第15話 勇夢には解らない
(俺が阿久津の立場なら、どう考えてもイライラする。それが顔に出るか出ないかは置いといて、とりあえず苛立つのは間違いない)
恋人が同級生の男と話している。
恋人にその気が一切なくとも、話している同級生は少々鼻の下が伸びている。
疑う訳ではないが……もしや、と勇夢であれば考えてしまう。
だが、竜弥は目の前で千沙都と同級生の男子が話したところで、特に苛立つことはなく……いつも通りの平常心を保っている。
理由は……歳の離れた幼馴染から、恋人へと関係が変わった。
これが最も大きな要因であり、そういった存在がおらず……まともに恋愛をしてこなかった勇夢には解らない感覚。
他にも自分という存在にある程度自信を持っている、自分が一番千沙都のことを想っているなどの理由もある。
ただ、竜弥が千沙都と恋人関係になるまで、歳の離れた幼馴染という関係が一番の壁だった。
同年代の幼馴染ではなく、歳の離れた幼馴染。
千沙都の方が歳上であり、普通に考えれば竜弥は弟の様な存在としか思えない。
そこをどう乗り越えれば良いか……竜弥は自分の千沙都に対する想いを自覚してから、何度も何度も考えた。
どうすれば、どう接すれば自分の想いが伝わるのか……そして歳の離れた幼馴染という関係を乗り越え、恋人になれるのか。
頭がパンクしそうなほど考え続けた。
そして数か月前……ようやく、その関係を乗り越えることが出来た。
その経験は竜弥にとって大きな経験となり、自信にもなった。
(やっぱり顔が良くて、自分に自信を持てる部分が多いからか?)
そんな苦難を乗り越えた竜弥の気持ちを、まだ何も乗り越えていない勇夢が解る訳がなかった。
「そろそろ時間だな」
生徒の質問に答える。
それは教師として大事な仕事だが、教師の仕事はそれ以外にもある。
直近の仕事でいえば、今回勇夢たちに解いてもらうテスト問題の制作。
難し過ぎず、簡単過ぎず……丁度良い難易度の問題をつくらなければならない。
「テスト勉強を真面目にするのは教師として嬉しいが、頑張り過ぎて授業中に寝ないようにな」
残っている仕事を片付ける為に千沙都は職員室へと……少々重い足取りで向かった。
「はぁ~~、こんなにマジで勉強したのは……受験の時以来かもな」
「つい最近だな。なら、これを続けられるように頑張ったらどうだ」
「そりゃ引退するまで無理な話だ。部活後に勉強するのがどれだけ辛いか、勇夢だって解るだろ」
「まぁな」
その辛さは切実に解る。
中学時代は本気で部活に取り組み、朝練にも欠かさず参加していた。
「鳴宮君って、もしかして中学時代は部活入ってたの?」
「勇夢は中学の時が俺たちと同じで、がっつりバスケに夢中だったんだぜ」
桃馬の言葉を聞き、残っている全員が目を見開いて驚いた。
ちなみに今疑問を尋ねたのは陽向結月。
女バスの中では期待のルーキーであり、ポジションは竜弥と同じポイントカード。
可愛いアイドル系の容姿を持ち、髪型は動きやすさを重視したショートボブ。
そこにスタイルの良さと元気な性格が加わり、既に同級生では狙っている男子が多数存在し、上級生からも注目されている。
「へぇ~、ならなんで男バスに入ってないの」
美少女に真っ向から見つめられ、思わずどもる勇夢。
しかし、なんとか言葉を振り絞り、部活に入らなかった理由を口にした。
「バスケを嫌いになったわけじゃないけど、あんまり部活っていう縛りの中でやるのが嫌になったというか……そんな感じかな」
「あぁ~~、その気持ち解らなくもないな」
勇夢の高校で男バスに入らなかった理由に、桃馬や竜弥と同じ男バスの部員が同意。
友達である桃馬もその気持ちが解らなくもなかった。
「……勿体ないね。俺だったら、そんな身長があれば部活に入らないって考えはないよ」
「お、おう。そうか」
竜弥から敵意が籠った眼……ではないが、少し棘のある意志が籠った眼を向けられ、たじろいでしまう。
竜弥は身長が百六十二センチ、特別小さいという訳ではないが、決して大きくもない。
部活という環境が好きということもあり、あまり勇夢の考えは理解出来なかった。
「なぁ、またこの面子で勉強会しないか? 個人的なあれだけど、一人でやるより竜弥たちと勉強してる方が捗るしさ」
「良いね。またやろっか。赤点取って坊主になりたくないしね」
こうして本日の勉強会はここで解散。
校舎を出た後は、各々の面子で帰る。
「……なぁ、俺ってなんか……阿久津の地雷でも踏んだか?」
「えっ? えっと……あれは勇夢があ悪い訳じゃねぇけど、確かに地雷を踏んだかもしれないな」
一見、欠点が無いように思える竜弥だが、若干可愛い系の容姿とあまり身長が高くないのがコンプレックスであり、勇夢は間接的にとはいえ、そこを突いてしまった。
「竜弥って結構マジでバスケに取り組んでるんだよ。ポジションはポイントカードだけど、まだまだ身長を伸ばしたいと思ってるらしくて、色々と試してるみたいだぜ」
「なるほど……それで、部活に入ってもいないのに、そこそこ身長が高い俺が憎いと」
「憎いかどうかは知らねぇけど、なんでこいつはそんなつまらない理由で、バスケを部活で続けなかったんだ……って、思ってるかもな」
人気者の突っついてはならない部分を知り、的にならない為に勇夢はその内容を記憶に刻んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます