第3話 光の球

「ラルフッ」


 ステラは、ラルフの元に駆け寄った。

 相変わらずラルフは身動きひとつしない。


 ―聖なる青い風も、虹の光もラルフには届かなかった。


 ラルフを救いたかったのに、、、。  


 ステラは無力感でいっぱいだった。


 うっ、うぅぅ、、、。


 ステラは悲しみに暮れながら、目の前に横たわるラルフの体に手を触れた。


 切なさに溢れながら、真っ赤に染まったラルフの背中を撫でると、、、。

 

 ―!、、、温かい。


 予想に反して、ラルフの体は温かかった。


 ―ラルフは生きている!


 ステラはしばらくの間、ラルフの体に手を触れたまま、体から伝わる温もりを感じていた。


 ―よかった、、、。


 ステラのハートに失われていた光が灯った。

 そしてラルフの体から伝わる温もりは、ステラの中に残っていた憎しみや悲しみを溶かしてくれた。


「ラルフ、生きていてくれて、ありがとう」


「ラルフが生きてるでちって?ほーら、あたちが言ったとおりでち。死ぬわけがないでちよ。ラルフはオオカミのリーダーでちよ。フフフフン」


「そうさ。だってラルフお兄ちゃんは強いんだもん。生きてて、、、よかった。グスン、グスン」


 憎しみや悲しみがすべて溶け出して、ステラのハートが愛と癒しで満たされた時、ステラはファントームとしての力を取り戻した。


 ステラのハートに灯った光は、熱く大きな塊となった。


 その塊は、ステラがかつて感じたことがないほどの、強い愛と癒しをステラにもたらしてくれた。


 ステラは光の球に意識を集中し、その光の球を両手に取り出した。

 万華鏡のように、目が眩むような光を放つその球を、ステラは、目の前のラルフに向かって放ったのだ。


「ラルフッ」


 シュルルルルルッ。


 光の球は、そのままラルフの体に吸い込まれ、ラルフの全身へと広がった。


 強い愛と癒しがラルフの全身を包み、ステラたちの目の前で、ラルフの傷は、みるみる塞がっていった。


「ラルフの傷が、どんどん小さくなっていくでちよ」


 シエルが興奮してラルフの上を飛び回った。


「やったー。ラルフお兄ちゃんの傷が治った。もう大丈夫だね」

 

 ブランもはしゃいでいる。


 そして、、、。


「うっ、、、うぅぅっ、、、」


 光が消滅するのと同時に、ラルフが意識を取り戻した。


「ラルフっ」

「ラルフお兄ちゃん」


 ステラとシエルとブランが同時に叫んだ。


 あれほど出血していた傷口はすっかり塞がり、もう跡形もなかった。


「ラルフ、良かった、、、」


 ステラがラルフの首に抱きついた。


「ステラ、、、?えっ、、、お、重いよ」

 

 ラルフの目に映っていたのは、つい目が覚める前までのステラの姿ではなかった。

 ラルフは戸惑いながら、もう一度、


「ステラ?」


 と尋ねた。


「ステラは変身したでちよ。腕輪が光って、風が吹いて、花に触ったら、大きくなったでちよ」


「ステラ姉ちゃん、変身したんだよ。あの崖の上までピョンピョンて、行けるんだ。すっごいんだよ」


 シエルとブランが口々に言った。


「腕輪、、、?ああ、そうだったのか」


 ラルフはそう言うと、まだ少しよろけながら立ち上がり、美しく花が咲き乱れる景色を見渡した。


「、、、愛が勝ったんだね、ステラ」


「ボクは、何もできなかった」


 ラルフがポツリと言った。


 ステラは、そう言ったラルフの気持ちを思うと、切なさで胸が苦しくなった。

 何もできなかったなんてことはない。

 ラルフは自分の身を捨てて、ステラを助けてくれたのだ。


「そうじゃないわ、ラルフ、あなたは勇敢だったわ」


 そしてもう一つ、ラルフに言わなければいけないことがあった。

 

「グラフとビッグベアは、竜巻で飛んで行ったの。でもね、、、」


 ステラが言葉に詰まると、ブランが続けた。


「お父さんが、沼に沈んじゃったんだ、、、」


 ブランの声は、涙で震えていた。

 シエルも沈んだ様子で、パチクリと瞬きを繰り返している。


「そうか、グラフのヤツめ、、、」


 ラルフが悔しそうに呟いた。


「ねえ、ボクも一緒に連れて行って。いつかあいつを倒してカタキを取ってやるんだ」


「ブラン、ダメよ、危な、、、」


 ステラの言葉が終わらないうちに、ラルフが言った。


「よーし、いいか、ブラン。殺るか殺られるかだ。それでもいいんだな。」


「うん、いいよ」


 ブランはラルフに抱きついた。


「フフッ、それに、ボクたちにはステラがついてるから大丈夫さ」

 

「えっ?」


 ステラは驚いてラルフを見返した。

 

「わたし、、、?」


 ラルフもシエルもブランも、みんなが頷いてステラを見ている。


 そこにいるのは、つい少し前までの、妖精のような儚さを纏った、ファントームのステラではない。


「〝ステラは森を救う”、あの予言は本当だった。キミはきっと森を、いや、地球を救うんだ」


 そのためにステラは、戦士と呼ぶにふさわしい肉体に生まれ変わったのだと、ラルフは思った。


「とにかく行こう」


 ラルフの言葉で、今度は四人になって、ファイヤースターを見つける旅を始めた。

 

 

 

 

 

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