第38話 燃える二人

「いや、ポイントガードのポジションを狙うつもりだけど」


「「「「「「え~~~~~っ!!!???」」」」」」


勇夢の答えを聞いた結月たちは全員、その内容に驚きを隠せなかった。

当然、勇夢の答えには竜弥と千沙都も驚いていた。


中学の頃はバスケ部だった……という話は、千沙都もデートの時に聞いていた。

ただ、ポジションについては詳しく聞いていなかった。


「な、なぁ勇夢。なんでポイントガードなんだ? お前の身長なら、パワーフォワードでも、これから身長が伸びればセンターも狙えるだろ」


友人の言う通り、勇夢は高校に入学してからも順調に身長が伸びており、既に身長は百八十を超えていた。


パワーフォワードなら、まずまずの身長と言えるだろう。

加えて、まだ勇夢の成長期は終っていない。

その点を考えれば……走力があるセンターに成長する可能性も十分にある。


身長が百八十センチを超えている者は、ポイントガードをしてはならないなんてルールはないが、バスケ部の面子は何故? という表情を浮かべていた。


「そうかもしれないけど、単純にポイントガードっていうポジションが気に入ってるから、かな」


チームの司令塔。

その役割が意外と嫌いではなく、ストバスに参加している時も、パス役に徹することが多い。


とはいえ、シュートもドライブも練習を重ねているので、そこら辺の腕は当然錆びていない。


「あと、憧れというか……一番かっこいいって思ってる選手が、ジェイソン・ウィリアムスだからってのもある」


魔術師と呼ばれたNBA選手。


その予測不可能なパスは、まさに魔法。

そんな偉大な選手に憧れを持ち……ポイントガードとしてバスケをしたいという強い思いがある。


(本当に願ってもない申し出だったよ)


勇夢から入部の話を聞いたとき、一年の男バスたちの様に、パワーフォワードがセンター……もしくはスモールフォワードを目指すのかと思っていたが。


目指したいポジションはどれなのかと尋ねたところ、ポイントガードという予想外の答えが返ってきた。


長身で……身体能力が高いポイントガード。

後はパスセンスさえあれば、文句なし。


ポイントガードとしての適性が高ければ、夏休みが明けてから行われる新人戦に勇夢をレギュラーに入れようと、智之は真剣に考えていた。


「なるほどな。憧れの選手がいるなら、その人みたいになりたいって思うよな」


「だな。にしても、その長身でポイントガードなら……結構平均身長が高くなりそうだな」


勇夢たちが通う高校は県立であり、中々私立の様に有望な選手が集まることはなく、必然的にバスケで重要な要素である身長が高い選手も少ない。


勿論、年月を重ねるごとにまだまだ高校生である彼らの身長、体格は変わっていくが……それでも、現時点で身長が百八十を超えている勇夢は貴重な戦力だった。


「…………」


強力? な仲間が加わる……にも拘わらず、一人あまり表情が優れないバスケ部員がいた。

それは当然、同じくポイントガードのポジションを狙っている竜弥。


一日三食しっかりと食べ、栄養面には気を使っている。

そして身長を伸ばすために、毎日決まった時間に寝ている。


出来る限りのことを頑張っているにもかかわらず、高校に入学してからあまり身長が伸びたとは感じられない。


身長が絶対という訳ではないが、それでも対戦チームと対峙した時、身長差を……ミスマッチを突かれ、相手のパスが通りやすくなってしまうなどの不安要素がある。


その点、勇夢の身長は百八十センチを超えており、腕の長さ……ウィングスパンも問題無い。


(負けられないね)


自分がポジション争い的には不利だと分かっていても、竜弥はスタメンを勝ち取ることを一ミリも諦めていない。

寧ろ、強力なライバルが現れたと思い、闘争心に火が付いた。


(……いならい心配だったか)


勇夢が正ポイントガードを目指すと知り、千沙都は気が気ではなかった。

二人の身長差は、おおよそ二十センチ。


バスケでどんなプレイをするにしても、ポジション争いでは不利な差。


自身の彼氏ということもあり、やはり竜弥に正ポイントガードの座をつかみ取って欲しいという思いがある。

というより、一瞬……勇夢が何かしらの意図を持ってポイントガードの座を狙うと宣言したのかと思ったが、今までを振り返り、そこまで中身が腐っていないということを思い出した。


なにより、強力なライバルが現れても……彼氏の表情に曇りはなく、寧ろ眼の奥が熱く滾っているように感じた。


竜弥なら、いずれ自分の力で正ポイントガードの座を掴めると信じ、この場では特に口を開かなかった。


「ったく、そういうのは親友の俺に一言言ってくれても良かっただろ」


「ごめんごめん、本当に悪かったって」


「次からは頼むぜ」


ちょっと不機嫌そう……に見えるかもしれない桃馬だが、本当は勇夢が男子バスケ部に入部してくれると知り、心の中で超喜んでいた。


(二年の時には、俺も一緒にコートに立てるように頑張らないとな)


勇夢の夏休みが明けてから部活に参加するという話題は、竜弥だけではなく桃馬に活力を与える結果となった。

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