第6話 理由がない
千沙都にお誘いのメッセージを送った翌日の朝、勇夢がスマホを開くと……千沙都から返信が来ていることが確認出来た。
一瞬で眠気が吹き飛んだ勇夢は急いで内容を確認。
メッセージ欄には、この日であれば空いているという日にちが書かれていた。
ただ、注意書きとして夜九時までには必ず帰宅すること、という注意書きが記されていた。
「はは! いかにも先生らしい注意だな」
勇夢もまだまだ泊りで何処かに行こう、なんて大体なことは考えておらず、そんな事を考えようものなら頭がショートしてしまう可能性がある。
「さて……お誘いのメッセージを送ったのは俺だし、デートの内容は俺が考えないとだよな……」
恋愛経験どころか、今まで女の子と一緒に遊んだことがない勇夢にとっては大きな試練の一つ。
お金に関してはお年玉などの大きな貯金を自由に使えるタイプなので、使うお金に関しては問題無いが……中々パッと良いプランが浮かばない。
「……時間はあるし、ゆっくり考えるか」
焦っても仕方がないと思い、一先ずいつも通り制服に着替えて朝食を食べ、学校に遅れない時間程度までのんびり過ごし、出発。
学校に着くまで周囲を注意しながらスマホで高校生のデートプランを調べるが、あまりどれもピンとこない。
(どうせならディ〇二―ランドでも行くか? ちょっと出費が大きいけど、ある程度誰でも楽しめる場所だし、デート場所としては悪くないような……あっ、でも九条先生が空いてる日は休日だし、結構混んでるよな)
人が異常に集まるシーズンこそ過ぎているが、休日になれば多くの人が集まるデートスポットの一つ。
(それに、噂だとディ〇ニーでデートするカップルって別れる確率が高いって聞いたけど……いや、そもそも俺と九条先生はカップルじゃないし、そこは気にしなくても良いか)
勇夢と千沙都の関係はカップルではなく、浮気関係という特殊な状態。
確かにディ〇二ーにデートしに行っても、別れるかどうかはあまり関係無いかもしれない。
ただ、それでも休日に行けば混んでいるという状況は変わらず、アトラクション一つ乗るにも時間が掛かる。
(……うん、やっぱりディズニーをデート場所にするのは止めよう。せめて九条先生との仲がマイナスからプラスになってからだな)
勇夢の選択肢からディ〇二ーという選択肢は消えたが、遊園地などのデート場所は悪くないなと感じた。
しかし学校に到着するまでには容易に決まらず、いつもの様に自分の席に到着するとスマホを弄り始めた。
すると数分後に高校では数少な勇夢の友人が教室に到着し、声を掛けてきた。
「よう、勇夢」
「
勇夢出身中学が同じであり、元部活のチームメイトだった
キャラ的には勇夢と違って陽キャよりのタイプだが、かなり漫画が好きといった点で気が合い、高校に入ってからも仲は良好。
ただ、勇夢と違って中学で行っていた部活を高校に入っても続けていた。
「なんか……疲れた顔してるな」
「そりゃそういった顔にもなるよ。勇夢も中学はバスケやってたんだし、この苦労は分かるだろ」
「ははは。まぁ、それは確かに深く分る部分だな」
勇夢は中学生の頃、バスケ部で以外にもスタメンであり、試合でも割と活躍していた。
だが、チームの総戦力があまり高くなく、中学時代はあまり良い成績を残せなかった。
「……勇夢は、高校ではもうバスケをしないのか?」
「そうだな……バスケは中学でやり切ったというか、疲れたというか……高校では多分やらないと思う」
走る競技なので、練習でもかなり疲れる。
特に日常的に行いたい趣味がある訳でもないので、時間的にはバスケ部に入っても余裕はあるが……今のところ、あの疲れるスポーツをガチでやる理由がない。
「そっか……つかさ、俺が疲れた顔をしてる割には、勇夢は結構楽しそうな顔してなかったか?」
「そうか?」
「そうだよ。なんか、最近では珍しく楽しそうな表情をしてたぜ」
千沙都からのメッセージが返ってきたという事もあり、勇夢の表情は僅かながら緩んでいた。
小さな変化ではあるが、中学の三年間いつもつるんでいた桃馬は直ぐその変化に気付き、その心情が気になった。
「確かに、良いことはあったな」
千沙都からメッセージが返ってきたことは、確かに勇夢の中で嬉しい出来事だった。
「おっ、マジかよ。どんなことだ?」
「……それは言えないかな」
「おい、なんだよそれ」
おいそれと他の者に言えないので、必然的に言葉を濁すしかなかった。
その後も桃馬と他愛もない話をしていると、ホームルームの時間になり……勇夢の浮気相手である千沙都が到着した。
千沙都が教室に入ってから……一瞬ではあるが、それでも二人はばっちり目が合った。
だが、直ぐに二人とも同じタイミングで目を逸らした。
(今まで本当に綺麗だって解ってたけど……一瞬でも目が合うと、段違いで綺麗に感じるな)
朝から胸をドキドキさせながら、そのまま千沙都が担当する授業が始まると、授業が終わるまで勇夢はずっとドキドキしっぱなしだった。
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