第10話 脳内メモリー以外でも保存したい

コロッケに続いて小籠包やサンドイッチ、ローストチキンなどを腹に入れ、そろそろ腹が膨れてきた勇夢と千沙都。


(一つ一つはあんまり大きくないけど、もう結構腹に溜まってきたな。いや、ローストチキンに関してはそれなりに量があったし……意外と腹一杯になってきたな)


食べ歩きデートを始めてから一時間半程度が経ったが、勇夢はそろそろ腹が限界に達してきた。


(にしても……さっきの九条先生はなんというか、うん。超可愛かったな)


熱々出来立ての小籠包を貰い、なんと千沙都はそのままパクっと食べようとした。


(何事もバッチリこなすってイメージがあったけど、ちょっと抜けてるところもあるんだな……まぁ、そのお陰で可愛いところが見れて良かったんだけどな)


あまりの熱さに耐え切れず、「熱っ!」と言いながら少しだけ噛み千切り、直ぐに飲み物を飲んだ。

その時の反応がとても可愛いらしく、勇夢はしっかりと脳内メモリーに保存した。


(その後の小籠包をふぅーふぅーって冷ましてる九条先生も可愛かったな~~~)


その様子も、勇夢の脳内メモリーにもれなく保存されている。

ただ、ここで勇夢は一つ気付いた。


(……そういえば、まだ一枚写真撮ってない……よな)


千沙都とデートが出来るということで、集合場所で合流してからずっと舞い上がっていた勇夢だが、ここで重要なことに気付く。

今回のデートでまだ一枚も写真を撮っていない。


またの機会でも良くないかと思う者がいるかもしれないが、是非とも勇夢としては初デートの写真は残しておきたい。


「結構色々食べたな。鳴宮君、デザートは何にする?」


「えっ、デザートですか?」


まだ食べるのか?

と思ったが、デザートならまだ食べられそうな気がしたので、道中で眼に映った店を思い返す。


「それじゃあ、たい焼きはどうですか?」


「良いな」


記憶を辿りにたい焼きが売っている店まで行き、順番通りに今回は勇夢が千沙都の分のたい焼きを奢る。


そして、ここがチャンスだと思った勇夢はスマホを取り出し、千沙都に声を掛けた。


「千沙都さん」


「ん? ッ!!?? ば! な、何をしてるんだ!」


「何って、写真を撮っただけですよ。今はデートしてるんだし、写真ぐらい良いじゃないですか」


「む……そ、それはそうかもしれないが」


確かにデート中であれば、相手の写真を撮っても別におかしくない。


ただ、勇夢と千沙都は恋人同士ではなく、ちょっとややこしい関係。

千沙都としてはあまり写真を撮られるのは好ましくないが、ハッキリと断れる立場ではない。


「分かった。ただ、SNSには上げないでほしい」


「安心してください。俺はそういうの一切やってないんで」


「そうなのか? それはそれで珍しいな」


「いや、やってないってのはちょっと違うか。見る専のアカウントだけはあるって感じです」


自身の生活光景を見知らぬ人たちに晒すつもりはなく、インフルエンサーになりたいわけでもないので、何かしらをネット上にアップしようとは思わない。


(別に私生活をアップするのが悪いとは思わないけど……千沙都と特別な関係になったってことを誰かに伝えたいとか思わないしな……いや、そもそもこの関係に関しては絶対に他人に知られたくない)


千沙都と関係が他人に知られて、利点など一つもないのでこの先がどこかで気が変わったとしても、今日……今日以降に撮った写真をSNSに上げることは絶対に無い。


「……さっきみたいな写真で良かったのか?」


「はい、全然良かったです。良い感じに撮れたと思います」


そう言いながら、勇夢はスマホで撮った写真を千沙都に見せた。

写真には自然体の表情でたい焼きを口に入れている千沙都……見せられた本人としては少し恥ずかしかった。


「それで、あの……良かったら、二人での写真も良いですか」


「ッ!!!」


勇夢からの問いに、千沙都は直ぐには答えられなかった。

理由は単純であり、二人の現段階での立場を考えればお忍びでデートをしている。

写真からはそういった印象しか与えない。


勇夢がSNSなどに撮った写真を上げるつもりがないという言葉は信用出来る。


毎日運動している、勉強しているといった勇夢の習慣を信用したのと同じく、嘘を付いているとは思えない。


ただそれでも、その写真が今後どこかで悪い影響を及ぼすのではないかと考えてしまう。


「……分かった」


考えた時間はたった五秒。

たったの五秒だが、千沙都としては五分ぐらい必死に考えた結果……これまで通りの結論に至ってしまった。


「あ、ありがとうございます!!」


勇夢は単純に千沙都がツーショットを了承してくれたことが嬉しく、歳相応の笑顔を浮かべて早速千沙都に体を寄せ、相変わらず心臓をバクバクさせながら……それでも満面の笑みを浮かべながらシャッターボタンを押した。

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