第39話 高校での初練習
桃馬たちと海に遊びに行った日から夏休みが明けるまで、勇夢はこれまで通りの生活を続け……千沙都と夏祭りに行きたいなと思いながらも、バイトとバスケの練習を頑張り続けた。
夏休みなのに、デートが一回だけ。
不安があってもおかしくないが、勇夢は千沙都が教師であり……社会人であることを忘れていない。
加えて、千沙都は女子バスケ部の顧問をしている。
あまり無茶は言えない。
それが分かっているので、とりあえずメッセージでのやり取りだけで我慢。
そして夏休み明け……いつも通り途中で桃馬と合流し、学校へ向かう。
「へへ、ようやくだな」
「何がだ?」
「何って、お前がバスケ部の一員として活動するのがだよ」
夏休みが明けてから練習に参加する。
それを桃馬はきっちり覚えており、もう一度勇夢と一緒にバスケが出来るのを楽しみにしていた。
「そういうことか」
「ちゃんと練習着は持ってきたよな」
「あぁ、勿論持ってきてるぞ」
男子バスケ部顧問の智之から、夏休み明け初日から練習があると連絡を受けているので、当然練習着やスポーツドリンクなどは持ってきている。
忘れ物など、一切ない。
「おはよう、勇夢! 今日からよろしくな」
「あぁ、よろしく」
教室に入ると、バスケ部の友人が声を掛けてきた。
殆どは有効的な態度なのだが、一人だけ敵対心は持っていないが、完全にライバル視している人物がいた。
(……な、なんか絶対に見られてるよな)
時おり強い視線が自分に向けられていると感じる勇夢。
その視線の主は……千沙都の恋人である竜弥。
竜弥としては本気で正ポイントガードの座を狙っていることもあり、勇夢をライバル視するなというのは無理な話。
それは勇夢も理解している。
理解しているが、あまりそういった視線を向けられていることに慣れておらず、変に緊張してしまう。
(まぁ、今だけだよな)
普段から強い意志が籠った視線を向けられるのは今だけと思い、気付かないふりをして始業式が終わるまで過ごした。
「勇夢、弁当食べようぜ」
「おう」
始業式の後、軽くホームルームをして終わりということもあり、練習前に昼食タイムがある。
一年のバスケ部同士で集まって昼食を取るが……当然、同じクラスのバスケ部以外は勇夢にとって初対面。
(こうなるのは仕方ないよ)
チラチラと自分に視線が向けらている状況がむずがゆいと感じながらも、母が作ってくれた弁当を腹に入れる。
男子バスケ部の中には、今から入部? と首を傾げる者もいたが、絶対に続かないだろう……なんて考える者はいなかった。
走力だけではあるが、体育祭で勇夢の運動部とは思えない脚の速さをその眼で視ている。
その為、ある程度身体能力が高いのは既に解っている。
身長も百八十を超えている為、それなりのバスケスキルがあるなら、自分たちの代になるタイミングでスタメンになるだろうと考える者が多かった。
ただ……竜弥の中学からの友人であるバスケ部員たちにとっては、あまり仲良く出来ない相手……という印象を勇夢に持っている。
(実際に近くで見ると、本当に大きいな)
身長が竜弥よりもニ十センチ以上大きい。
身長だけでスタメンが決まる訳ではないが、それでも重要な要素であることに変わりはない。
加えて、身長が高いだけのヒョロガリ……という印象には見えない。
そういった部分を見れば、真面目に練習に取り組んでいるタイプ……それだけを考えれば、同じスポーツマンとして仲良くなれそうと思えなくもない。
しかし……友人とポジション争いをする人物となれば、やはり嫌いではいが、仲良くはなれないと思ってしまう。
そして昼食の時間が終わり、制服から練習着に着替えて体育館へ向かう。
この時、体育館に到着した勇夢はまず……先に体育館に来ていた二年生の元へ向かい、挨拶した。
「一年の鳴宮勇夢です。よろしくお願いします!!」
「おぅ、とも先から聞いてるぜ。本当に結構デカいな。期待してるぜ」
「うっす!!」
挨拶を終えて軽く頭を下げ、床のモップがけを始める勇夢。
「とも先の言う通り、ありゃ本当に百八十センチを超えてるな」
「顔はなんというか……塩顔? 結構普通な感じだけど、体格は結構ガッチリしてるというか、ちゃんと筋肉付いてるよな」
「あれでポイントガードを目指してるんだろ……どれだけスキルや視野があるか次第だけど、もしかしたら達也の奴を押しのけて新人戦のレギュラーに入ってくるかもな」
体格に恵まれた一年生が入ってきた。
それだけで二年生たちの気が引き締まる。
床のモップがけが始まり、いよいよ勇夢にとって高校生活初の部活がスタート。
最初は軽くランニングから始まり、次はフットワークのトレーニング。
フットワークトレーニングの種類は多いが、中学時代はバスケ部に所属していたので、覚えている内容が多い。
事前に智之から聞いていたこともあり、もたもたすることはなくスムーズに行っていく。
そしてパス練習、一対一、二対二、速攻の練習などが続き……二時間後、いよいよゲームの時間が始まる。
当然……ここで智之は早速勇夢のレベルを測ろうとしていた。
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