第14話 体罰? しかし……

図書室のドアを開け、中へ入り……桃馬の後に付いて行くと、一つのテーブルに複数の生徒が座っていた。


(えっ、なんで?)


確かに同じクラスメイトたちが椅子に座って、既に自習に取り組んでいる。

ただ、その傍に何故か……千沙都がいた。


「あ、きたきた」


「すまん、便所行ってたら遅れた」


二人に気付いた人物は、阿久津竜弥。

そう……千沙都の幼馴染で恋人である同級生。


「こいつは知ってると思うけど、俺のダチの勇夢だ」


「よろしく」


「うん、よろしく!」


いたって良い笑顔で挨拶してきた竜弥に対し……勇夢は「モテそうな面と性格してるな」と率直に思った。


そんな中、勇夢の登場に生徒たちの分からない部分を教える為のポジションとして、同じテーブル内に座っている千沙都の表情が少し崩れた。


(す、すいません)


予定なしでいきなり登場した勇夢は、心の中で千沙都に対して謝罪した。


今この場には男子高校生と誰にも言えない関係を持っている美人教師と……二人の関係が決定的となる写真を使い、ある意味誰にも言えない関係を美人教師と持った同じく男子高校生がいる。


どう考えても歪な三角関係? が何故か図書室で完成したが……あまりこの場でチラチラと千沙都に目を向けるのはよろしくないと思い、勇夢は問題集を広げて数学の問題を解き始めた。


(参加してる女子は陽向結月ひなたゆづきを筆頭とした女バスの面子……やっぱり容姿が整ってるな)


女バスの面々だけではなく、竜弥を筆頭に男バスの面々もそれなりに整った容姿を持ち……凡な勇夢としては少々場違いなのではと思ってしまう。


ただ、今は秘密の関係を持つ千沙都が近くにいるということもあり、家で勉強するよりも集中力が高まっていると自分でも解り、かつてないほどの問題を解き、言葉を覚える為の手が止まらない。


「勇夢……お前、そんなに勉強が好きだったのか?」


「へ?」


図書室の中でも迷惑にならない程度の声量で桃馬が勇夢に尋ねた。


「いや、だって凄い集中力じゃねぇか」


桃馬の言葉に、勉強会に参加している面子は全員同意するように頷いた。

自習を始めてから三十分ほどが経過したが、その間勇夢は一度たりともシャーペンを放さず問題を解き、覚えていない単語をノートに書いて頭に詰め込んでいた。


「そうかもな。でも、別に勉強が好きって訳じゃないぞ。ハッキリ言って将来役に立たない知識ばかりだろって思ってるし」


「お、おぅ。だよな」


千沙都の様に教師の道に往くならば話は別だが、勇夢的にはそれ以外の道に進むのであれば……正直、殆どいらない知識だと認識している。


「ただ、テスト前にあたふたしたくないからな。それに、成績表が良ければ推薦で大学にいけるかもしれないし」


受験しないで済むのであれば、それが一番。

そんな勇夢の考えに……桃馬たちは深く同意した。


「確かにその気持ちは良く解る。でも、それにしたってすごい集中力だよなって思ったんだ」


「……俺は桃馬たちみたいに部活に入ってないからな。なのに赤点とか取ってたら、馬鹿過ぎるだろ」


赤点という言葉を聞き、何人かの生徒が身震いした。


「そうだな。赤点は取らない事に越したことはない」


ここで初めて千沙都が生徒の質問に答える以外で、口を開いた。


「言っておくが、女バスでは赤点を取った生徒はテスト期間が終わっても、一週間は部活に出られない。男バスは確か坊主だったか?」


「「「「ッ!!??」」」」


赤点を取ったら坊主を強制……それは体罰なのではないか? と思うかもしれないが、普通にテスト勉強をしていれば、赤点を取ることはまずない。


勇夢たちが通う高校での赤点ラインは三十点。

圧倒的な低さだ。


人によっては苦手科目というものがあるだろう。

しかし、それでも三十点も取れないのはさすがに勉強不足が過ぎる。


「坊主か……坊主は嫌だな。まっ、俺は関係無いけど」


男バスと女バスも練習自体はきっちりと行っているが、練習が終わる時間は遅くない。

故に、帰ってから家で勉強する時間は普通にある。


勿論、テスト一週間前になれば部活は休み。

その間に復習を行い、ノートを見返しておけば……まず、赤点は取らない。


とはいえ、そこは高校生。

欲の対象となる物が多い。


勇夢が好きなゲームもその一つ。

一年生の中には入学早々恋人を作り、部活がないテスト一週間前の時間を使ってデートに行く者もいる。


今の勇夢たちのように友達と集まって勉強する生徒たちもいるが……気付けばお喋りタイムに突入し、三十分も勉強してない……なんて結果はザラ。


「クソ、坊主は嫌だぜ。俺も頑張らねぇとな」


千沙都からもし赤点を取った時の罰を聞き、男バスの面子たちは目の色を変えてテスト勉強に取り組む。


とはいえ、元々勉強が得意ではない者が多く、直ぐにギブアップして千沙都に質問する者が多かった。


(……俺も少しぐらい話したいけど、この状況だと上手く話せる自信がないし……下手な猿芝居は止めとこう)


相変わらず黙々と問題集を解く勇夢だが……自分以外の男子が千沙都と近い距離で話す。


この事に関して恋人である竜弥はどう思っているのか。

それだけが少々気になった。

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