第8話 実はお互いに?

(……俺、普段通りの顔をしてるか?)


千沙都と合流した勇夢はデートのメインの場所である吉祥寺の商店街に向かう途中、ずっと心臓がバクバクとうるさい鼓動が鳴りっぱなしだった。


元々千沙都という可愛い系が好みの男性でも、一度はこんな女性とデートしたいと思わせる美しさとクールさを持つ女性とデート出来るという事実に……先日の夜から鼓動が高鳴っていた。


そして、いざ千沙都と待ち合わせに合流すると……目の前には良い意味で予想を裏切る服装で登場した千沙都がいた。


(もっと恋愛経験してれば、道中までの会話も上手く出来たのかな……)


自分でも、生まれてから高校一年生までの間に多くの恋愛経験を積むなど、無理なことは解っている。


容姿、性格、トーク力。

それらのどれもが特筆しておらず、平均より上なのは身長のみ。

確かに身長というのは女性にモテる上で、それなりに重要な要素かもしれないが、勇夢では他の要素が色々足りなかった。


もっと恋愛経験を積んでいれば、上手く千沙都をリード出来たかもしれない。

そう思う反面、実は初めてのデート相手が千沙都で良かったと思う部分があった。


勇夢がそんな二つの思いで緊張バクバクな状態でいる中、千沙都は千沙都で少し緊張感を持っていた。


(生徒や先生方にバレない為とはいえ……本当に似合っているかしら?)


デート相手である勇夢は変に捻ることはなく、真正面から可愛いと伝えてくれた。

その点に関しては、こういった服装を着ても変に思われないという自信を貰った。


しかし、普段から可愛い系の服を着ないので、時間が経てば他者から今の自分はどう思われてるのか……そういった部分が気になってしまう。

加えて、異性と二人っきりでデートをするのは勇夢が人生で二人目の相手。


学校内で竜弥とハグしている写真を撮られ、それを脅しの材料に使われて仕方なくデートを行う事になったとはいえ……ガキ相手に緊張する必要はない。

なんて鋼のメンタルは持っていなかった。


(私の方が歳上なのだから、やっぱり私がデートのプランを考えるべきだったかしら?)


色々と考え込んでいる状況は一緒だが、そこは勇夢と違って成人している大人の女性。


考え込んでいる胸の内が顔に出ることはない。


「ち、千沙都さんは休みの日……何してるんですか」


気になってた人とのデートが始まったにも関わらず、無言の時間が辛くなった勇夢はせっかくの機会なので、気になる正体面の相手に訊きがちなボールを投げた。


「そうね、休日は……知っていると思うけど、女バスの顧問をしているから、体育館で女バスの皆と上手くなる為に練習をしてる日が多いわね」


「そ、そういえばそうでしたね」


千沙都が女バスの顧問をしているという情報は、当然頭の中に入っていた。


(運動部の顧問をしてたら、休日も学校にいるのが当たり前だよな……クソ、質問をミスったな)


返答が分かっていたにも関わらず、話が続かない質問をしてしまったことを悔いる。


「ただ……丸々休みがある日でも、体を動かしている時が多いわね」


「そうなんですね。体を動かさないと、ムズムズする……感じですか?」


「ムズムズする……体を動かすことが習慣になっているから、そういった感覚で合ってるかしら」


だが、意外にも一言二言で会話は終らず、有難いことに会話のキャッチボールは継続中。


「鳴宮君も……それなりに一定間隔で体を動かしてるのかしら?」


「え、あ、はい。そうですけど……なんで分かったんですか」


「これでも長い間スポーツを続けてきたのよ。少し体つきを見れば、日常的に運動してるかしてないかぐらいは、解るようになるの」


「す、凄いですね」


「そんなことないわよ……もしかして、筋トレが趣味なの?」


「い、いえ。そういうわけではありません」


体を動かすことは特に嫌いではないが、趣味とまではいかない。


「? そうなのか。その割には、それなりに鍛えてるように思えるのだけど……」


「その……中学の頃は運動部に入ってたんですけど、やっぱり運動部に入るとご飯を食べる量って増えるじゃないですか」


「えぇ、そうね。それはとても共感できる」


自分の体はもしやおかしくなったのか?

学生時代、そう思ったことがあった千沙都だが……しかし真面目に体を動かせば、普段よりは腹は減ってしまう。


そうなれば、食事の量が増えるのは必然だった。


「俺……父さんの弟……おじさんが結構太ってるんですけど、本人から空量が増えて運動しなくなったらこうなるぞ! って言われたんですよ」


「……間違いない事実ね」


世の中には食べても全く太らない、摩訶不思議な人もいるが、元々運動部に所属していた者が運動を止め……食べる量が変わらなければ大体同じ流れを辿ることになる。


「そうはなりたくないんで、部活を止めてからも適度に運動だけは続けてるんです」


「そうなのね……とても良い習慣じゃない」


趣味ではないが、適度に運動を続けている。

それを実践できている勇夢に対し、千沙都は人として若干好感度が上がった。

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