるかもしれないと思い、手で覆い隠すが……写真を見ていると、やっぱりゆるゆるな笑みが止まらない。
(あぁ~~~~、駄目だ。幸せ過ぎる)
本来であれば、どう考えても生徒と教師といった関係で終わってたはずが……恋人を越えたある意味特別な関係となり、自分とデートしてくれた。
そしてそのデートの光景を写真に収めることが出来た。
これは陰キャ寄りの勇夢にとって、とてつもなく……とんでもなく、嬉し過ぎる出来事。
(次は何処に行こうかな……こう、今度は体を動かせる場所もありかな)
勇夢の頭の中では、既に次のデート場所候補と、デートコースが描かれていた。
千沙都からは中間テストの勉強もしなさいよと言われたが、意外とマメな勇夢はどたばたと慌てて始めずとも、毎日こつこつとやっているので問題無い。
(……少しは頑張っておくか)
父親からは、良い点を取ることに越したことはない……だが、基本的には平均点さえ越えてれば文句はないと言われている。
勇夢は夜に寝れないという状況を防ぐために、なるべく朝から昼過ぎまでの授業はなるべく起きている。
……偶に暇に感じて机の下でスマホをいじることはあるが、基本的に寝ることはない。
だが、テストで良い点を取ればそれだけ少しでも千沙都に対して印象アップに繋がぁるかと思い、それなりに頑張ろうと決心した。
(……普通に楽しんでしまった)
同じころ、千沙都今日一日を振り返り……自身が勇夢とのデートをそれなりに楽しんでしまっていたことに気付いた。
(いや、悪いことではない筈……でも)
異性とのデートを楽しんだ。
それは決して悪いことではなく、寧ろ今日一日を無駄にせず楽しめた……良き一日と言える。
だが、千沙都には本来……竜弥という立派な恋人がいる。
そんな恋人がいる中で、他の異性とのデートを楽しんでしまった。
それは千沙都にとって、少々不覚と言える出来事だった。
(それにしても……竜弥とは、違うタイプだったな)
体の大きさも違うが、勇夢は千沙都に対して終始……若干おどおどしていた。
二人の関係性を考えれば当然なのだが、達也は千沙都と二人でいる時は生徒と教師といった面倒な関係を取っ払って接して来る。
それが千沙都にとって嬉しく思う部分。
だが、勇夢は千沙都とかなり複雑な関係を持ち、千沙都をまだ教師と認識しているからこそ……あまり粗相がないようにと接した。
それが千沙都にとってやや大人びた対応に感じた。
(いけない、私の恋人は竜弥なんだ……それを忘れては駄目だ)
千沙都は不覚にも、次のデートでは何処に連れて行ってくれるのだろうと考えてしまった。
二人ともまだ高校生であることに変わりはないが、それでも竜弥はまず生徒と教師である前に……千沙都とは幼馴染といった関係。
恋人となったことで少しは意識の仕方が変わったが、デートプランは多少なりとも考えるが、こんな感じで良いだろうと思いながら決める程度。
年齢を考えれば十分大人な千沙都だが、恋愛経験は竜弥と付き合うまでゼロ。
勿論、異性と二人で遊ぶ……なんて経験もない。
だからこそ、勇夢の自分だけではなく相手も楽しめる……もしくは疲れが癒される内容を考えたデートは……なんて千沙都にやや刺さるものだった。
(……断れない状況とはいえ、一緒に写真を撮ってしまったのは、やはり良くなかった、か)
本日のデートを振り返り……その中で何枚も写真を撮られ、一緒に撮ったのを思い出した。
デートをすれば、道中で写真を撮ることぐらいは当たり前。
竜弥とのデートでも写真を撮ることはあるので、それぐらいは理解している。
問題は……他の者たちに対して知られたくない情報、証拠が増えてしまったという点。
勇夢にとっても他者に見られたくはないので、バレるような迂闊な真似はしない。
ただ、千沙都にとっては急所が増えたも同然。
「……すぅーーー、はぁーーーーー。切り替えないと」
また教師としての日々を考えると、そんなことで頭を悩ませている暇はない。
千沙都は誰もがすれ違いざまに目で追ってしまう、いつもの凛とした表情に戻った。
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