第7話 無駄に背伸びをせず
千沙都から空いている日時を教えてもらった日から勇夢は考え続けた。
恋愛経験ゼロならが、どうすれば良い感じのデートに出来るか……暇な時間は全てそれを考えることに費やした。
そして解ったことが一つ……今の自分が無理をして、千沙都のような社会人が楽しめるレベルのデートを行おうとしても、意味なしということ。
お金に多少余裕がある勇夢でも、そんな大人なデートを何度も続けていれば、直ぐに懐がすっからかんになる。
それに、頑張って大人なデートを実行しても、それを千沙都がどう思うのか……ここが一番のポイント。
勇夢の予想では、自分が頑張って大人っぽいデートプランを考え、実行したとしても千沙都からすれば子供が頑張って背伸びしている様にしか思われない。
という結論に至った。
頑張って無駄に色々考えても、特に好感度がプラスにならず、大金が懐から消えていく。
等々を考えた結果、身の丈に合ったデートプランを選ぶことにした。
そして人生で初めてのデート当日……勇夢は約束の時間の三十分前に待ち合わせ場所の吉祥寺駅にやって来た。
「……あぁ~~~~、やっば」
当日に千沙都からデートをドタキャンされることなく、遂にデートの待ち合わせ場所に到着。
ちなみに勇夢は暗めの色をメインにしたTシャツにデニムとパーカー着ており、軽く変装程度に伊達メガネを付けている。
本当は新しい服を買い、もう少しファッションに気を使った格好で来ようと思っていたが……ここも変に背伸びしない方が良いという意見に落ち着き、現時点で持っている服を選んだ。
ただ、伊達メガネだけは持っていなかったので、お手頃値段の物を購入。
(初めて伊達メガネを付けたけど……存外悪くない感じか?)
スマホで自身の顔をチェックし、個人的には悪くないと思っているのだが……他人からの評価がないので、実際のところ良いのか悪いのか分からない。
これ以上無駄に考えても仕方ないと思い、勇夢はスマホを弄りながら千沙都が到着するのを待った。
そして千沙都から今到着したというメッセージが届き、自分も到着したという報告と、自身の服装を簡潔に伝えた。
すると、前方から一人の女性が勇夢の方へと近づいてきた。
「鳴宮君、よね」
「あ、はい……く、九条先生、ですよね」
勇夢に声を掛けてきた女性は、当然デートの約束をしていた千沙都。
だが、服装がかなり明るめであり、上はTシャツにカーディガンを羽織り……下はなんとスカート。
勇夢の予想とは大幅に違った服装スタイルだった。
(いや、ちょっと待って……可愛過ぎないか? もっとこう、ストリート系? もしくはカジュアル系な感じの服装で来るのかと思ったけど……てか、さりげなくベレー帽を被ってるのも良い)
普段の千沙都からは考えられない服装スタイルであり、とても眼福状態。
「えぇ、そうよ……やっぱり、おかしいかしら」
「い、いえ。そんなことないですよ……なんというか、その……良い言葉が出てこないんですけど、凄く可愛いと思います」
良い言葉のチョイスが思い付かず、物凄く単純な褒め言葉しか出てこなかった。
だが、真正面から凄く可愛いと言われた千沙都は悪い気はしておらず、こういった服装も自分に合うのだと知れて良かったと思った。
ただ、今回可愛い系の服装を着てきた理由としては、勇夢が伊達メガネを付けた内容と同じ。
学校からはかなり遠い場所が今回のデート場所となったのでホッとしたが、休日なので生徒たちが吉祥寺まで遊びに来る可能性が決してゼロではない。
というわけで、普段はまず着ない可愛い系の服を中心に着た。
こういった服装スタイルは恋人である竜弥も見たことがなく、過去にも可愛い系の服を着たことが殆どないので、勇夢が初めて見た……かもしれない。
「あ、ありがとう。鳴宮君も似合ってると思うわよ」
「あ、ありがとうございます」
お互いの服装を褒め合った後、少しの沈黙が続いたが、意を決したように千沙都が先に口を開いた。
「鳴宮君。こういった場で先生という言葉を使うと、周囲の人に変な誤解を与えるかもしれないから、先生呼びは止めてくれるかしら」
「わ、分かりました。えっと……千沙都さん、で良いですか?」
「……そうね、それでいきましょう」
あまり恋人である竜弥か、同性の友達以外には下の名前で呼ばれたくないのだが、自分の方が立場が悪いと自覚しているので、却下せずに千沙都さん呼びを受け入れた。
そして遂に勇夢の人生初のデートがスタートした。
勿論、浮気関係なので千沙都の手をそ~と握る…………度胸はさすがになく、普通に横並びで食べ歩きへと向かった。
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