第9話 忙しい心臓
「千沙都さんは、まずこういうのが食べたいってありますか?」
「そうだな……昼食は食べてないし、食べ歩きが昼食になるのを考えると、お腹に溜まる物が良いかもしれない」
「お中に溜まる物……それじゃ、まずはあれ食べませんか」
目的の場所に到着し、勇夢が指を刺した店はコロッケが売っている店だった。
昼食にはもってこいの料理であり、千沙都もありだと判断。
「良いな。そうしよう」
休日ということもあり、購入できるまで少し時間が掛かる。
その間、勇夢は何を話したらいいのか話題が思い付かず、ついスマホに手を伸ばしてしまった。
(あぁ~~~、やってしまった。でも、九条先生が漫画を読んでるかどうかなんて分からないし……話の話題を考えるのって難しいな)
もっとその点については考えるべきだったと思い、心の中で深く反省。
反省しているが……やはり自分の隣で千沙都が立っている。
そう思うと、一度落ち着いた心臓が再び高鳴りだす。
「……鳴宮君は、休日は何をしているんだ?」
と、ここで自分の休日内容を話した千沙都は、ここで勇夢の休日なようを訊き返すべきだろうと思い、無言の時間をぶった切った。
「え、俺ですか?」
「普段の学校生活からじゃ、そういったことは分からないだろ」
「そ、そうですよね……えっと、さっき言った通り軽く体を動かしたり……マンガ読んだりゲームしたり。後は、ちょっと勉強してっていうのが普段通りの休日ですね」
「休日にちゃんと勉強してるのか……偉いじゃないか」
実際にその光景を見ていないので、本当に勇夢が休日に授業の振り返りなどをしているのかは分からない。
だが、千沙都には勇夢が嘘を言ってるようには思えなかった。
そして千沙都に褒められた勇夢は……ゆるゆるになった表情を隠すのに必死だった。
そうこうしてるいる内に二人の番になり、コロッケを二つ購入。
支払いの際、勇夢はささった二人分を払った。
「鳴宮君、私の方が歳上なのだから、それぐらいは払う。いや、寧ろ私が奢るべきなのだ」
「良いじゃないですか。こういうのは男が出すものだし」
デート経験が一回もないチェリーボーイが何を言ってるんだと思われる場面だが、勇夢は食べ歩きの際に会計は殆ど自分が払える様に、財布の中に多めに野口様や樋口様を入れていた。
ただ、千沙都も何となくではあるが、勇夢の気持ちは解る……そういった思いがあるのは、竜弥と初めてデートした時に感じ取った。
気持ちは解るが……それでも、こちらは成人して立派に稼いでいる大人。
一人暮らしをしているとはいえ、デートで歳下の……しかも高校生に奢られるほど、落ちぶれてはいない。
「鳴宮君。私はあなたよりも歳上で、しっかりと稼いでいる。奢ろうとしてくれる気持ちは嬉しいが、ここは出させてもらう」
「うっ……」
絶対に譲らないという意思を千沙都の目から感じ、勇夢の少しぐらいは奢ろうと決めていた気持ちが揺らぐ。
しかし、ここで勇夢は個人的にナイスアイデアが浮かんだ。
「それなら、今回のコロッケは俺が千沙都さんの分も出すんで、次の買い物は千沙都に奢ってもらっても良いですか」
「……ふぅーーーー。分かった、今回はそうさせてもらう」
というわけで、コロッケの代金は全て勇夢が出すという形で決定。
「うむ、美味しいな」
「そうですね」
毎日料理を作ってもらっている母親には悪いが、コロッケに関しては今食べている物の方が美味いと思ってしまった。
(……あぁ~~~。駄目だ、俺は今日……先生の色んな姿を見過ぎて、嬉死しそうだ)
千沙都は身長百七十センチと女性の中ではかなり高い方だが、勇夢はそれを上回る百七十九センチ。
隣に並べば、やや千沙都を見下ろす形となり……両手でコロッケが入った紙袋を持ち、小さく食べる。
その光景を見るだけで……再び勇夢の心臓の鼓動が速くなる。
(これは……あれか、推しが傍にいるって感覚に近いのか?)
勇夢はがっつりオタクというわけではないが、異性や同性が現実に存在するアイドル……もしくは二次元の存在を愛おしく思い、金をぶっこむ気持ちは解らなくもない。
(てことは……俺は今、推しとデートしてるって事になるのか!!??)
そして、勇夢の頭はちょっとバグり始めた。
だが、勇夢もちょっと自分の頭……考えがおかしくなっていることに気付き、一回深呼吸をして落ち着いた。
「急に深呼吸なんかして……大丈夫か? 喉が渇いたか?」
「そ、そうですね。ちょっと飲みものが欲しいです」
というわけで、今度はサクッと買える飲み物を探し……今度は勇夢の分を千沙都が払った。
(俺が歳下だからってのもあると思うけど……多分、男性相手に全部奢ってもらうのは嫌なタイプなんだろうな)
そう思うと、勇夢の中で更に千沙都への好感度が上昇した。
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